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商館

 王都の公道を軽トラで走ると、住民達は眼を見開いて二度見する。

 しかし、先日盗賊を引き連れて兵舎へコンバインハーベスターで乗り付けた後、帰りは軽トラで侯爵邸まで戻ったので、割と周知されていたのか通報まではされなかった。

 そして助手席には、護衛として執事のセヴァスが同乗している。


「これは中々快適な乗り物ですな。これに乗ったらもう馬車に乗れる気がしません」


 空調が効いてるので、年配のセヴァスにとってはかなり居心地の良い空間なのだろう。


「ただ、お嬢様が運転している事だけが懸念材料です。ふらふらと市場の方へ行ったりしますし」


 ついついサツマイモの苗の事ばかり考えてたからね。

 でも今はちゃんと奴隷商館に向かってるでしょ。


「出来れば私が運転を代わりたいのですが、奥様が乗っていたゴーレムのように、これを私が運転する事は出来ませんかな?」


 セヴァス、お前もか!

 軽トラが名前付けられてセヴァスに懐いたら、また自我が目覚めちゃうじゃないの!


「そ、それは無理ね」

「お嬢様、その汗は嘘を吐いてる味がしそうですね」

「ほほ、ほら!もう奴隷商館に着くわよっ!」


 訝しげに見るセヴァスを無視して、強引に話を打ち切った。

 軽トラまで奪われてなるものか。


 奴隷商館に辿り着くと、そこには小太りで髪の薄い男性が雅な服を着て立っていた。


「お待ちしておりました、アグリ様。本日はよろしくお願いいたします」


 彼こそはフェチゴヤ商会の商会長、ワルダノゥ・フェチゴヤ。

 ワルダノゥ商会長は揉み手をしながら、にこやかに笑っていた。


「では、中へご案内します。どうぞこちらへ」


 商会長の後に続き奴隷商館の中に入ると、建物内はイメージとは違ってホテルのロビーのように小綺麗だった。

 なるほど、商売の上手い人は商品だけでなく、こういった魅せる部分にも気を配っているのね。

 前世の農家も、商品として良く見せるためにかなりの農作物を規格外品として処分してたっけ。

 見た目悪くても味は一緒だけど、売るとなるとそれなりに見栄えが求められるのよね。

 どの世界でも商売ってそういうものなのか。


「では、あちらの応接間でお待ちいただきたいと思います。私が見繕った奴隷を連れて参りますので」


 あぁ、そういう購入方法なんだ。

 後ろめたい事があるとは思わないけど、お目汚し対策として奥に連れて行かないだけかも知れない。

 でもそれも含めて、この奴隷商館ではどのように奴隷を扱っているのかも見ておきたいのよね。

 雑な扱いをするような人のおすすめは聞きたくないし。


「私、全ての奴隷を見て決めたいのだけれど、よろしいかしら?」

「そ、それは……」


 チラリとセヴァスの方へ確認するように視線を送る商会長。

 それに対してセヴァスは、


「お嬢様がそう望まれるのであれば」


 と反対はしなかった。

 商会長は溜息をつくが、特に慌て繕うようでもなかったので、後ろめたい事がある訳ではなさそうだ。


「承知しました。ただ少々訳ありの奴隷もおりますので、出来ればご容赦いただきたいのですが」

「もちろん心得ております」


 合法であろうとも目を背けたくなるような事もあるわよね。

 ここは異世界なのだから、前世の常識に縛られてはいけない。

 そもそも奴隷を許してる法律がある時点で価値観が違うのだから。


 商会長が奴隷達の控えている場所へ私達を案内する。

 一段階段を下った事から地下であると思われるが、空調も効いているし、かなり明るくて健全な雰囲気だった。

 室内は小綺麗で、家具などもそれなりに揃えてある。

 ただし奴隷達は皆、鉄格子の向こう側。

 皆こちらをじっと見つめていた。

 まぁ、さすが一流の商人。

 ちゃんと奴隷を丁寧に扱ってはいるようだ。

 前世のイメージがあった私は、少し安堵する事が出来た。


「ご連絡では護衛となれる強さを持った奴隷をお探しとの事。強い奴隷は需要がありますので、手前側ほど強くなるように配置しております」


 なるほど。

 需要があるという事は入れ替わりが激しいだろうから、手前側にいた方が合理的だもんね。


「ただ、強い者ほど我が強く、扱い辛い面もあります。ですので、性格と強さのバランスを考えて提案させていただこうと思っていたのですが……」


 うーん、商会長の提案ももっともだ。

 私には奴隷の強さとか性格とか分からないし。

 とりあえずの条件としては、強い事と女性である事ぐらいなんだけど……。

 私としては有用なスキルを持ってる方が望ましいんだよね。


「奴隷のスキルを教えてもらう事は出来ませんよね」

「法律上、いくら奴隷でも強制的にスキルについて尋ねる事は出来ません。但し、雇ってもらい易くする為に自ら開示している者は例外です。鉄格子に貼ってある札にスキル等について記載されている者がそうです」


 なるほど、そういう奴隷もいるのか。

 私は順番にスキルが開示されている奴隷を見ていく。

 と、とあるスキルに目が留まり、私はその鉄格子の奥を見た。

 そして驚愕する。

 そこにいたのは、白髪に犬の耳が生えた獣人の子供達だった。

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