殿下達の目的
普通型コンバインハーベスター——穀物を刈り取り、脱穀・選別をするための大型農業機械。
日本の米作りが盛んな地域では自脱型コンバインの方が多く見られるので、私としてもそっちの方が馴染み深いけど。
でも動画サイトで見た、広い大地を疾走する普通型の雄々しい姿は、農家の心を鷲づかみにしてくれた。
あれこそ浪漫よ!
そして今、私の隣で補助席に座る二人の殿下達も、心を鷲づかみにされてしまったようだ。
目をキラキラさせて内装やら、流れていく景色やらを見て興奮している。
サービスで前部オプションを上下させたり開閉させたりしたら、感極まって叫び出した。
「きゃー!格好いいですわ!!」
「変形したっ!凄い!格好いいっ!!」
そうだろうそうだろう。
農機の中でもとびきりの格好良さと収穫量を誇る。
何かオプションを動かしたら、凄く収穫をしたくなって来てしまったわ。
でもこのサイズの機械で収穫するには、先ず農地の基盤整備からしないとなのよね……。
今の侯爵領の農地にこの機械入れようとしても絶対無理だと思うし。
基盤整備か……。
農業に関係あるなら重機も召喚出来るかな?
『ギリギリ召喚出来るとは思いますが、間接的関係なので魔力消費が激しいですし、あまりおすすめ出来ません』
だよねぇ……。
スキルちゃんの言う通り、あんまり無茶な召喚は控えた方がいいか。
しょうがないから、木々もなぎ倒せるトラクターで無理矢理開墾するとしよう。
暫く走行していると、次第に殿下達の興奮も落ち着いて来た。
そろそろお話も出来るかなと思って、疑問だった事をお2人に聞いてみる。
「シリア様とコルン様はどうして侯爵領の街道にいたのですか?」
「お姉様、私の事は非公式な場ではシリアとお呼びください」
「ぼ、僕もコルンって呼んで欲しいです。あと敬語も要りません」
ええ〜?
いくらお姉ちゃんポジションでも、王族を呼び捨ては気が引けるなぁ……。
しかし、子犬のような2人の懇願する眼に、抗う事など出来なかった。
「分かったわ。では、シリアとコルン。これでいいかしら?」
「「はい!」」
うむ、可愛い。
妹と弟がこんなに可愛いものだったとは。
前世でも妹がいたような気がするけど、あんまり思い出せないのよね。
お父様とお母様はまだ若いんだし、今からでも頑張ってくれないかなぁ?
それはさておき。
再度、何故あそこを通っていたのかを聞いてみる。
「私達は、アグリお姉様にお会いしに行くところでした」
「え?そうなの?」
侯爵領に態々何の用かと思えば、目的は私だったと。
でも馬車の進行方向は王都に向かってたよね?
「しかし、道中で魔導具による呼出を受けてしまったので、やむなく王都に帰還する事になったのです」
「そっか、じゃあ偶然だけど会えて良かったよね」
「はい。お姉様の雄姿を見られて大満足です!」
「僕も、お姉様にお会いできて嬉しいです!」
私も可愛い妹分と弟分が出来て嬉しいよ。
って、そうじゃない。
肝心なのは、何の用があったかという事だ。
「でも、なんで私に会いに行こうとしてたの?」
「それは……お兄様にもう一度お会いしていただきたくて」
ちょっと待て。
まさか君達、敵だったのか……?
魔眼に晒され自分のスキルを詳らかにし、追放されろと?
「先日、お兄様がカルティア侯爵家から帰って来た後は、暫くどこかぼんやりとしていました。虚空を見つめては溜息をついたりと」
魔眼の使いすぎによる副作用が出ていたのね。
早々に帰らせて良かったわ。
あれ以上魔眼を使い続けたらどうなっていた事か。
シリアとコルンがどれ程の能力を持っているか分からないけど、私はグレイン殿下こそ、この国を統べるに相応しいと思っている。
だから私のスキルバレ云々以前に、殿下にはお体を大切にして欲しいのだ。
もちろん、出来る事なら追放されたくないけど。
「ですが、アグリお姉様が侯爵領へ向かわれたと聞き、お兄様はいつになく取り乱したのです」
え?どういう事?
私が侯爵領へ行く事と、グレイン殿下が取り乱すのが全く繋がらないけど……。
殿下にとって不利になるような何かが侯爵領にあるのだろうか?
魔眼……写○眼……ヴァン……はっ!
殿下が取り乱した原因は、もしやヴァン!?
王族のスキルは絶対秘匿されるべきもの。
しかし、ヴァンは夢に見る程魔眼に憧れているから、何かの拍子に殿下のスキルに気付いてしまう可能性がある。
つまり殿下は、私がヴァンと接触する事を警戒しているのね。
でも既に、私はヴァンに会ってしまっている。
どうしよう……パーリィで殿下に会うのがめっちゃ不安になって来たわ……。
私は先日殿下がいらした時に、魔眼については気付いてしまってるんだけどね。
「ですから、もう一度機会を与えてあげて欲しいのです。お兄様の告h……きゃあっ!?」
シリアが何か言いかけた時、急にコンバインハーベスターが加速した。
私は何もしてないから、きっとスキルちゃんが加速させたんだと思うけど、まさか……。
そう思った瞬間、後方で盛大な爆発音が響き渡った。