魔力供給
サツマイモの苗を市場で手に入れてホクホク顔で侯爵邸に戻ると、農家御用達自動二輪車に跨がったお母様が出迎えてくれた。
お母様は、サツマイモの苗を見て少し怪訝な顔を見せる。
更にヤンとマーを見て眉間に皺が寄った。
これアカン奴やない?
「さてアグリ、説明してくれるかしら?」
「な、何をでしょうか……?」
「貴方は護衛となる奴隷を購入しに奴隷商館へ行ったのでしたよね?」
「はい」
「その購入した奴隷はどこにいるの?」
これ、分かってて聞いてるよねぇ。
お母様、はっきりとヤンとマーを見て言ってるもの。
「この獣人の少女達がそうです。即戦力とはいかないまでも、セヴァスに鍛えて貰えれば立派な護衛になれる潜在能力はあります」
「潜在能力ね……」
お母様はボソリと呟いた後、ヤンとマーに向かってかなり強めの魔力を開放した。
「ぐっ!」
「うぅっ!」
歯を食いしばってお母様の魔力圧に耐えるヤンとマー。
でも農奴になった時に、何故かヤンとマーの持つ魔力が爆発的に増大したので、たぶんあれぐらいなら耐えきれる筈だ。
程なくして、お母様は魔力を引っ込めた。
「まぁいいでしょう。確かにそれなりの素質はあるようです。暫くはセヴァスの下で修行に励みなさい」
「「は、はい!」」
とりあえずお母様に認められたようで、良かった。
ヤンとマーも安堵した表情を見せている。
では奴隷問題も解決した事だし、私は農作業へと……
「お待ちなさいアグリ。その手に持っている袋は何ですか?」
行く事は出来なかった。
やっべぇ。
どうやって誤魔化そう。
「えぇと、これは……花です。綺麗な花が咲くので庭の花壇に植えようかと思いまして」
実際は庭の畑に植えるんですけどね。
更に言えば、綺麗な花が咲くサツマイモは生育が悪いサツマイモなので、花を咲かせるつもりは無いんですけどね。
そこでセヴァスが一言。
「店主は食用と言ってた気がしますが」
余計な事言うんじゃありません!
それに対し、お母様がはぁと溜息をつく。
「アグリ」
「は、はいっ!」
「私のお願いを聞いてくれるなら、今後もそれを見逃してあげましょう」
えっ?
もしかして、お母様は私が農業やろうとしてるのを知っている?
いやいや、そんな筈はない。
もし知られていたら、とっくに侯爵家を追放されてるだろうし。
恐らく、私の奇行を見逃す的な意味だと思う。
奇行って思われてるのもちょっと来るものがあるけど……。
「お願いとは何でしょう……?」
「ルシフェルを私にちょうだい」
いつか言い出すとは思ってたけど、マジっすか?
「お母様、ルシフェルは私からの魔力供給が無いと動かな……」
あれ?
そういえばお母様が今ルシフェルに跨がってるけど、ちゃんとエンジンが動いてる。
お母様はルシフェルに執着してたから、私が出掛けてる間中乗ってただろうに、どうしてまだ私が充填しておいた魔力が残っているんだろう?
何かがおかしい……。
「お母様、ルシフェルを動かす為の魔力はどうしたのですか?」
「魔力が尽きたみたいだから、私の魔力を供給したら動くようになったわ」
なんで?
私の魔力しか供給出来なかった筈なのに……。
それについてスキルちゃんが呟く。
『どうやら農家御用達自動二輪車は、母君の魔力からも充填出来るように自ら進化したようです』
進化って、もうゲットされちゃってるって事?
『名称も“ルシフェルズ・ハンター”に変更されました』
農家御用達のスーパーな自動二輪車が、ハンターな自動二輪車になったんかい!
形状もスリムになってるし。
確かに根本的な機構は一緒かも知れないけど、それって農業で使ってる人あんまりいないと思うんですが……。
うーん、なんかもう、どうでも良くなってきちゃった。
「承知しました。ルシフェルはお母様にお譲りします」
「ありがとうアグリ。やったわね、ルシフェル!」
お母様が嬉しそうなので何よりです。
私は遠くを見つめながら、侯爵邸の庭の畑へと歩を進めた。
ふと、軽トラを出したままだった事を思い出し、振り返ると、セヴァスが軽トラにそっと手を添えていた。
「セヴァス、何をしているの?」
「この白いゴーレムに私の魔力が供給出来るかな?と思いまして」
やめてええええぇぇっ!!