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魔物暴走

 稲刈りも順調に進み、日が真上に差し掛かって来たので、私達は昼休憩を取る事にした。

 スキルちゃんにおにぎりを多めに召喚してもらって、付近で稲刈りしてた人達も集めてみんなでいただく。


「う、うんめぇ〜!」

「なまらうめぇべや!」

「これ何の品種だ!?コシライトニングに匹敵するべ!」


 コシライトニングは我が侯爵領の主力品種であり、とっても美味しい。

 でも確かに、スキルちゃんが出したおにぎりはコシライトニングに匹敵する味だと思う。

 スキルちゃん、このお米って品種は何?


『……黙秘します』


 ちょっと!正体分からない食べ物って怖いんですけど!


『大丈夫です。体に害は無い筈です、たぶん……』


 そこは断言してっ!

 まぁ、先日おにぎり食べたヴァンも何とも無さそうだし、大丈夫なんだろうけど……。

 ちらりとヴァンの方を見ると、おにぎりを見つめたままブツブツと独り言を言っていた。


「ゴーレム召喚、ゴーレム召喚、ゴーレム召喚……」


 大丈夫じゃなかった!

 寧ろ、なんかヤベぇ事になってるんですけど!?

 只管ひたすらに何かの呪文を唱えてるし……。


 ヴァンのスキルって、私の護衛につくぐらいだから戦闘系でしょ?

 生産系なら生産に使う道具を召喚出来るから、魔力量次第でゴーレム的なものも召喚出来ると思うけど、戦闘系は召喚に特化したスキルじゃないと無理だと思うよ。

 でも何かに取り憑かれたように唱え続けるヴァンには何も言えなかった。

 何か怖いし……。


 そんな風に呑気でいられたのはそこまでだった。

 おにぎりを食べ終え、一休みしたところで稲刈りに戻ろうとした時、突如それは起こった。


「きゃあああああぁっ!魔物がっ!」


 田んぼが並ぶ先にある森から、熊や猪の魔物が続々と溢れ出して来たのだ。

 魔物の被害があったとは聞いてたけど、数が多すぎる。

 数十……いや、百匹を軽く越えている。

 私は即座に瞬間移動で魔物の近くにいる村人を救助して回った。

 連続転移して、安全な位置まで村人を移動させる。

 魔物達はまだ右往左往するだけだが、あれだけの数となると何かの拍子にすぐ暴走してしまうだろう。


「お嬢様、お下がりください!俺が防ぎます!」


 ヴァンが剣を抜いて魔物に向かって走る。

 それに気付いた魔物達がヴァンに群がって来た。

 力が強そうな熊の一撃も難なく受け止め、確実に首を切り裂いて無力化していく。

 殆どが特殊な攻撃をして来ない獣型の魔物ばかりなので、ヴァンの技量であれば問題無いだろう。


 ……と思ってたんだけど、森の奥の方からも途切れる事無く魔物が溢れてくる。

 これ、すでに魔物暴走スタンピードが起こってるんじゃない?


「くっ、数が多すぎるっ!」


 さすがにヴァンも徐々にさばき切れなくなって来ているようだ。

 村人が兵士を呼びに行ってくれてるけど、たぶん兵士だけじゃ止められないだろう。

 お母様かお兄様が居てくれれば——って、これに気付いてない訳がないよね。

 たぶん向こうでも何か起きてるんだ。


 私が何とかするしかないかと前に出ようとしたところ、くわを持った農民達が数人それを遮るように立ちはだかった。


「お嬢様はお逃げください!ここは俺達が闘います!」


 村の代表であるギンガさんが真剣な眼差しを向けてくる。

 勇気溢れる言葉に感動してしまう。

 その精神はとても素晴らしく、輝いて見えた。

 でも残念ながら、貴族の矜持としてそれを許す事は出来ないのよ……。


「なりません。民を守る為に戦うのは私達貴族の仕事です。貴方達の手は作物を育てる為に使ってちょうだい」

「し、しかしお嬢様っ……!」


 ギンガさんは納得しかねるという顔で抗議する。

 それを私は眼だけで無理に従わせる。

 相手の意思をねじ曲げるようで好きじゃないけど、やんわりした説得では無茶をしかねない。

 厳しくとも、ここで止まってもらわないと。


 私も無茶をする気はないと言い聞かせて、なんとか引いてもらえた。

 どうせ私の能力的に近接で闘うのは向いてないから、ヴァンを後方支援するだけだし。

 農奴スキルの『金剛』を使えば闘えなくもないけど、技量が伴わないから魔力消費が激しいのよね。

 まだまだどれぐらい魔物が出てくるのか分からないし、なるべく魔力は節約したい。


 ヴァンの周りを囲む魔物に向けて、私は農奴スキル『重力』を展開した。

 断絶した空間を作るのが目的なので、広範囲に掛けるのではなく、狭い範囲の重力場をあちこちに作っていく。

 急激に重力の段差を加えられた魔物は、自重で勝手に倒れていってくれる。

 体の真ん中でその段差を受ければ内臓を破壊され、関節付近であれば脱臼は免れない。

 そうして多くの魔物が動けば動く程、身動きが出来ない状態になっていった。


「ヴァン、援護するからそのまま闘いなさい」

「承知しました!」


 ヴァンは動きが鈍った魔物に次々と止めを刺していく。

 そのまま暫く闘い続けていると、村人が呼んで来た兵士達が駆けつけてくれた。

 おかげで私とヴァンも少しだけ息をつける状態になった。


 徐々に魔物の勢いも弱まっていく。

 それを見たヴァンが一言、


「これなら、なんとか収束しそうだ」


 それ、フラグじゃないかい……?

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― 新着の感想 ―
つや姫(山形県産)か… そしてヴァン、お前もう黙れw
[良い点] ヴァンさんに一級フラグビルダーの称号をあげるよ・・
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