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誤魔化せ

 私が密かに冷や汗をかいていると、当の執事セヴァスは私が埋めたクレーターに近づき、土の様子を覗っていた。


「お嬢様、埋めたのはいいですが土が少々軟らかいので歩きづらいですな」


 そりゃそうよね。

 畑にいい土で埋めたから、歩くには少々不向きなはずよ。

 田んぼの水を抜く『落水』の効果をイメージして土中の水分を抜けば固くなるかな?

 私も近づき、土の具合をみるために少し触ってみた。


「っ……!?」


 な、何今の衝撃はっ!?

 なんか土から波動のようなものを感じたんだけど!

 それに私の体の内側から何か農業に対する意欲みたいなものが湧き上がってきた。

 た……耕したいっ!


「どうかされましたかお嬢様?」

「な、何でもないわっ!確かに土の具合がいまいちだし、もうちょっとスキルの操作に慣れないとダメねっ!」


 この農業意欲はスキルの影響なのかしら?

 うずうずしているのをセヴァスに悟られないようにしないと。

 というか、この耕したい衝動をまずは何とかしたい。

 でも耕す道具がここには無いのよね……あれ?

 何かヤバい事が出来そうな気がする……。


 スキルの使い方は、誰かに教わらなくても自然と理解出来ると言われている。

 必要に応じてスキルの方が語りかけてくるような感覚らしい。

 それが今、私のスキルにも起こっているんですけど……。

 でも、本当にこれやっちゃっていいのかな?

 嫌な予感しかしないのに、スキルの衝動を抑えきれない。


「くっ、やるしかないのね。『召喚』っ!!」


 『農業』スキルが私に呼びかけたのは、召喚しろという無茶ぶり。

 一部の生産系スキルには、その生産に必要な道具を召喚出来る能力もあるという。

 それを私のスキルである『農業』でも出来るっていうの?

 私の『召喚』の呼びかけに応えるように、空中に魔力が集まりだして形を成していく。

 程なくして光の粒子が固まり、それは召喚されてしまった。

 明らかに農業に必要な道具『くわ』が……。

 やっべ、これどう言い訳すんの?


「お、お嬢様、それは一体……?」


 当然セヴァスから疑いの目を向けられるわよね。

 考えろ私!

 振り絞れ前世の記憶!

 前世関係ねぇから、全く思い浮かばないわっ!!

 どどど、どうすんのよおおおおっ!


「こ、これは……そ、そう!武器を召喚したのよっ!!」

「武器——でございますか?でもそれ、どう見ても鍬ですよね?」

「え、えっと……あ、ああ、あれよ!今日スキルを得たばかりだから操作が安定してないのね、きっと!」

「確かにお嬢様のおっしゃる通り、今日得たばかりのスキルでは上手く扱えないのも仕方無い事かも知れません」

「でしょでしょっ!」


 よっし、誤魔化せたっ!


「それにしても召喚魔法は、通常の魔導師系スキルでは得られない筈ですのに。無詠唱といい、お嬢様のスキルは何とも規格外ですな」


 誤魔化せてないっ!

 『無詠唱』だけでなく『召喚』も生産系スキルの方が使える可能性が高いんだった。

 また不信感を抱かせる使い方しちゃったじゃないのよ。

 どうすんべぇ〜、どうすんべぇ〜。


「わ、私はまだスキルを上手く使えるだけの体が出来てないようだし、ちょっとこの武器で素振りして体を鍛える事にするわ!」


 話を逸らすつもりが、農業衝動が抑えきれなくて鍬を振ろうと適当な事を言ってしまった。

 でもそこに土が有ったなら、それはもう耕すしかないでしょ!

 私は思いきり鍬を振り下ろした。

 ザクッと心地よい音が耳に届き、その振動は両手に快楽をもたらす。

 何これやっべぇ!

 楽しすぎるんですけどぉ!!

 これは永遠に耕してられるわっ!!


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ……。

 少しずつ後退しながら耕していく。

 私のスキルで作った土はことのほか耕しやすく、夢中で掘り返し続けてしまった。


 存分に耕し続けて、さて次は畝でも作ろうかと思ったところで、既に日が傾いている事に気が付いた。

 どうやら私のスキルによる農業衝動は、日が落ちると共に薄れていくようだ。

 農家は日の入りと共に仕事上がるもんね。

 しかしそれは同時に、日の出と共にまた農業衝動が始まってしまう事を意味する。

 ちょっと怖いわ、私のスキル……。


「お嬢様、そろそろ日没の時間が迫って参りましたが、まだ続けられますか?」

「そ、そうねっ!今日はこのぐらいにしておいてあげるわっ!」


 どこぞの三下のような台詞を吐いて、私はその日のスキル検証を終えた。

 私、また何かやらかしちゃってないわよね……?

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