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異世界召喚(橙矢視点)

 俺の名は窪田くぼた 橙矢とうや

 特に取り柄も無い普通の高校生だったんだが、ある日突然異世界に勇者の一人として召喚された。

 勇者とは言っても称号等がある訳ではなく、異世界からの召喚者をそう呼んでいるだけだった。

 召喚された勇者は俺の他に三人。

 一人は俺と同い年の黒髪ロングの美少女、 伊石いせき あおい

 他の2人も黒髪なので同郷だと思うが、本名は教えて貰えず、グラスとメリーと名乗っていた。

 なんかゲームで使ってたアバター名なんだとか。

 俺もゲームはやるけど、自分自身で名乗るのはちょっと抵抗があったので本名で呼んで貰う事にした。

 それは蒼も同じだったようだ。


 そして召喚者には例外無く強力なスキルが与えられる。

 俺のスキルは『成長促進』だった。

 ちょっとガッカリした……。

 まぁ他人よりレベルが上がりやすいってのは、それなりにチートなのかも知れないけど、もっと派手な攻撃魔法とかの方が良かったなぁ。


 蒼のスキルは『聖魔法』。

 他の2人は何故か秘匿して教えてくれなかった。

 同じ召喚者なのだから、情報は共有した方がいいだろうにと思ったんだけど、今にして思えばあいつらは最初から仲間だなんて意識は無かったような気がする。

 当然ながら、そんな奴らと反りが合う訳が無かった。

 彼らの、ゲーム感覚というか、この世界の人達の事を人とも思って無いような傍若無人さが目について、度々衝突する事となった。

 逆に蒼とは仲良くなっていったけど。


 結局、彼らとは最終的に決裂してしまった。

 それは俺達を召喚した国であるヘネロブテラ帝国が、隣国であるベジティア王国への侵攻を考えていると聞いた時だった。

 勇者という呼び名から、人類の敵との戦いを想定していたんだが、実際は他国への侵略の為の駒だったのだ。

 俺と蒼は反発したが、他の2人は嬉々として名乗りを上げた。

 俺は蒼と一緒に、この国を出ようと決意し、森に逃げ込んだ。

 しかし、運悪く見つかってしまい、深手を負ってしまう。

 奥の手として用意していた魔導具で距離を取れたが、俺の傷が深くて、あと一歩のところで追いつかれてしまった。


 もうダメだと思い、なんとか蒼だけでも逃がそうと思っていたところで、不思議な少女が現れる。

 どうみても前の世界で見たアニメの魔法少女のような服装の女の子。

 何故こんな魔物が彷徨く森の中にそんな子がいるのかと混乱したが、その子は見た目からは全く考えられない程強かった。

 俺達を追ってきた2人、グラスとメリーは性格は最悪だが、強さは本物だ。

 俺の『成長促進』なら将来的に追い抜ける可能性はあるが、戦闘の才能は圧倒的に向こうの方が上だった。

 しかし女の子はその攻撃を受け止め、どうやったのか相手の懐にまで潜り込んだりしている。

 まだ小さいのに、戦闘センスは目を見張るものがあった。

 もし味方であれば、蒼だけでも助けて貰えるよう頼みたいと思った。

 俺の傷は蒼の回復魔法も受け付けず、どんどん体力が奪われていき、意識が朦朧としてくる。

 このままじゃ拙いと思い、蒼に逃げるように指示しようとしたが、突然女の子が俺と蒼を掴んだ瞬間、景色が一転した。


 一瞬前まで森の中に居たのに、突然戦艦の司令室みたいな場所に移動したのだ。

 そもそもここは異世界の筈なのに、前の世界ですら見る事が無かった光景に唖然とした。

 だが、血を流しすぎて朦朧としている俺には、もうそれが何なのか思考するのもままならなかった。

 そこに付け入るように、女の子は蒼を奴隷にすると言い出した。

 ダメだ——。

 もう助かりそうにない俺のせいで、蒼に辛い人生を歩ませる訳にはいかない。

 俺は何とか蒼に思い止まらせたかった。


 しかし結局蒼は女の子の奴隷になってしまった。

 絶望感が押し寄せる。

 ところがその後、奇跡が起こる。

 蒼の聖魔法が強化され、俺の傷がみるみるうちに完治してしまったのだ。

 何が起こったのかは全く理解出来なかった。

 頭を過ぎったのは、ファンタジー世界は何でもありか?という疑問だけ。


 後でよく話を聞いてみると、蒼は奴隷とは言っても農業の手伝いをするだけの『農奴』になったのだと言う。

 違いがいまいち分からなかったが、労働条件等は前の世界と比べてもかなり好条件のように思えた。

 もっとも俺は社会に出てないから、殆ど聞きかじった程度の知識しか無いけど。

 そして、蒼は牛の世話をするように言われていた。

 当然ではあるが、蒼に命を救われておいて、俺だけ普通の生活を送ろうなんて思えなかった。

 俺も女の子に頼み込んで、蒼と一緒に『農奴』になって牛の世話をさせてもらう事になった。


 ただ、話はここで終わらなかった。

 農奴になった瞬間、俺の体が輝きを放ち、溢れんばかりの力が湧き出てきたのだ。

 そういえば蒼もさっき、何か光ってたな。

 そして、俺の中に『勇者』の称号が現れたのが感覚的に分かった。

 後程、蒼にも確認したら、蒼は『聖女』の称号が現れたらしい。

 農奴になった俺達にそんなご大層な称号が生える意味って何だ?

 蒼と話し合ったところ、きっと俺達を救ってくれたこの少女の手助けをする為に現れたのだろう、という結論に達した。


 俺と蒼は誓った。

 もし、この少女——侯爵令嬢アグリ・カルティア様が危機に陥った時は、その力を存分に奮おうと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 成長促進に回復手段まで手に入れてしまったか もうお嬢様を止められるのは家族のみ(もともと)
[良い点] まったく間違ってないとは思うのだけど、困ったことに「え、これ勇者の力も聖女の力も使えるって事だよね。手が足りない、以外で助けを求める状況、あるの……?」みたいな気持ちしか起きないw
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