料理スキル
警備の兵士長さんにめっさ怒られた……。
今後フランちゃんにちょっかい出させない為に稲妻で威嚇しておこうと思ったんだけど、王城の兵士達が襲撃と勘違いして大騒ぎになってしまったのだ。
芝生を『焼畑』で焼いたのは、火球を消火する為に一瞬で酸素を燃やし尽くす必要があったからだし、それはフランちゃんの証言で立証されたので、罪に問われる事は無かった。
寧ろ人に向けて魔法を放ったメリアナの方が今尋問されている。
まぁ彼女は公爵家の権力で握りつぶしてしまうんでしょうけどね。
漸く解放され、セヴァスの「奥様には魔導具でご報告済みです」の言葉に戦々恐々としていたところ、フランちゃんに呼び止められる。
「アグリちゃん。その……少しだけ時間いいかな?」
「ええ、もちろんよ」
私が承諾するも、フランちゃんは気まずそうにセヴァス達護衛の方へ視線を送る。
あぁ、乙女な悩み事なのね。
フランちゃんったら、おませさん。
同性であるヤンとマーにすらも聞かせたくないようだけど、相変わらずフランちゃんは恥ずかしがり屋さんだなぁ。
「セヴァス、少し離れてもいいかしら?フランちゃんと2人きりで話したいの」
「……承知しました」
渋々ではあるがセヴァスが頷いてくれたので、私とフランちゃんは声が聞こえないぐらいの離れた場所へ移動する。
視界は遮られていないが、王城の庭はかなり広めなので秘密の話をしても大丈夫だろう。
「それでどうしたの、フランちゃん」
「えっと、さっきは助けてくれてありがとう」
「気付けて良かったわ。またあいつらに絡まれたらすぐに言ってね」
「うん。それでね、さっき絡まれてた理由なんだけど……」
フランちゃんは何故か少し言い辛そうにする。
あれ?恋愛相談的な事かと思ったけど、少し雰囲気が違うなぁ。
もしかして、さっきの令嬢達に想い人に近づかないで的な事を言われたとか?
「実は私のスキルが関係していて……。私のスキルね、実は『生産系』だったんだ」
全然違う話だった……。
全く色気とか無かったよ。
そうか、スキルの話となると、そうそう誰にでも聞かせられる話ではないわね。
特に公爵家の令嬢でありながら『生産系』スキルを授かってしまったとなれば、それはかなり厳格に秘匿されるべき情報だ。
私だって今追放されないように四苦八苦してるんだから。
「フランちゃん、それ私に言っても良かったの?」
「うん。家族にすら言えない事だけど、親友であるアグリちゃんだからこそ相談したの。でも、何故かさっきの令嬢達はその事に気付いているみたいで……」
家族にすら言ってないスキル情報に気付いている?
それって魔眼系のスキルで看破されたって事だろうか?
あの陰湿なメリアナの周囲に魔眼のスキル持ちがいるって、ヤバくない?
「たぶん、スキル降ろしの時にメリアナ・アルビオスに何かされたんだと思う。スキル降ろしの前に、メリアナは確かに『生産系スキルを授かりそうね』って言ってたし」
何かされたって……。
他人のスキルに干渉出来るとしたら『呪術』しか無いと思うけど、それはお父様達が潰した筈だし。
生き残りがいて、アルビオス公爵家が匿っているとか……?
あの公爵家ならやりかねないかも。
でもきっと証拠とかは見つからないだろうなぁ。
それが分かってて、敢えてフランちゃんにほのめかしたんだろうし。
今更そんな事考えてもしょうが無いわね。
問題はフランちゃんが今後どうするかだ。
「ご家族にも言って無いスキルって、どんなスキルなの?私にも言えないなら、無理に聞こうとは思わないけど」
「ううん、ここまで言ったんだし、アグリちゃんは信用出来るから教えるよ。あのね、私のスキルは『料理』だったの」
『料理』スキル——それって、チートスキルやん。
そんな最強スキルがありながら、何故令嬢達に絡まれて、されるがままだったのだろう?
あ、そうか。
スキルを得たばかりだから手加減が難しかったのね。
たしかに、『料理』で殺さない程度に加減するのって難しいかも。
しかし、そんなに強いスキルを得たにも拘わらず、フランちゃんの表情は暗い。
「私は昔からお料理が好きで、貴族令嬢でありながら厨房でお料理をしたりしてたから、こんな弱いスキルを授かってしまったんだと思う……」
……ん?弱い?
「え?フランちゃん、『料理』スキルが弱いと思ってるの?」
「え?アグリちゃん、『料理』スキルじゃ闘ったりできないでしょ?」
うむ、話が噛み合わない。
ひょっとしてフランちゃん、『料理』スキルの使い方を知らないのかな?
あぁそっか、この世界じゃ料理バトル漫画とか見た事無いだろうから、料理で闘うって発想がそもそも無いのか。
それなら、私が教えてやらねばなるまい。
親友が頼ってくれているのだから、全力を尽くすよ!
そして、あわよくば私も『料理』スキルを使えるようになりたい。
ならばやる事は一つだ。
「フランちゃん、『料理』スキルは強いよ。私が使い方を教えてあげる」
「え?ホント!?」
「うん、但し私と契約して『農奴』になって貰わなければならないの」
「け、契約……?農奴?」
「農奴っていうのは、農業に従事する奴隷みたいなものだけど、私のスキル上の呼び名でしかないから気にしないで」
「奴隷ってとこが無視出来ないぐらい凄く気になるんだけど……」
私と契約して『農奴』になって!と言いたいとこだが、それはやべぇ謎生物っぽいから違う言い方にしよう。
「フランちゃん、力が欲しいか?」
フランちゃんは俯いて考え込む。
しかし葛藤するまでも無かったのか、直ぐに意を決した顔を見せた。
「……うん、欲しい!私、アグリちゃんを信じるよ!農奴が何なのか良く分からないけど、お願いします!」
よし!契約完了だ!
うーん、今後もこのような感じで農奴契約を進めて行く事になるだろうから、何か名前が欲しいわね。
『農業』スキルによるパワーアップだから……、
「ではフランちゃん、あなたに『Farms』を授けるわ!」