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視察

 朝、メイドが起こしに来た声が聞こえたが、私は布団の中でモゾモゾと丸まった。


「ミーネ、まだ眠い……」

「寝ぼけないでください。私はナナですよ。お嬢様がいるのは侯爵領の領主邸です」


 んあ……?

 そっか、昨日は魔力が尽きて領主邸に転移して来たんだっけ。

 その後数時間に渡るお母様の説教を経てようやく寝られた状態なので、全然睡眠が足りてないよ……。

 あ、でも魔力はそこそこ回復してるなぁ……。

 さっさと王都に帰って二度寝しようかな?


「ちなみに奥様からの伝言ですが、『今日は私の視察に付き合いなさい』だそうです」


 さすがお母様、的確に逃げ道を封じてくるわね。

 そういえば、牛運搬飛行物体(UUFO)に積んだままの牛達を元ゴブリンの集落に引き渡して来ようと思ってたんだった。

 何度も往復するよりは侯爵領に留まってた方がいいのか。

 うーん、でもフランちゃんを王都に送るのが先だよね。


 寝ぼけ眼であれこれ考えてるうちに、メイドのナナによって着替えさせられる。

 そして欠伸をしながら朝食を取りに食堂に向かった。


「おはようございます、お母様、お兄様」

「おはよう」

「おはよう、アグリ」

「アグリちゃん、おはよう!」


 おや、フランちゃんももう起きていたのね。

 フランちゃんは説教受けてないから寝不足ではなさそうだ。


「おはようフランちゃん」


 私はフランちゃんの横の席に着いた。

 程なくして朝食が運ばれて来たのだが、何故か朝から大ボリュームのステーキだった。

 肉体労働の農家でも朝からこんなに重いもの食べないよ……。

 領主邸の食事はどうなってるんだろう?


「フラン嬢が提供してくれたワイバーンの肉だよ」


 とお兄様が説明してくれた。

 ワイバーンなんて昨日の草原にいたかな?

 一口サイズに切り分けて口に入れると、肉はホロリと溶けるように口の中に広がっていった。

 意外と食べやすいわね、ワイバーン。

 味も下級とは言え龍種だけあってなかなかのものだ。

 今度見つけたら狩っておこうっと。


 それはそうと、お母様には確認しておく事があったんだ。


「お母様、視察に付き合うようにとの事でしたが、どちらへ?」

「最近侯爵領の北部で魔物が増加しているそうよ。それで農民達が襲われて、収穫期にも拘わらず人手不足になってるらしいの。その現状を把握する為の視察ね」


 そういえば魔物が増えているからと先日お兄様達が北部へ遠征してたのよね。

 山の向こうの草原にもかなりの数の魔物がいたし、あの辺りから増えて来てるのかも知れない。

 もっとも草原の魔物はフランちゃんが殆ど狩っちゃったけどね。


 それにしても収穫期なのに人手不足か……。

 私がスキルで収穫しちゃってもいいのかな?

 いいよね?

 疼いて来た!

 あ、でもその前に、


「承知しました。でも、フランちゃんを王都に送って来てからでいいでしょうか?」


 もう料理スキルの使い方は教えてあげたから、王都に戻っても大丈夫だと思うし。

 ところがフランちゃんは首を横に振る。


「アグリちゃん、私は暫く帰らなくても大丈夫だから。今朝通信魔導具を借してもらって、家にはもう連絡してあるの」

「え?そうなの?」


 行ったり来たりしなくていいのは助かったけど、気を遣わせちゃったかな?

 更に突然、


「それと、その視察に私も連れていってください」


 などとフランちゃんが言い出した。

 さすがにそれはお母様の許可が下りないと思うよ……。


「いいですよ」


 いいんかーい。

 昨日、護衛も無しにフランちゃんを連れ出した事でこっぴどく説教されたから、さすがにダメだろうと思ったのに。


「母様、自分も一緒に行くつもりだったのですが、護衛が足りないですね」

「それについては大丈夫よ」


 どうやらお兄様も同行する予定だったようだ。

 この領主邸で公爵令嬢であるフランちゃんの護衛につけるのは、執事のシルヴァと執事見習いのヴァンぐらいだろう。

 そもそも私達家族に護衛とか必要だろうか?

 普通に過剰戦力だと思うけど……。

 その辺はお母様に考えがあるようなので、私が気にする事でもないと思う事にした。


 朝食を終えて着替えた後、私達は領主邸の玄関前に集まる。


「それじゃあアグリ、北部にあるラディッシュという街まで転移してちょうだい」


 あれ?私の転移で行くの?

 お母様が自動二輪車ルシフェルを引いて来たから、私も軽トラ出した方がいいのかな?って思ったのに。


「ラディッシュで護衛を捕まえてからは普通に移動するので、ルシフェルも連れて行きます」


 護衛って捕まえるものだっけ?

 不思議な表現に困惑したが、まぁお母様が言うならそうなんだろう。

 ラディッシュには冒険者ギルドがあるから、そこで冒険者を雇うのかも知れない。


 全員が私に掴まったのを確認してから、私は農奴スキル『瞬間移動』を発動した。

 目の前の景色が一瞬で変わる。


「す、凄いですな……」

「マジか……」


 護衛として付いて来たシルヴァとヴァンが驚いている。

 長距離を転移出来るスキルってのはかなり珍しいらしいからね。

 あれ?何故かヴァンが悲しそうな目で私を見て来たんですけど……。

 そしてボソリと呟く。


「このスキルはヤバい。護衛達の心の安寧の為にも、やはり俺が封印してやるべきか……?」


 瞬間移動とか見せちゃったから、またヴァンの厨二心が発動してしまったようだ。

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