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挨拶

 私はジトッとした目をシリアに向ける。

 するとそれを受けたシリアは「てへっ」と言わんばかりに小さく舌を出してウィンクした。

 あざと可愛い!

 残念ながら、暫く会場内は静寂を取り戻す気配は無さそうだった。


 そこへ大きな声でシリアとコルンに話しかける人物が現れる。


「お初にお目にかかります!レコンギス公爵の長女アンディと申します!お見知りおきを!!」


 周囲の貴族はその声に圧倒され、ざわめきが少し収まった。

 アンディ・レコンギス——確か私より2つ年上の公爵令嬢である。

 身長はかなり高く、少し日に焼けた肌がブロンドの髪とマッチして、とてもワイルドに見える。

 当主であるレコンギス公爵は、剣技で右に出る者はいないと言われる程の剣豪であり、その娘もまた剣の道を邁進していると聞く。

 身分的に彼女が一番にシリアとコルンへ挨拶するのは当然だろう。

 しかし、いつもいの一番にしゃしゃり出るアルビオス公爵家の令嬢が見当たらないのは妙だなぁ。

 親友の公爵家令嬢フランちゃんもいないし、そうすると次に挨拶するのは侯爵家令嬢の私?

 今回のパーリィは子供主体で開かれているので、付き添いに大人も混じってはいるが基本的に傍観者である。

 それでも貴族界の縮図として、子供であっても貴族位を無視した行動は慎むように皆躾けられている。

 もっともアルビオス公爵家のメリアナ嬢は、最高位の公爵家ではなかったとしても、いの一番にしゃしゃり出て来そうだけど……。


 私は2人の殿下の前へ行き、頭を垂れる。


「シリア殿下、コルン殿下。カルティア侯爵家の長女アグリです。今後ともよろしくお願いいたします」

「先程は失礼しました、アグリ様。これからも仲良くしてください」

「アグリ様。僕も仲良くしていただきたいです」

「ええ、勿論です」


 一先ず2人に挨拶を終えたので立ち去ろうとすると、シリアとコルンの後ろに居たグレイン殿下に呼び止められた。


「アグリ嬢、少しいいでしょうか?」


 回り込まれた。

 殿下からは逃げられない。

 そして貴族達がまたざわめき始めた。


「グレイン殿下、先日は失礼致しました。お体の方はいかがですか?」

「え、ええ。問題ないですよ……」


 やはり今日も挙動が怪しい。

 私が殿下の顔色を覗おうとジッと見つめると、殿下は僅かに頬を赤らめて顔を逸らしてしまった。

 熱があるように見えるけど、本当に大丈夫?

 と、何故かグレイン殿下はシリアに蹴りを入れられていた。

 あれ?兄妹仲悪いのかな?


「お兄様、しっかりなさいませ」

「わ、分かっているよ」


 その様子をコルンは少し離れたところで呆れたように見ている。

 王族の兄弟関係って、継承権とかの問題があるから複雑なのだろうか?

 シリアに促されて、グレイン殿下が再度話しかけてくる。


「ここでは少し話しにくいので、向こうのテラスへ移動しませんか?」


 パーリィで追放とか、前世の小説なんかでは定番だったけど、さすがに現実では侯爵家としての立場を慮ってくれるという事か。

 もしや、既に殿下の魔眼は私のスキルを看破出来るレベルに達してる?

 これは覚悟を決めねばならないか……。

 いざとなれば、いかに『農業』スキルが優秀かを説いて、情状酌量の余地を築くしかないわね。


「承知しました」


 夕日が差し込み、橙色に輝く窓に目をやりながら歩く。

 人目を避ける位置にあるテラスの端へ、殿下と共に進んだ。

 殿下の護衛達はテラス手前で控えるようなので、私の護衛達にもそこで控えてもらう事になった。


 テラスの外には綺麗な芝生の庭が青々と広がっている。

 耕したい……。

 巨大な外壁に囲まれてるし、風が入って来ないから穂が長い稲を育てるにも良さそうだ。

 でも流石に王城の庭に畑や田んぼを作ったら怒られるだろうなぁ。

 って現実逃避してる場合じゃないよね。


 くるりと振り返ったグレイン殿下の瞳は、若干潤んでいるように見えた。

 早くも、魔眼を発動した!?

 私は無意識に魔力を高めて抵抗する。

 しかし、どうやらそれも無意味だったようで、直ぐに殿下の目が真剣なものに変わる。

 一瞬でスキルは看破されてしまったか……。


「アグリ嬢。どうか、こ……こ……こ……」


 「侯爵家から追放されてくれ」とでも言うおつもりだろうか?

 でも優秀な殿下であれば、私のスキルの有用性に気付いてくれる筈だ。

 なんとか説得を試みる——そう思った時、テラスの外から複数人が誰かを罵るような声が聞こえて来た。

 そして、その中には聞き覚えがある声も混じっていた。

 またあの令嬢か……。

 パーリィ会場にいないと思ったら、外で何をやっているのだろう?


「殿下、申し訳ございません。少々席を外させていただきます」

「え?ちょっと待ってくれないか。今から告は……」


 殿下が何か言おうとしていたが、たぶんあの令嬢はまた誰かを虐めているのだろうし、貴族として直ぐに駆けつけなければならない事態だと思う。

 殿下、断罪は後で受けますので、今はご容赦を。

 私は即座に奴隷スキル『瞬間移動』を発動して、テラス外の声が聞こえた方へと転移した。

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