本命
漸く森からの魔物の波が止んだ。
森の手前には動かなくなった魔物達が、山になっている。
全てが完全に絶命しているとは限らないので、村人達にはまだ近づかないように注意しておいた。
『フランさんとルシフェルに確認したところ、別の場所でも同様に魔物暴走が起こっているらしく、二手に分かれて対処に当たっているとの事です』
スキルちゃんが、リモートで接続できる所と連絡取ってくれたようだ。
マジ有能。
それにしても、予想通り別の場所でも魔物暴走が起こっていたか……。
複数箇所で起こっているのは不自然だし、やはり人為的に起こされたものとしか思えないよね。
目的は侯爵領の弱体化——にしてはコストが掛かりすぎてる気がする。
あれだけの魔物を複数箇所に用意するとなれば、容易な事ではないし。
そこまでして得たい成果となると、侯爵家の誰かの命とか?
我が侯爵家は、お父様とお母様の婚姻が成立してから、かなりの力を持った。
国内でも屈指の魔導師であるお父様。
西端の辺境伯家から嫁いだお母様。
2人の結びつきによって、公爵家にも迫ると言われている程だ。
そして優秀な成績で学園を卒業し、領主代行として辣腕を振るうお兄様の存在も大きい。
他の侯爵家とは一線を画す力を持っているだろう。
故に狙われる可能性も大きいとは思う。
でも魔物暴走程度でどうにかなる人達じゃないよ?
寧ろ嬉々として魔物を屠りに行くだろうし、私とヴァンだけで抑え切れちゃう程度の魔物をいくら用意しても、焼け石に水だと思う。
なら、目的は別にあるのかな?
例えば陽動とか……。
各地で魔物暴走が起これば、当然戦力は分断される。
そこで手薄になった場所に強力な一手を放てば——。
そこまで考えた時、メキメキと森の木々をなぎ倒すような音が聞こえて来た。
まさかその本命がこっちに来ちゃったの?
音からして、かなりの巨獣かと思われたが、木の影で姿はまだ見えない。
森の高さから見て、大きくても推定4m未満ってとこか。
いや、4足歩行であれば、それでもかなり大きな魔物だろう。
しかし、予想は大きく外れた。
現れたのは生物ではなく、金属製の人型をしたモノだった。
「お、俺のゴーレム召喚が成功したのか……?」
え?あれ、ヴァンが召喚したの?
……いや、絶対違うでしょ。
だってあれ、明らかに『ロボ』だもの。
赤い骨格に黒い装甲で全身を固め、胴体部分が人の顔のような形状になっている。
前世で見た、『充血したコンタクト外してる目』みたいな名前のロボットに酷似していた。
何故あれがこの世界に——って、コンバインがあるぐらいだから、あっても不思議じゃないか。
あれを再現出来てるって事は、私以外にも前世の知識を持つ者がいるという事よね。
あるいは別世界からの転移者?
それにしても、何で態々木々を倒してまで森の中を進んで来たんだろう?
あれだけ大きな音を出しながらじゃ、身を隠したかった訳じゃないよね?
とすれば時短?
急ぎ駆けつけた理由がここにあるという事……。
その時、突然ロボの方から人の声がした。
「巨大な魔力反応があったので急いで来てみれば、まさかこの地にいようとは。予定外だが、お前の命を手土産にさせてもらうぞ、アグリ・カルティア!」
目的は私っ!?
って言うよりは、たまたま良い物見つけたって感じみたいだけど。
魔物暴走を起こすような奴だし、話は通じないか……。
ロボから聞こえた声で、漸く自分が召喚したゴーレムじゃないと気付いたのか、ヴァンが再起動した。
「お嬢様、俺が時間を稼ぐので逃げてください!アレには魔法が通じません!」
なんでヴァンはそんな事が分かるの?
材質——というか、そういう金属を知ってたのかな?
魔法が効かないという事で、ヴァンは剣でロボの足を切りつける。
しかし、全く傷すら付ける事も出来ずに、それは跳ね返されてしまった。
「ふははは!魔法耐性だけでなく強度も最高峰だ!生身の人間が多少身体強化した程度では傷すらつける事もできんぞ!」
ロボが腕を振り回し、ヴァンを薙ぎ払おうとする。
それをギリギリで躱したヴァンは後方へ飛び、一旦距離を取った。
「雑魚に構ってる暇は無い!」
距離が離れたヴァンは無視して、ロボが唸りを上げながら私に向かって歩き始めた。
まだ刈り取られていない稲を踏んで——。
ブチリと、私の中で何かが切れた。