表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/87

転移

 侯爵家執事のセヴァスは、アグリが公爵家の令嬢であるフランと会話しているのをジッと見つめていた。

 護衛として襲撃を警戒しているという側面もあるのだが、最近のアグリの動向は目が離せないものがあるからだ。

 先日も護衛としての奴隷を購入に行ったのに、子供の奴隷を購入してしまったり。

 孫のヴァンからの報告を受けた時は、そのやんちゃぶりに天を仰いだ程だ。

 護衛の制止を無視して単独でゴブリンキング討伐、その後何故かゴブリン達を人化させて従えているらしい等。

 強力なスキルを得ている事が分かったのは喜ばしいが、やっている事はとても貴族の令嬢としては看過できない程だ。


 そのお嬢様が、今親友と何やら秘密の会話を行っている。

 聞き耳を立てても内容はほぼ聞こえない。

 読唇術で口の動きを読もうにもそれを警戒してか、こちらを向こうとはしないのである。

 所詮子供同士の会話なのだから、そこまでして知る必要も無いかとセヴァスが思った時、事態は急変する。


 アグリがセヴァスの方を向いて手を振った。


「私達、ちょっと寄るところが出来たから先に帰ってて!」


 セヴァスは青ざめる。

 地面を蹴ってアグリの下へ駆けつけようとしたが、2歩目を踏む前にアグリ達の姿は掻き消えてしまった。

 急ぎ振り返り、ヤンとマーに問う。


「お嬢様は何処へ!?」


 ヒクヒクと鼻を動かしたヤンとマーだが、困惑したように眉根を寄せただけだった。


「たぶんもう王都にはいない」

「近くで臭いはしないの」


 どうやったのか、奴隷を購入してからマーの使う転移系スキルをアグリも使えるようになってしまっていた。

 マーはそれ程遠くまで転移出来ないが、厄介な事にアグリは魔力に任せていくらでも遠くへ転移出来てしまうらしいのだ。

 転移する瞬間に踏み込んで体に触れれば、一緒に転移してしまうので何とかなるが、今回は距離が離れ過ぎていて触れる事は適わなかった。


「でもたぶんあっちの方にいる気がする」

「うん、わたしもそう思うの」


 ヤンが東の方角を指し示した。

 2人は野生の勘なのか、何故かアグリの場所を離れていても把握出来る。

 東の方角——それは侯爵領のある方角だ。

 そちらへ視線を向けて、セヴァスは盛大に溜息をついた。


「お嬢様……奥様からの説教の時間は倍にしてもらいますからね」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 転移を終えた直後、何故か背中がゾクリと冷えた気がした。

 長距離転移による副作用だろうか?

 急激な寒暖差による体調の変化があるのかも知れない。

 気をつけた方がいいかな。


「フランちゃん、大丈夫?」


 一緒に転移してきたフランちゃんの体調が気になったので声を掛けてみたが、フランちゃんは暫く呆けてしまっていた。

 そして急激に再起動すると、焦ったように騒ぎ始める。


「こ、ここ何処っ!?なんで急に景色が変わったの!?」

「落ち着いてフランちゃん。ここは侯爵領の北にある畑の一角よ」

「ええっ!?さっきまで王城にいたのに!?」


 マーのスキルである『瞬間移動』は本来短距離を高速移動する為のものらしい。

 でも私は自分の魔力量に任せて長距離の瞬間移動にも成功しているのだ。

 先程まで居た王城の庭の芝色が、一瞬にして畑の土色へと変化したのだから、フランちゃんが困惑するのも仕方がない事だろう。

 もう薄暗くなって来ているので、畑には誰も居なかった。

 しかし綺麗に植えられたダイコンとハクサイの芽が少しだけ顔を出していたので、私の気分はとても高揚した。

 スキルちゃんが遠隔指導しているとはいえ、ちゃんと元ゴブリン達は農業をこなしているようだ。

 これは収穫が楽しみだね。


 さて、ここへ来たのは畑の確認がしたかったからと言うのもあるけど、元ゴブリンキングに聞きたい事があったからだ。

 私達は畑の先にある元ゴブリンの集落に向かった。

 集落には多くの元ゴブリンと、何故か普通の人間も混じっていた。

 何故それが区別出来るかと言えば、元ゴブリンは非常に薄着でほぼ半裸と言っても差し支えないぐらいのボロボロの服装だし、対して普通の人間は上下共にカッチリとした服を着ているので間違えようが無い。

 どうやら後者はお兄様が派遣した兵士さん達らしかった。


「止まれ!何者だっ!?」


 おや?

 どうやらこの兵士さん、私の顔を知らない人だったみたいだ。

 私は普段王都にいるから、こっちの侯爵領の兵士さんで私の事を知ってる人は少ないのよね。

 先日来た時も一部の人としか顔を合わせなかったし。

 しかし、直ぐに別の兵士さんが私を見て気付いたらしく、私を止めた兵士さんに声を掛けて来た。


「待て、その方はアグリお嬢様だ!」

「えっ!?まさかあのヴァンでも敵わないっていう化物お嬢様っ!?」


 おい、聞こえてるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 料理バトルと聞いたら私の脳内では輝く丼溢れる肉汁の滝を登る龍が炎を吐くアニメしか思い出せませんでしたが、昔から料理バトルマンガは奇妙奇天烈な部分が過分に含まれているもの…口から炎を吐かないよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ