稲刈り
稲刈り回です。
知識不足な点もあると思いますので、表現がおかしい部分等ありましたらご指摘ください。
キッチンカーは運転席と助手席にそれぞれ、フランちゃんとお兄様が乗車する。
後ろのキッチン部分には座る場所が無いけれど、屈強な執事シルヴァと筋肉ムキムキのギルマスなら立ったまま乗れるので問題無いだろう。
さすがのシルヴァも、公爵家令嬢のゴーレムを奪おうとは思えなかったようで、少しシュンとしていた。
それともピンク色が気に入らなかったのかな?
私のトラックもピンク色にしとこっと。
お母様が先導して、5人は北へ魔物の動向を見に向かった。
私と不服そうなヴァンだけがここに残って稲刈りである。
私は早速鎌を召喚して、水が抜いてある田んぼへ入っていった。
稲を掴んで鎌を通すと、ザクリという感触が伝わる。
ぐふふふ、いい音を奏でるじゃないか稲穂ちゃん。
うーん、たまらん!
口元が緩み、若干涎も垂れている私は、お母様に見られたら絶対怒られる醜態をさらしていた。
やっぱ直に自分の手で収穫する喜びは素晴らしいね。
まぁ農機で刈っていくのも楽しいんだけど。
今は、農機が向きを変えれるように田んぼの四隅を刈り取っている。
コンバインの構造上、畔付近は刈り取れなかったりするし、切り返しも大変だ。
その為、最初に四隅だけ手で刈り取るのである。
「あの、お嬢様……。何故田んぼの四隅だけ刈っておられるのでしょう?」
農家の青年ギンガさんが不思議そうに聞いて来た。
そっか、農機が無い世界ではおかしな行動に見えちゃうのか。
「これは私のゴーレムで刈り取る為の前準備です」
「ご、ゴーレムですか……」
ゴーレム生成スキルを農家の人が目にする事はあまり無いのだろう。
益々困惑するギンガさん。
一つ目の田んぼの四隅は刈り取ったので、一先ず実践して見せる事にした。
「『召喚』っ!!」
私の魔力が収束し、美麗なフォルムの農機を顕現させる。
白と赤のラインが横に伸び、先端の鋭い爪がとても雄々しい、前世で主に稲作用として使われていた自脱型と呼ばれるコンバインが現れた。
上下する前部で稲を刈り取り、横にあるロータリー部分で脱穀してタンクに溜めていくというものだ。
基盤整備をされていない小さい田んぼばかりだし、あまり大きい農機だと刈り辛そうなので3条刈りタイプを召喚した。
前世でお祖父ちゃんは小さな田んぼも6条刈りのコンバインで刈るという強引な事をしてたけど、そのための角刈りの範囲が大きすぎて「全部手で刈った方が早いんじゃね?」って皆に言われてたっけ。
巨大な農機で刈る爽快感は分かるんだけど、小さい田んぼではやっぱり小回りが利いた方がいいからね。
「す、すんげぇ……これがゴーレムか」
ギンガさんがめっちゃ驚いてる。
本当のゴーレムとは全然違うのに、間違った常識を植え付けてしまっただろうか?
うちの領内で本当のゴーレムを見る機会なんて無いと思うし、まぁいっか。
「点火っ!!」
魔力を注ぎ込むとエンジンが始動し、重低音のビートが足下から伝わってくる。
刈り取りにミッションを切り替えて前進。
刈り取り部に吸い込まれるように稲穂が刈られて行く。
それが運転席の脇を通って脱穀部へ到達すると、穂先が脱穀されて分離した籾がタンクに収容される。
最後に後部にある刃が穂を断裁して排出。
この完成された収穫ラインは機能美の究極だろう(個人の見解です)。
バリバリと稲穂を刈り取っていく。
気持ちいいー!最高やで!
暫く刈っていると、籾の入ったタンクが満タンになってランプが点灯した。
一度に全部刈る事は出来ない為、こまめに排出する必要があるのだ。
私は田んぼの脇に、籾運搬コンテナを積んだトラックを召喚した。
コンバインを操作してオーガと呼ばれる筒をコンテナの上まで回転させる。
そして籾を排出してコンテナに入れていった。
それを数度繰り返し、1時間程で1枚目の田んぼを刈り終えた。
「す、凄い……。もう1枚刈り終えた……」
さて、コンテナに入れたまではいいけど、この世界に籾を乾燥させる為の乾燥機があるとは思えないのよね。
「ギンガさん、籾はどこで乾燥させるんですか?」
「向こうに広めの場所があるので、そこにゴザを敷いて日干しします」
うわぁ、時間がかかりそうだなぁ。
晴れてるからそれなりに乾くかも知れないけど、スキルで乾燥させた方が早そうだ。
私はコンテナ内の籾をかき混ぜるようにスキルで熱を巡回させながら、一気に乾燥させた。
前世では一晩かかった乾燥作業も、農業スキルがあれば一瞬である。
「籾は乾燥まで済ませたので、籾置場に案内してください」
「ええっ!?この短時間で乾燥までしたのですか!?」
驚き続きのギンガさんを落ち着かせて、籾を置く場所へと案内して貰った。
トラックのコンテナに排出ホースを繋ぎ、木の枠で囲ってある場所へと排出した。
後の行程はお任せして、私は刈る事に集中する事にした。
私が稲を刈ってる間、ヴァンは何やらずっと難しい顔をしていた。