契約
農家は農閑期は本当に暇だ。
豪雪が降る地方では、こたつに入ってテレビ見てるだけになる。
そんな暇な時期に、私は趣味を全力で楽しんでいた。
いや、暇じゃない時期も割と全力だったけど。
あれ……お祖父ちゃんの手伝いしてる以外の働いてる記憶が無いぞ?
まさか私の前世ってニー……私は考えるのをやめた。
とにかく漫画やアニメ大好きだった私は、冬は東の地で行われるオタの祭典に臨んでいた。
著名なレイヤーさんに比べたら全然素人の域だったけど、そこそこSNSにも写真アップされるぐらいにはやってたし。
だから魔法少女のコスプレなんて、むしろウェルカムよ。
それに魔力が数倍に膨れ上がるチートスキル、ここで逃す訳には行かないわ。
でも、「力が欲しいか?」はダメね。
ここは魔法少女に合った勧誘をしなくては。
「イロハさん、僕と契約して農奴になってよ!」
「……コスプレに抵抗あるからって、知らないとでも思っとるんか? 普通に漫画もアニメも見てたから、それがいかにヤベぇ生物の契約かは知っとるで。しかも農奴て、普通に奴隷契約やないか。あと、一人称。ツッコミどころ多過ぎや!」
余すところなくツッコんでいただけて何よりだわ。
「大丈夫よ。農奴って言っても何か制限がある訳じゃないし、ただ私とスキル的な繋がりが出来るだけだから」
「それに何かメリットあるん?」
「私が『魔法少女』のスキルを使えるようになる」
「いや、あんたのメリットちゃうわ。私にとってのメリットや。って、スルーしそうになってもうた! 他人のスキル使えるようになるんか!?」
「農奴になった人のスキルを『農奴スキル』として私も使えるようになるわ。今のところ、『金剛』『重力』『瞬間移動』『料理』が使えるわね。ちなみに農奴は私がブーストしてあげると能力が上昇するわよ」
「なんやそのチートスキル……ほんまに『農業』か?」
うーん、確かに最近ちょっとだけ怪しいかなって思い始めてる。
無理矢理農業に関連付ければ、ほぼ何でも出来ちゃうからねぇ。
「でもデメリットは無いと思うし、運命共同体として契約して欲しいんだけど」
「それクーリングオフは出来るん?」
「異世界なので出来ません」
「うーん、まぁデメリット無いなら契約してもええかぁ……。同郷のよしみや」
そしてイロハさんは、私と農奴契約を結んだ。
すると急激にイロハさんの魔力が変質する。
「なんやこれっ、魔力が増強されてる気がするわ! これだけ魔力があれば変身しなくても盗賊撃退できそうやん!」
変身しないなんて勿体ない。
寧ろ、ここぞとばかりに変身するのが様式美でしょ。
「ほいで、お嬢様も『魔法少女』スキルを使えるようになったん?」
「そうね。ちょっと使ってみるわ」
私は右手を上げ、天に向かって叫んだ。
「○着っ!!」
「それ魔法少女やなくて、宇宙の治安機関の奴やないかい!」
スキルを発動させると、光の粒子が私の周りを回りながら、リボンのようになって私に纏わり付く。
それが一瞬輝き、フリルの付いた可愛らしい服が顕現する。
次いで、白い手袋とブーツが装着され、私の金髪をツインテールに結い上げた。
最後に光が集まって、魔法のステッキのようなものを形成。
変身完了した私は、完璧な魔法少女へと変貌していた。
外見だけでなく、魔力が爆発的に高まっているわね。
ちょっと建物が揺れてるし……。
「ほ、ほんまに変身しおった……恥ずかしくないんか?」
「そっち? 別に平気よ。私前世ではレイヤーだったし」
「まぁお嬢様には似合うとるから、ええんかもな」
と少し会話したところで、突然バンっと扉が開かれて、ヴァン達護衛がなだれ込んで来た。
「お嬢様、大丈夫ですか!?……って、何ですかその格好は?」
どうやら魔法少女に変身した事で高まった魔力が、戦闘状態に入ったと護衛達に勘違いさせてしまったみたいだ。
「大丈夫よ。ちょっと変身してみただけだから」
「変身……そんなパワーアップ方法もあるのか……」
なんかヴァンの目の色が変わったような気がした。
ヴァンも魔法少女になりたかったの?