自動二輪車
また襲撃!?
いや、以前王都の空では確かに私を狙っていたが、今回の爆発位置はもっと後方だ。
狙われたのは、捕まえた盗賊達を乗せている牽引台車。
でも私や殿下達を狙うならともかく、盗賊達を狙うメリットって何よ?
隠蔽しようとした?
つまり、今回の盗賊襲撃には黒幕がいて、殿下達が狙われたのも偶然じゃないって事ね。
後方をミラーで確認すると、護衛の騎士達は爆発には巻き込まれなかったようで、全員無事だった。
次に確認すべきは、どこから攻撃されたかだけど……。
『左後方の森の中から撃たれたと思われます』
さすがスキルちゃん、敵の位置を捕捉していたようだ。
でもこのコンバインハーベスターでは小回りが利かないし、とても森の中へは入っていけない。
とそこへ、前方を走っていたお母様が異変に気付いて戻って来た。
「アグリ、敵は私が追います。あなたはそのゴーレムで殿下達を護りなさい」
「承知しました、お母様」
侯爵家最強のお母様が追うのであれば私の出番は無いだろう。
お母様は自動二輪車のスロットルを一気に回した。
「行くわよ、ルシフェル!スピードのあっち側まで!!」
ちょっと、私の自動二輪車に勝手に名前付けないで欲しいんですけど……。
あと、スピードのあっち側には行っちゃダメですよ、お母様。
お母様はフルスロットルで浮き上がる前輪を力で抑え込み、木々が茂る森の中へ突っ込んで行った。
あかん……やはり私のスピード狂はお母様の遺伝だわ。
私は敵から少しでも遠ざかれるように、そのままコンバインハーベスターを走らせる。
私が召喚した農機は頑丈なので、運転席に居れば殿下達は安全だろう。
でも後ろの盗賊達は牽引台車に括り付けられてるだけだから、一発当たればお終いだ。
……と思ったけど、どうやらその心配も無さそうだった。
森の中で複数の爆発音が轟く。
敵がお母様を迎撃しているのだろうが、爆発地点が右往左往している事から全く捉え切れていない事が分かる。
お母様の相手だけで手一杯な敵は、こちらに攻撃する余裕も無さそうだった。
それにしてもお母様凄いわ。
森の中でバイクを走らせるのはかなり難しいだろうに、普通に戦闘をこなしてるし。
時折見えるのは、黒ローブに白い仮面の敵らしい人物と、木々を縫うように走りながら何かを飛ばすお母様。
王都で私を襲って来たのもあいつかな?
敵の放つ火球は、ドローンが攻撃された時のものに酷似していた。
徐々に追い詰められる白仮面。
焦りが見えて、攻撃も精度を欠いていく。
それをお母様が見逃す筈も無かった。
「もらった!」
お母様が右手に氷の槍を生み出す。
それが白仮面に向かって放たれる——と思った瞬間、急激に自動二輪車が減速した。
「なっ!?どうしたの?動いてルシフェルっ!ルシフェルうううううっ!!」
お母様の呼び掛けも届かず、ルシフェルは沈黙した。
いや、ルシフェルじゃなくて私の農家御用達自動二輪車だからね。
どうやらルシフェ……自動二輪車は充填していた私の魔力が切れたようだった。
ガス欠?ガスじゃないから魔力欠?
結局白仮面は何か魔導具を使って消えてしまった。
盗賊達を尋問すれば何か手掛かりが掴めるだろうか?
これもお兄様に報告しとかないとだね。
魔力が尽きた自動二輪車は、再度充填するのに時間が掛かるので一先ず帰還させた。
「ああ、私のルシフェル……」
お母様のではないし、ルシフェルでもありません。
他の農機を召喚するのも面倒なので、お母様にはコンバインハーベスターの運転席の脇にあるデッキに乗ってもらう事にした。
お母様は渋々ながら承諾して、デッキの手すりに寄りかかって黄昏れてしまった。
そんなに自動二輪車気に入ったのか……。
その後は再度の襲撃も無く、無事に王都に到着する事が出来た。
でも到着した途端、すぐに憲兵に囲まれてしまう。
そりゃそうなるよねぇ……これだけ大きな鉄の塊が王都に向かって走って来たら。
停車して、全員一旦降りる事にした。
私達が降り立っても、憲兵達は警戒を緩めない。
と、そこで王女殿下シリアが一歩前に出た。
「こちらにおわすお方は、カルティア侯爵家ご息女アグリ・カルティア様ですよ!お控えなさい!」
いやそうじゃないでしょ。
私よりあなたの方が身分高いんだから、私の名前使うのはおかしいよね?
あっ、お忍びって言ってたし、私も姿を見た事無かったぐらいだから、シリアとコルンの正体が王族だって知られるのは拙いのかな?
本当はお母様の名前でもいいんだろうけど、お母様は今、ルシフェルを失って無気力状態だ。
しょうがないから、ここは私が預かる事にしますか……。
「ふふふ、アグリお姉様の威光が増して、よりお兄様に相応しい立場になりますわ」
シリアが何かを呟いていたが、憲兵達の響めきに掻き消されて聞こえなかった。