狙われるゴーレム
今回の移動は結構人数が多いので、大きめのトラックを召喚した。
3人乗りシートで、荷台も大きめ。
運転席には私、助手席にはお兄様とフランちゃん、荷台にはギルマスとヴァンが乗る。
そして何故か屋根の上で仁王立ちする執事のシルヴァ。
こら、ちゃんと荷台に乗らんかい。
暫く走っていると、お兄様が私に話しかけてくる。
「ねぇアグリ、あの母様が乗ってるゴーレムはアグリが以前乗ってたものに似てる気がするんだけど」
「気のせいですね」
「僕も乗りたいんだけど、もう一台出す事は出来ないのかな?」
「無理ですね」
「アグリ、その汗は絶対嘘をついてる味がするよね?」
だってせっかく召喚した農機を奪われてくのって何か嫌なんだもん!
だが、お兄様は諦める気は無いようだった。
セヴァスに続いてお兄様にも私の農機が狙われている……。
ちなみに、もう一台出す事は現在出来ない状態なので嘘ではない。
スキルちゃんが言うには、今のレベルでは同型の農機の二台目は出せないらしい。
牛運搬飛行物体のような巨大なものは魔力を多く込めれば出せちゃうけど、二台目となると仕組みが違うようだ。
一応50ccの自動二輪車なら出せるのだが、出せると知られたらお兄様に持って行かれそうだから絶対言わない。
前を蛇行運転で走るお母様に付いていく事30分。
辿り着いた先は某アニメの1シーンを思わせる黄金色の平原だった。
侯爵領北部では米作が中心に行われている。
その美しい稲穂が風に揺れて、幻想的な風景画を描き出していた。
素晴らしい光景——だがそれは即ち、まだ刈り取られていないという事。
時期的にそろそろ刈り終えなければいけない筈なのに、半分以上穂が残ったままだ。
これは拙い状況ね……。
私達がトラックから降りると、稲刈りをしていた一人の青年が近づいて来た。
「侯爵家の方々ですね。私はこの辺一体の村の代表であるギンガと申します」
小麦色に焼けた肌は、残暑の厳しい中連日精を出していた証だろう。
目の下にはクマが出来ていて、かなりの疲労が見て取れる。
人手不足という話だが、相当無理をしているようだった。
ギンガと名乗った青年と、お母様が話を始める。
「見た限り、あまり芳しくないようですね」
「申し訳ございません。魔物に襲われた者達の怪我が酷く、子供達の手を借りてもまだ足りないもので……」
「責めている訳ではありません。現状を確認しただけの事です。では早急に他所から人手の手配を——」
「お母様、私にやらせてください!」
お母様の話に割って入った事で、青年がビクリと引き攣った顔をした。
ごめんね、急に。
でも、今こそ私の出番なのだから許して欲しい。
「アグリ、どういう事ですか?」
「私のゴーレムであれば常人の数倍の働きが出来ます。今から人を手配しても時間がかかるでしょうし、私が直接やった方が早い筈です」
私の提案に、お母様は暫し考え込む。
うーん、私のスキルを説明する訳にはいかないんだけど、何とか有用性を示したい。
実際に刈って見せた方がいいかな?
しかし、お母様は意外な反応を見せる。
「分かりました。ここはアグリに任せましょう」
おや?
こんなにあっさり許可が出るとは思わなかった。
そもそも視察に同行しろというのも妙な違和感があったのよね。
もしかして、最初から私にやらせるつもりだった?
私が召喚しているものが農業用機械だと見抜かれてたりして……ま、まさかね……。
「では、アグリの護衛としてヴァンも残りなさい」
「……承知しました」
こらこらヴァン、何よその間は?
今回は普通に稲刈りするだけなんだから、何も起こらないわよ。
前回畑を耕した時にゴブリンキングが現れたのだって偶然だし、そんな物語の主人公みたいな事そうそう起こる訳ないでしょ。
まぁヴァンはほっといて稲刈りを楽しむから、どうでもいいけどね。
稲刈りが出来る興奮を抑えきれなくなっていた私だったが、次の瞬間冷や水を浴びせられる。
「でも困ったわね。これから更に北上して魔物の様子も見てこようと思ったのだけど、アグリがいないと徒歩での移動になっちゃうわ」
ま、まさか……。
「アグリ、あの白い箱形ゴーレムも他人が動かせるように出来ないかしら?」
やっぱりかぁ!
あっ、シルヴァが少しほくそ笑んだように見えた。
ひょっとして王都のセヴァスから何か聞いていて狙ってたわね。
この流れは拙い……。
やはり私も付いていくべきだろうか?
でも稲刈りしたいっ!!
したい!したい!稲刈りしたいいいいいいぃっ!!
もはや私は駄々っ子状態よ!
でもどうしたらいい……?
『ご主人様、こうしてはいかがでしょう?』
スキルちゃんが一つ提案をしてきた。
……な、なるほど!それでいこう!
「お母様、それには及びません。ここにはフランちゃんがいますから」
「え?私?」
突然話を振られたフランちゃんは困惑の表情を見せる。
「フランちゃんも私と同じようにゴーレムが召喚出来ます」
「初耳だよ、アグリちゃん……」
当の本人が初耳と言うので、周りは全員ジト目に……ギルマスのジト目は妙な迫力があるなぁ。
「大丈夫だよフランちゃん。今からスキルちゃんがイメージを送るんで、それを顕現させればいいだけだから」
「う、うん……分かった。それならやってみる」
とここで、私とフランちゃんのやり取りを聞いていた全員が、聞き慣れない言葉を耳にしたかのように復唱した。
「「「「「スキルちゃん……?」」」」」
あれ?私、何かおかしな事言った?
みんなは自我が覚醒したスキルの事を何て呼んでるんだろう?
ちゃんとした名前付けてあげた方がいいのかな?
スキルちゃんが話しかけてくれる前からスキルちゃんって呼んでたから定着しちゃったんだけど、今からでも名前付けてあげた方がいい?
『いえ、スキルちゃんで大丈夫です』
まぁスキルちゃんがそう言うならいいけど。
暫くすると、スキルちゃんがイメージを送り終わったようで、フランちゃんの顔付きが変わった。
そして魔力を手に集めて高めていく。
「我が呼び掛けに応えよ!『召喚』っ!!」
フランちゃんが放った魔力が一つの輝く塊となり、その姿を形作っていく。
ピンク色の丸みを帯びた可愛らしい外装。
前世で私が見た料理に深い関係のある車、『キッチンカー』がそこに現れた。




