覚醒(ヴァン視点)
農奴契約とは一体何だ?
その答えをお嬢様に求めた。
暫く黙考したお嬢様は、渋々説明を始めた。
「農奴契約というのは、私の農業を手伝う人になってもらう為の、スキルによる契約よ。その際、能力が向上する恩恵を受けられるだけ」
簡潔な説明だったが、聞き捨てならなかった。
先程の少女が見せたものは、能力の向上なんていう生易しいものじゃ無かった。
敢えて言うなら、『覚醒』だ。
呪いを浄化出来る程の聖魔法を、ただの契約だけで一瞬にして身に付けたのだから。
お嬢様のスキルがそれ程のものならば、国内どころか世界中から狙われるんじゃないか?
ヤンとマーも先程の口振りだと、農奴契約しているのだろう。
幼いながらも、あれだけの強さを持ち合わせている事に合点がいった。
ヤンとマーがお祖父様と訓練しているのを見た時は、あまりの才能に嫉妬した程だ。
待てよ?
つまり、俺も農奴契約したら『覚醒』出来るという事か?
農業を手伝うだけで能力が向上するなら、全然有りだ。
「お嬢様、農奴契約に関してデメリットはあるのですか?」
「んー、特に無いかな? たぶん私に逆らえなくなるんだろうけど、私は無体な命令とかしないからほぼデメリットは無いよ」
デメリット無しでパワーアップとか、何だそのぶっ壊れスキルは?
しかし、お嬢様に逆らえなくなるのか……。
護衛としてはお嬢様に諌言せざるを得ない場面もあるだろうし、そう考えると拙い気もするな。
いやよく考えたら、そもそもお嬢様は俺の諌言を聞き入れた事なんて無かったわ。
じゃあ、別にいいか。
『魔眼』スキルは有用だが、戦闘能力としては少々物足りないと思っている。
だから俺は、常々パワーアップする方法を考えていた。
異世界から来た者が書いた書物も数多く読んだ。
それによれば、魔眼には多くの種類が有るらしい。
その中でも、俺の心を引きつけて止まなかったのが『写○眼』だ。
ひょっとしたら農奴契約を結ぶ事で、俺の魔眼も『覚醒』して『写○眼』になるかも知れない。
俺は覚悟を決めた——。
「お嬢様、俺にも農奴契約してください!」
「う、うん。そのうちね……」
「え? そのうちって何時ですか? ちょっと目を逸らさないでくださいよ」
その後、少年の方とも農奴契約したのに、結局俺とは契約してくれなかった……。