生産系
「おい……何稲踏んどんねん」
怒りの余り溢れ出した魔力が、オーラとして具現化した。
その圧力に押されたのか、ロボも歩みを止める。
いや、中の人が圧で怯んだのか。
でも私の怒りのボルテージはその程度じゃ下がらないよ。
「農家の皆さんが丹精込めて育てた稲を踏みやがって……」
私が一歩踏み出すと、ロボが一歩下がる。
震えるような声がロボから放たれた。
「た、たかが平民の作った穀物だろうが!そそ、そんなものに配慮する必要など無いわ!」
平民と言ったか?
「もしかして貴族?それとも貴族に仕える勘違い野郎?平民が作ってくれてる食料があるから生きていけるんでしょうが。それすら理解してないとは、もう救いようが無いわね」
「だ、黙れっ!!」
黙れはこっちの台詞よ。
貴族があんたみたいなのばっかりだと思われたらどうしてくれんのよ。
本当は今すぐ怒りに任せて稲妻ぶっ放したいとこだけど、それをやったら周囲の田んぼにも被害が出てしまう。
被害を出さずにロボだけを沈黙させるとなると……。
私は、とある科学現象を使う事に決めた。
魔力を練ってスキルを発動させると、膨大な魔力がそれに変換されて、パリパリと周囲の空気中で放電が起こった。
スキルによって発動されたのは『プラズマ』。
「ホント、農家にとっては大迷惑なのよね『ミステリーサークル』」
UFOが飛来したとかいう説もあったが、科学的にはプラズマが原因という可能性もあるらしい。
実は殆どが人為的に作られたものだったらしいけど、まぁ人為的なものはどうでもいいのよ。
問題は、プラズマによってミステリーサークルが作られる可能性があるという事。
つまり、農業とプラズマは密接な関係にある!ドンっ!!
『強引過ぎませんか?』
いいんだよ、スキルちゃん。
要は私のイメージなんだし、実際出来てるし。
小さなスパークがバチバチと音を出しながら飛び交っている。
まぁ稲妻が扱えるんだから、プラズマを扱えても不思議じゃないよね。
「な、なんだ!?お前のスキルは『生産系』の筈では……!?」
私のスキルが生産系だと知っている?
それを確実に知ってるのはフランちゃんだけだ。
そしてフランちゃんは、絶対にそれを他人に言いふらしたりしない。
別の線から知る可能性——そういえばフランちゃんのスキルも『生産系』だとバレていた。
それを知ってるとしたら、そう仕向けた者だけだよね……。
「もしかしてアルビオス公爵家の手の者?」
「っ……!?」
どうやらビンゴみたいね。
これはじっくり話を聞かないといけないから、間違っても殺してしまわないように注意しないと。
私はプラズマに魔力を込めて操作する。
ロボに向けて敷かれるのはプラズマで作られたレール。
スキルちゃん、電子の力場の計算は任せた。
『かなり魔力を使う事になりますが、よろしいですか?』
稲妻を使う程じゃないだろうし、問題無いよ。
さて、これからやろうとする事には、プラズマ以外にも必要となるものがある。
「召喚っ!」
顕現したのは少し大きめの磁石片『カウマグネット』。
牛は牧草を食べる時に光っているものを飲み込んでしまうので、危険な金属片を取り出せるように磁石を飲ませておく。
それがカウマグネットだ。
本当はコインが良かったんだけど、今手持ちが無いし、丁度良い金属片がカウマグネットしか無かった。
『磁性体だと演算が難しいのですが……』
そこはスキルちゃん頑張って!
「な、何をする気だ……?」
私の周りで高まって行く魔力に押されて、ジリジリと後退するロボ。
「逃がさないよ!『電磁砲』発射!!」
プラズマのレールで加速したカウマグネットが射出される。
磁性体だったせいで真っ直ぐには飛んで行かずに大きく弧を描いたが、バチバチと帯びた電流を放ちながら高速で目標であるロボに着弾した。
金属がぶつかり合って、轟音が周囲に鳴り響く。
「ぎゃあああああっ!!」
ロボの胸付近を貫いたマグネットは、奥の森付近に着弾し、爆発したような土煙を舞上げた。
大きく胸に穴を開けたロボは、その場に座り込むように脱力し、沈黙した。
「どうよ!農業最強!!」
魔力の流れで頭部に奴がいる事は分かっていたので、そこを避けて、心臓部となっているだろう胸付近を狙ったのだ。
動かなくなったロボの頭から、こじ開けるように搭乗者が這い出て来た。
その姿は、先日盗賊捕縛時に見た仮面を付けた不審者と同じものだった。
たぶん、同一人物で間違い無いだろう。
「ばかな、生産系スキルであんな攻撃が出来る筈が無い……。あの奴隷、失敗してやがったな」
どうやら私にも何か仕掛けてくれてたみたいだ。
フランちゃんの時と同様に、呪術のようなもので私のスキルを生産系にしたのか。
まぁお陰で最強の『農業』スキルを得られた訳だけどね。
それはそれとして、話を聞かなきゃいけないから逃がすつもりは無いよ。
前回同様、魔導具を使って逃げようとしたので、瞬間移動で近づき、その魔導具を蹴り飛ばした。
「ぐっ!?ち、ちくしょう!」
「さて、年貢の納め時よ」
年貢と言えば米だからね。
農業の大切さを分かってないみたいだし、強制的に農奴にして稲刈りさせようかしら?
「危ないっ!」
その時、突然ヴァンが私に駆け寄り、私を抱きかかえるようにしてその場を飛び退いた。
直後、私が立っていた場所に槍のようなものが突き刺さる。
全く気配を感じなかった。
ヴァンが助けてくれなければ、かなりの傷を負っていたかも知れない。
「ありがとう、ヴァン」
「視えるようになったお陰で気付けて良かったです」
視えるようになったって、どゆこと?
いや、それよりもあいつは……と思って視線をロボに向ければ、仮面の人物は突き刺さっていた筈の槍と共に、忽然と姿を消していた。
後に残ったのはロボの残骸だけだった。