計画と追跡(色々視点)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ イロハ視点 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
けったいなお嬢様やったなぁ。
なんぼ前世の記憶持っとる言うても、あそこまでぶっ飛ばんやろ。
まぁ、ほぼ計画どおりや……。
侯爵令嬢アグリ・カルティア。
第一王子殿下の筆頭婚約者候補。
ワテの目的の為に、なんとかお近づきになっときたい思とった。
おとんの伝手で会える機会を窺っとったんやが、それ以上にオモロい情報が飛び込んで来おった。
侯爵家のお嬢様が白くて四角いゴーレムで王都中を駆け回ってるって話や。
しかも、聞けば聞く程、それが前世で見た軽トラに酷似しとるときた。
まさか前世の記憶を持つ者が、ワテ以外にもいようとはなぁ。
ほんでその前世の知識に関する事で揺さぶり掛けてみようと思たら、あっさり尻尾出しよった。
メイドさんの言うてた以上のポンコツなんで、ちょっと不安になったわ……。
けど、魔力の強さは本物や。
さすが将来の王妃候補だけあったわ。
あれだけ力のあるお嬢様なら、ワテの願いを叶えてくれる筈や。
その為なら、農奴でも何でもなったるわい。
ワテの名前はイロハ——でもこれは前世の名前や。
ワテの今世での名は……
「おお、ここにいたのかワルヨノゥ!今回の新製品も飛ぶように売れてるぞ!」
「おとん!ワテの事はイロハって呼べ言うとるやろ!」
「いや、でもお前の名前はワルヨノゥ・フェチゴヤではないか」
「そのけったいな名前が嫌やから言うとんのやぁ!!」
そう、ワテの目的はこのけったいな名前を改名する事。
やけど、この王国では行政に一度提出した名前は改名できんのや……。
王制の国で、一商人の娘が法律を変えてくれなんて言う事すら憚られる。
この世界では二つ名が普通にまかり通るお陰で、皆、本名に対する執着も薄い。
そのせいで、世論で改名を叫ぼうにも誰も賛同してくれへんねん。
だからワテは、王家とのパイプを作って政治介入したる事にしたんや。
なんとかアグリお嬢様とは伝手を作れたと思う。
前世の知識を持つ仲間であり、農奴っていう繋がりも出来た。
あとはお嬢様が王子殿下と正式に婚約してくれたらこっちのもんやで。
なんとしてでも改名できるように法改正したるんや!!
『なるほど。その程度の野心であれば許容しましょう』
ん?今何か、頭の中で声が聞こえたような……?
気のせいやろか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ???視点 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深緑のフードを被った男女が、森の中を駆ける。
男の手に握られた長剣には鮮血が纏わり付いていた。
つい先程、何かを斬ったばかりなのだろう。
「ちっ、どこ行きやがった!?」
「あんたが余計な事しようとするから、逃げられちゃったじゃないのよ。あの女も始末すりゃいいのに」
「勿体ねぇだろうが。回復魔法が使えるんだから奴隷にして使い続けた方がいいだろ」
口論をしながらも走り続ける。
時折フードの影から黒い髪が覗いた。
「あいつらのスキルには『転移』なんて無かった筈だ。どこかで魔導具を仕入れていたんだろうな」
「そんな事はもうどうでもいいよ。問題は、あいつらが他国の手に渡ったら怒られちゃうって事でしょ」
「『聖魔法』はまだいいが『成長促進』は後々面倒な事になる。絶対見つけて止めを刺すぞ」
「あいつら、かなり遠くまで飛んでるわ。王国との国境付近に反応があるから、急ぐよ!」
フードの2人は更に加速して森の中を進んで行った。