戦闘
フェチゴヤ商会を後にして、私達は武器屋へと向かっていた。
学園では実地演習があるらしく、実際に魔物と闘ったり、ダンジョンに潜ったりするらしい。
その時必要となる、自分のスキルに合った武器を用意しておかなくてはならないのだ。
フェチゴヤ商会で全部揃うかと思ってたけど、イロハさんの方針で兵器に類するようなものは製造しないんだとか。
まぁ下手に前世の知識で武器なんて作ろうものなら、絶対ヤバい事に巻き込まれるもんね。
だからロボなんていう、この世界では直ぐに兵器に転用されそうな物の製造にも、絶対に関わっていないとの事だった。
逆に言えば、私とイロハさん以外にも前世の知識を持つ者がいるという事。
しかも、アルビオス公爵家にそれを流すような奴は、私と敵対する可能性が高い。
厄介だわ……。
閑話休題。
イロハさんには武器を取り扱ってる店を紹介してもらった。
もらったはいいけど……。
私のスキルに合った武器って何?鍬とか鎌かな?
それって武器屋じゃなくて農具屋に行かないとじゃない?
という事で、「武器を揃えるには農具屋へ行くしかないわね」って提案したら、
「外聞があるので、ちゃんとした武器を揃えてください」
とヴァンに注意された。
普通の武器持ってても私には使えないのに……。
「あと、いつまでその格好でいるんですか? 元に戻っていただかないと恥ずかしいです」
私はレイヤーだから魔法少女の格好でも恥ずかしくないもん。
そんな事言うと、意地でも魔法少女の姿でいるからね。
あ、魔法少女に似合いそうな武器として、杖を買おう。
そうしよう。
しばらく軽トラを走らせると、突然スキルちゃんの声が頭の中で響いた。
『ご主人様。至急UUFOが待機している地点へ転移してください』
え?どうしたのスキルちゃん。
『国境付近にて戦闘が確認されました』
戦闘!?
スキルちゃんは、私が召喚した農機を通じて各地の情報を得る事が出来る。
どうやらUUFOから何か情報が入ったようだ。
UUFOが待機している場所は、侯爵領北部の山向こうの平原。
そこから更に北へ行くと、他国との境界線がある。
簡易的な城壁が築かれているが、山深いという事もあって、あまり警戒網は敷いてない場所だ。
そもそも魔物が多く出没するので、進軍するのもままならない場所なんだけど、そんな所で戦闘してるなんて何者だろうか?
下手したら国際問題になりかねないのに……。
冒険者でも迷い込んで魔物と闘ってるとか?
『いえ、人同士の戦闘のようです。ただ、片方は深手を負っているようでかなり劣勢です。どちらが正義という判断はつきかねますが、劣勢の側は王国に逃げ込もうとしているようですので』
うはぁ……本来ならお兄様に確認しなきゃいけない案件だけど、深手を負っているとなると時間が無いか。
私は軽トラを止めて、その場で全員下りてもらうと軽トラを帰還させた。
「どうしたのですか、お嬢様。まだ武器屋には着いてませんが?」
「ごめんヴァン、緊急案件だから転移するね。ヤンとマーも早く掴まって」
「……拒否権は?」
「無いよ。早く」
はぁ〜と溜息をついたヴァンが私の袖を掴む。
そしてヤンとマーが私に抱きついて来た。
それを確認して即座に転移を発動する。
一瞬で王都の景色は、開けた草原へと移り変わった。
「方角は!?」
『UUFO内から見ていただく方が早いかと』
スキルちゃんが言うやいなや、私達にスポットライトを当てるように光が降り注いだ。
そして重力を無視して私達の体を上空へと吸い上げていく。
「おわあっ!な、何だっ!?」
「うわ、何だこれ。面白ぇ!」
「体が浮いてて楽しいの!」
ヴァンはめっちゃ驚いてるけど、ヤンとマーは楽しそうだ。
牛を引き上げる時と同じように、私達はUUFOの中へと吸い込まれていった。
気付くと既にそこはUUFOの中。
前世のアニメで見た、戦艦の司令室みたいな場所だった。
眼下を見下ろせるガラス張りの場所から、国境の城壁の方へ視線を向ければ、そこでは確かに何かが爆発している様子が見て取れる。
ガラスがスクリーンも兼ねているようで、拡大した映像が小窓になって映し出された。
逃げているのは深手を負った少年と、それを支えるように肩を貸している少女。
追っているのは深緑のフードを纏った2人組だった。
あのフードの奴らは何を考えているんだろう?
いくら人里離れているとはいえ、国境付近で魔法を使ったら警備隊がやってくるぞ。
でも、それが来るまで待ってはいられないようだ。
深手を負った少年の傷がかなり酷い。
「ちょっと行ってくる」
「お嬢様っ!」
ヴァンが私の手を掴もうとしたけど、それより早く私は転移を発動した。
護衛を連れていかないと後でお母様に怒られるんだけど、救助に行くだけなら私一人の方が動きやすいからね。
一瞬で森の中へと景色が変わる。
『瞬間移動』は、見える範囲なら行った事が無い場所でも転移出来るのだ。
UUFOから見えた地点へと転移した私は直ぐに、逃げている方の2人の元へ向かった。