杖
おかしいな?
さっき見えた付近に転移した筈なのに、いないんだけど?
『ご主人様、既に移動したようです』
UUFOからの情報をスキルちゃんが送ってくれた。
結構移動速度が速いなぁ。
かなりの身体能力みたいだし、きっとただ者じゃないね。
森の中じゃ視界が木々に遮られちゃうから遠くまで見えないし。
ちょっと飛ぶか。
私は農奴スキル『重力』で、自分の体に掛かる重力のベクトルを上方向にして宙に浮いた。
木より高い位置に来たら、遠くで爆発が起きているのを確認出来たので、再度『瞬間移動』で近くまで飛ぶ。
今度こそ視認出来た——と思った瞬間、炎の塊が逃げていた2人に迫った。
「危ないっ!」
咄嗟に2人を庇う位置まで転移する。
そして農奴スキル『金剛』で炎の塊を上空へと弾いた。
木の枝を砕きながら炎の塊は上昇し、空で爆発する。
「だ、誰だ……?」
「誰っ!?」
突然現れた私の姿に、2人が驚いている。
そして直ぐに、敵意を込めた目をこちらへ向けて来た。
少女の方は少年を庇うように前に出て、木で出来た杖のようなものを私に向けて構える。
さて、一応怪我人の方を保護するつもりで来たんだし、話をしてみようかな。
「私には敵対する意思はありませんよ。事情次第ではあなた方を助けてもいいと思っています」
私の言葉に少女は瞠目する。
しかし、返事は別の方角から返って来た。
「そいつらを助けてもらっちゃ困るなぁ」
声のした方を向くと、フードを被った2人組が木の影から姿を現した。
そして奇妙なものを見たように声を発する。
「王国じゃそんな服が流行ってんのかぁ?」
「何こいつ? 王国の兵士か何か? えらい美少女だけど」
何だろう、この人達?
なんか妙な違和感があるんだけど……。
声からすると、血塗れの剣を持ってる方は男で、魔法使いみたいな杖持ってる方が女だと思う。
さっきから爆発する炎の塊を飛ばしてたのは女の方かな?
たぶん無駄だと思うけど、一応貴族として勧告はしておこう。
「今すぐ戦闘行為を停止しなさい。これ以上国境付近での戦闘を行うのであれば、対処せざるを得ません」
私の言葉を聞いても、当然の如く聞き入れるつもりは無さそうで、2人とも鼻で笑うだけだ。
「くくくっ、お嬢ちゃん、貴族ごっこは他所でやった方が良かったな。俺は子供相手でも容赦しねぇぞ」
「私らの姿を見られたからには消えてもらうしかないわね。食らいな!」
フードの女が杖を構えて魔法を放って来た。
先程と同じ炎の塊が私を襲う。
いや、私が避けると仮定して、後ろの2人を狙って放ったのだろう。
私は再び『金剛』を使って右手で炎の塊を弾いた。
「なっ!? 素手で弾いた!? さっき変な方角に飛んで行ったからおかしいとは思ったけど、嬢ちゃんが原因かい!」
フードの女はかなり動揺してるみたいだ。
うーん、私の方が魔法少女の格好なのに、杖持ってる向こうの方がそれっぽい攻撃してくるなぁ……。
やっぱ魔法少女なら、様式美として杖は欲しいよね。
買いに行く途中だったから、イマイチ魔法少女っぽくなくて物足りない。
杖って召喚出来るかな?
『その魔法少女スキルは、魔法(物理)タイプなので杖の召喚は出来ないようです。素手に魔力を込めて殴ってください』
スキルちゃんの説明に絶望する。
せっかく手に入れたスキルなのに、脳筋魔法少女だったんかい……。
まぁ魔力増えるし、コスプレも出来るんだから良しとしとく?
いやそれでも、なんかで杖の代用出来ないかなぁ?
杖っぽいもの……杖っぽいもの……アレがあったわ。
「『召喚』っ!」
光の粒子が右手に集まって、その姿が顕現する。
ただの召喚だけど、杖っぽいものを召喚すると結構魔法少女っぽいわよね。
柄部分は金属のパイプ。
先端には円形の刃、中心よりやや上には持ち手が付いている。
召喚したのは前世のお祖父ちゃんが毎日のように使っていた、農家御用達アイテム『草刈機』だっ!!
普通の草刈機は自転車のハンドルみたいな持ち手が付いてるけど、最近のはもっとスタイリッシュな輪の持ち手になってるものもある。
一見すると杖のように見えなくも……いや、完全に草刈機だった。
スイッチを入れると、円形の刃が回転するし。
「なんだありゃ?どう見ても草刈機じゃねーか……」
フードの男が困惑した声を出した。
見ての通り草刈機ですが、何か?
ってか、何で草刈機知ってんのよ?
私は一応、魔法少女っぽく草刈機を構えてみた。
魔法少女のコスした奴が草刈ろうととしてるようにしか見えなかった……。
王都に戻ったら絶対杖買おっと。
「ちっ、こっちものんびりしてられねぇんだ。邪魔するなら本気で殺すぞ」
フードの男が剣を振りかぶって私に襲いかかって来た。
私はそれを草刈機の柄で受け止める。
ギンッという金属がぶつかり合う音が周囲に響いた。
「な、何だこいつっ!? 見かけからは考えられねぇ力だ!」
私は『金剛』に加えて『魔法少女』の魔法(物理)を発動して腕力を上げまくっている。
普通の身体強化程度では押し切れない筈よ。
しかしフードの男は、力押ししてくるかと思いきや、剣を巧みに振って払い除けた。
性格的に力押しかと思ったのに、剣技の技量が凄い。
剣術系のスキルかな?
生産系スキルの私には、接近戦は分が悪いかも知れない。
そして続けざまに相手の剣の切っ先が、私の心臓を貫いた——ようにフードの男には見えただろう。
私は既に瞬間移動で転移して、フードの男の懐に移動していた。
肘で相手の鳩尾を打つ。
が、バックステップで躱されてしまった。
「一瞬消えやがった。スキルか? スキルってのは一人一つじゃねーのかよ?」
チラリと私の背後を確認すると、少女が回復魔法らしきものを少年に使っているが、傷が深すぎて回復が追いついていないようだった。
こっちも時間が無いね。
私はフードの2人との間にプラズマを発生させて、スパークさせた。
「うあっ!?」
「きゃあっ!?」
相手が怯んだ隙に、私は後ろへ飛んで少年と少女を掴むと、『瞬間移動』を発動させた。