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ヤンとマー

 数日経って、ヤンとマーも大分侯爵家に馴染んで来た。


「ヤンちゃん、マーちゃん、天気の予測教えて」

「昼過ぎから雨だな」

「でも午前中はお日様が出続けると思うの」

「ありがとー。じゃあ午前中だけ洗濯物干す事にするわ」


 メイドのミーネが、ヤンとマーから天気を聞いて洗濯場へ駆けて行った。

 2人の天気予測は恐ろしい程よく当たる。

 それを知った執事やメイド達が、ちょくちょく天気を聞きに来るようになった。

 まぁこの世界では天気を予測する術が無いもんね。

 それを正確無比に当てるとなれば、重宝されるのも当然の事だろう。

 残念ながらこの能力はスキルによるものじゃないらしく、農奴スキルで再現する事は出来なかった。


 そしてヤンとマーは正式な護衛となる為に、毎日セヴァスに稽古を付けて貰っている。

 今日もサツマイモ畑の雑草抜きを終えた後、稽古が始まった。


「くらえっ!」


 ヤンがセヴァスの足下に『重力』スキルを展開した。

 しかしそれをセヴァスは素早く横へ移動して躱す。

 その先にマーが待ち構えていてセヴァスを攻撃するが、それも全て受け流されてしまった。


 今度はセヴァスの攻撃が繰り出され、それをマーは『瞬間移動』スキルで後方に移動して躱す。

 それをセヴァスが追撃し、マーは徐々に防戦一方になっていく。

 結局ヤンとマーはそのままセヴァスの猛攻を防ぎきれなくなって、降参してしまった。

 それでも数日前はセヴァスに触れる事すら適わなかったのだし、動きは格段に良くなっていると思う。


 ただ、ヤンとマーは身体能力は高いけど、スキルの扱いにまだ慣れていないように見えた。


「2人とも、せっかく凄いスキル持ってるんだから有効に使わないと。ちょっと私がやってみせるわね」


 私は農作業用に動きやすい服を着ていたので、そのまま稽古に参加した。


 セヴァスと向き合って構えを取る。

 セヴァスは私が何をするのか楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべて、攻撃を仕掛けて来た。

 高速で迫るセヴァスの拳に向けて、横方向から奴隷スキル『重力』を使い、手で払うようにしていなした。

 セヴァスは驚きに目を見開くも、素早く体を反転させて逆側の拳を突き出して来る。

 そこで『瞬間移動』を発動。

 セヴァスの脇下辺りに背を向けた状態で現れ、そのままセヴァスの腕を取って背負い投げた。

 セヴァスが空中で身を捻ったので投げは決まらなかったが、スキルの使い方はヤンとマーに見せる事が出来たと思う。


「2人ともスキルを使う時に向きを意識してみて。ヤンは下向きだけじゃなくて、横向きに重力を使う事で敵の攻撃をいなせる。マーは転位先で自分の向きを変える事によって、避けるだけじゃなく即カウンターに入る事が出来るわ」

「「なるほど」」


 と、調子に乗ってヤンとマーにスキルの使い方を教えた訳だが、当然セヴァスが訝しむ。


「お嬢様、何故ヤン嬢とマー嬢のスキルを扱えるのですか?」


 あ、やっべ……。

 そりゃそうよね。

 他人のスキルが使えるなんて、かなりヤバい事だし。


「わ、私のスキルは優秀だから、擬似的に再現する事ぐらい訳無いわ」


 嘘は言ってないし。

 スキルちゃんは優秀だもの。


『恐縮です』


 セヴァスのジトっとした目と視線を合わせないように、私は顔を逸らす。

 とそこへ、進化したルシフェルに乗ったお母様が颯爽と現れた。


「アグリ、そろそろ王城へ行く準備を始めなさい」

「あっ、はい」


 とうとう今日は、王城でのパーリィの日になってしまった。

 結局グレイン殿下に対する策は何も無いままだ。

 前回お会いした時も結局スキルバレはしなかったんだし、まだ私の魔力量の方が多い筈だから大丈夫とは思う。

 殿下の魔眼が写○眼に覚醒してなければね……。


 今日の装いは淡い水色のドレスでコーディネートされている。

 メイドのミーネが妙に気合いを入れて着飾ってくれた。

 正直最近は農作業着の心地よさに目覚めてしまっているので、ドレスは何か落ち着かない。

 今度フェチゴヤ商会に、朝ドラヒロインみたいなオーバーオールを発注しよっと。


「今日こそ勝負の日ですから、ちゃんと殿下と向き合ってくださいね」


 ミーネが眉を釣り上げて厳重注意するように言って来た。

 勝負の日かぁ。

 つまり逃げる事は許されないと……。


「分かったわ」


 私は殿下の魔眼に負けないように静かに魔力を高めた。

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