思惑(色々視点)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ギンガ視点 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
おら……じゃなくて、俺の名はギンガ。
この辺一帯の村々を取り纏めている長の息子である。
3年間王都で農業について学び、昨年この村に帰ってきたばかりだ。
にも拘わらず、父は早々に隠居してしまい、俺が取り纏め役になってしまった。
先日、父が魔物に襲われて怪我をしてしまった為だ。
最近北の方で魔物が急激に増えている。
そして先日、遂にこの辺の村でも魔物の被害が出てしまったのだ。
幸い警戒して配置されていた兵士さん達のお陰で、命を落とす者こそ出なかったが、多くの者が怪我をして農作業が出来なくなってしまった。
収穫期に入っているので、なんとか村の人達で手分けして稲刈りしているが、かなり遅れ気味だった。
ようやく早稲種のコシブレスの収穫を終え、主力品種であるコシライトニングを刈り始めたところで、更に追い打ちを掛けるようにまた村人が魔物に襲われた。
ただでさえ間に合いそうにないのに、絶望の淵に立たされる事になってしまった。
藁にも縋る想いで領主様に嘆願したところ、視察に来ていただけると連絡を受けた。
現状を見ていただき、他から人足を集めて貰えれば何とかなるかも知れない。
疲れで朦朧とする中、奇妙な乗り物でやって来た領主様ご一行を俺が出迎えた。
現在の領主様はご子息様が代行されているのだが、今回は何故か奥様もいらっしゃった。
凜とした姿はとてもお美しく、それでいて優しさを秘めている目をなさっていた。
しかし驚いたのはその後である。
俺と奥様との話し合いに、一人の少女が割って入った。
金色の髪と瞳が天使を思わせるような、なまらめんこい娘っ子だった。
ついつい矯正した筈の方言が出てしまいそうになる程、その少女は魅力に溢れていた。
どうやら侯爵家のお嬢様らしい。
しかもそのお嬢様が稲刈りを手伝いたいと申し出てくれている。
まぁ、手伝うって言っても貴族の方に鎌を持たせる訳にもいくまい。
護衛の方の目もあるし、労力としては何も期待出来ないだろう。
でも、こんなに可愛らしい子が近くで見てくれてるだけで、力が出てくるというものだ。
ところがお嬢様は自ら鎌を持ち、何の躊躇も無く田んぼに入って行ってしまった。
そして田んぼの角だけを刈るという奇妙な行動をとる。
何故か聞いて見たら『ゴーレム』を使って稲を刈るための下準備だとか。
ゴーレムは王都にいた時に少しだけ見る機会があったのだが、あんなもので稲刈りなんて出来るのだろうか?
そう思っていたのだが、お嬢様の召喚したゴーレムは、全く予想とは違う形をしていた。
しいて言うならでかい箱?
そのゴーレムがどんどんと稲を刈っていく。
まるで稲刈りをする為に作られたかのようなゴーレムだった。
そして別の白いゴーレムの後部に刈った籾を入れていき、その籾の乾燥まであっという間にやってしまった。
俺にはお嬢様が、農業の神が遣わした救世主のように見えた。
お嬢様はとても楽しそうに稲刈りをする。
まるでそれが至福であるかのように。
その姿を見ただけで、俺はほっこりとした気持ちになれた。
なんて尊いお方だろうか……。
周囲で稲刈りしていた村人達も、あまりのてぇてさに拝んでいた程だ。
俺はお嬢様の為ならば、何でもしてやろうと心に誓ったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ヴァン視点 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
やはり何度魔眼で覗いても、アグリお嬢様のスキルは『農業』だった。
だがそれは絶対にフェイクの筈だ。
俺は魔眼に頼らずに、自分の眼でお嬢様のスキルを見極める事にした。
スキルを使った時の僅かな情報も見逃さないように眼を凝らす。
稲を刈るためのゴーレムをお嬢様が召喚した。
どう見ても稲を刈ってるだけだ……。
いや、別の白いゴーレムに向けて、筒のようなものを動かしている。
あれは何だ?
結局、それもただ籾を排出しているようにしか見えなかった。
くっ……さすがはお嬢様、どこまでも情報を隠蔽してくるか……。
だが、次の工程でお嬢様は農業ではあり得ない何かをした。
籾の詰まったタンクに手をあてると、中の籾を何らかのスキルを使って一瞬で乾燥させてしまったのだ。
それは明らかに魔法。
乾燥の工程だけ、それに類するゴーレムの召喚を行わなかった。
もしやそこに何か理由があるのか?
お嬢様の性格上、ただ時短しただけのような気もするが……。
それにしても、先程のフラン様にも驚いたな。
お嬢様と同じように移動型のゴーレムを召喚したのだから。
今時の子は皆出来るものなのだろうか?
教育カリキュラムが変わったのか?『さとり教育』だったか?『ふとり教育』?
いや待て、あのお二人は今年入学だからまだ学園に通ってないし、そもそもスキルを得たばかりだった筈。
にも拘わらず、フラン様は一瞬でワイバーンを単独討伐してしまったんだよな。
末恐ろしいなんてもんじゃねぇな……。
同じようなゴーレムを召喚——スキルを得たばかりなのに、やたら強力な技を使う——2人の間にはこれらの共通点がある。
逆に考えれば……強力なスキルに成長させるには、ゴーレムを召喚すればいいのか?
それだ!
きっとそれが鍵になっている筈だ!
お嬢様が稲刈りをしている間中、俺はゴーレムを召喚しようと魔眼に魔力を込め続けた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ???視点 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
山を越えた先の広大な草原。
そこに集めておいた魔物が消えていた……。
侯爵領にて魔物暴走を起こす為にあれほど苦労して集めていたのに、何故急に居なくなった?
北部のあちこちで魔物を増やしておいて、この草原にいる魔物を暴走の起点にしようとしていたのだが、これでは魔物暴走が起こせないではないか。
魔物暴走の主戦力になる筈だったゴブリンキングもいつの間にか消え、更にその背後を突かせる為に雇った盗賊達も捕らえられてしまった。
どうしてこうも、全てが上手くいかないのだ!?
このまま手ぶらでは、公爵家に戻る事も出来んと言うのに……。
こうなれば、私が自ら各地の魔物を暴走させるしか無いか。
だがそれだけでは足りんな。
もう、なり振り構ってはいられない。
他国から入手した『アレ』を投入するしかないだろう。
コシライトじゃねーの?というツッコミは無しでお願いします。