護衛
私達一行はラディッシュの街の冒険者ギルドへと向かった。
一際大きい二階建ての堅牢な建物。
そして何故か入口はスイングドア。
なんで西部風なの?
この地方は冬場雪が降るから、普通のドアにしといた方がいいと思うんだけどなぁ。
入口をくぐると正面奥には受付があり、横には酒場のようなものが併設されていた。
そこでは朝からお酒を飲んでいる冒険者もいる。
お母様は一目瞭然で貴族と分かるので、当然の如く周囲の冒険者達がざわつき始めた。
さすがに貴族に絡んでくるようなバカな冒険者はいないよね……。
と思ったのに、
「なんだぁ?えらいべっぴんさんが冒険者ギルドに来たなぁ。そっちで酌でもしてくんねーか?俺、彼女に振られたばっかで寂しいんだよ」
お酒の力って怖い。
貴族相手に絡んで来るなんて……。
しかも寄りによってお母様に絡むとか、危機感知センサーが酩酊してるんじゃないかしら?
あ、お母様が魔力解放した。
あ、冒険者が腰を抜かして這々の体で逃げ出した。
哀れ、這々のフリーメン……。
私達はそれを見なかった事にして、受付へと向かった。
「あ、ああああの……何か御用でしたでしょうか?」
あまりの威圧感で、魔力を浴びてない筈の受付嬢さんまで怯えてしまっていた。
ごめんね……。
お母様はそれを気にした風でも無く、普通に受付嬢さんに話しかける。
「ギルマスを呼んでくれるかしら?」
「は、はい!少々お待ちください!」
ビクリと体を震わせて立ち上がった受付嬢さんは、急ぎ2階へと上がって行った。
ギルマスに直接、護衛となる冒険者を斡旋してもらうつもりなのかな?
まぁ私達を護衛するなら高ランク冒険者じゃないとダメだろうし、そんな冒険者を動かすとなるとギルマスの許可が必要になる。
有事に備えて高ランク冒険者の居場所を、ギルドが把握しておかないとだからね。
でも周囲を見た感じでは、そんなに強そうな人は見当たらないけど……。
っていうか、前に通りかかった時より寂れてない?
程なくして、先日お会いした黒光りスキンヘッドの大男が2階から下りて来た。
ギルマスは見かけによらず礼儀正しい方だったので、お母様への対応も問題無いだろう。
と思ってたのに……。
「げぇっ!?『斬殺姫』っ!何しに来やがったぁっ!?」
「あらゴイン。私をその名で呼ぶなんて、もう貴方の人生に一片の悔いも無しという事かしら?」
「ぐっ!?ご、ごべんなさい……」
不穏な二つ名が聞こえた気がしたけど、お母様の「忘れなさい」という圧が強いので、私は口を噤んだ。
ギルマス、お母様の魔力を食らって泡吹いてるし。
大丈夫?
それにしてもお母様とギルマスはお知り合いだったようね。
ギルマスを名前で呼んでたし。
まぁ侯爵領内のギルド長なら、何かと会う機会もあったのかも知れない。
仲良くは無さそうだけど……。
お母様はギルマスの腕を掴んで、応接室らしき場所へ引き摺って行った。
私達もそれに続く。
それなりに広い応接室だが、私達が全員入ると少々手狭に感じた。
設置されているソファーにはお母様と、対面にギルマスが座る。
直ぐに済む話だと言うので、他の面々は立ったまま成り行きを見守った。
「時間が惜しいから単刀直入に言うわ。ゴイン、今日私達の護衛をしなさい」
「なんでいきなり命令してんだよ!?俺は忙しいから無理だぞ!」
え?ギルマスを直接護衛につけるつもりだったの?
お母様、いくらなんでもそれは無茶では……?
「承知しました」
と、いつからそこに居たのか、突然現れた女性が会話に割り込んで来た。
誰?
「ネリ、久しぶりね」
「お久しぶりです、ファム様。ギルマスの仕事は副ギルドマスターである私が代行しますので、どうぞ連れていってください」
「てめぇ、ネリ!俺を売ろうとするな!」
どうやら女性はネリさんと言うらしく、副ギルドマスターのようだ。
眼鏡を掛けてて、スーツ姿の凄く出来る女って感じ。
かっくいい!
そして、反論するギルマスを冷ややかな眼で見下ろすネリさん。
「最近高ランクの冒険者が他所に移る事が多く、ギルドの経営がままなりません。残った手段はギルマスを売り飛ばすしか……」
「いっぱいあるだろ手段!真っ先に最終手段使うんじゃねぇよ!」
「というのは冗談です。そもそも侯爵家の方々の護衛につける程の高ランク冒険者がいません。これはギルマスにしか出来ない仕事です」
「くっ、確かにそうだが……。まぁ、しょうがねぇか……」
渋々といった感じで項垂れるギルマス。
そして汗で黒光りしたギルマスの頭部を、ネリさんがタオルで拭いていた。
不思議な光景……。
という事でギルマスを護衛として加えた私達一行は、今度こそ目的地へと向かう事になった。