巨大
殿下お二人の名前は、お姉ちゃんの方がシリア様、弟君の方がコルン様。
双子で私よりも一つ年下とのこと。
最初は私も平身低頭の構えだったのだが、瞳をキラキラさせてお二人が
「「お姉様とお呼びしてもいいですかっ!?」」
と懐いて来たので、すぐにお姉ちゃんポジションへと移行した。
「とても凄かったです!次々に盗賊をなぎ倒していくところとか、格好良かった!!」
「凄い速さでびっくりしました!とても格好良くて憧れますっ!!」
どうやら私の闘いぶりを馬車の小窓から覗いてて琴線に触れたらしく、もはやヒーロー扱いである。
憧れられるってのも悪くないわね。
「アグリお姉様、あの白い箱もお姉様のゴーレムなのですか?」
「そうですよ。あれは『軽トラ』と言います」
「け、けいとら……なんか痩せ細ってる大型の猫のようで弱そうですね……」
ライオンと違って単独で狩りをするから成功率も低く、意外とほっそりしてたりする……ってそのトラちゃうわ!
軽トラのトラはトラックの略なのよ。
まぁ異世界ではトラック自体が無いから、そんな事言っても分からないよね。
あれ?でもトラはいるの?
「私、ゴーレムに乗ってみたいです」
「ぼ、僕もっ!」
殿下達がゴーレムに乗りたいと言い出してしまった。
護衛の人達が微妙な顔をしたので、そっと目を逸らす。
でも軽トラの座席には、さすがにお二人を乗せるのは難しいよねぇ。
無理すれば乗れそうだけど……大きめのトラックを召喚しようか?
いや、ここはいっそアレを召喚しよう。
前世でも乗った事は無いけど、動画サイトで見た事だけはある。
「危ないので下がっててくださいね」
私は軽トラを帰還させると、少し離れた場所へ移動して、新たに召喚を発動する。
出でよ農家の浪漫!
「召喚っ!『超巨大コンバインハーベスター』!!」
「「「「「うわあああああっ!?」」」」」
召喚されたのは、海外製の自走式コンバインハーベスターである。
前世の国内でも北の広い大地でしか見られなかった農業用機械だ。
あまりの巨大さに護衛の騎士達も悲鳴を上げていた。
盗賊達は、もはや顔面蒼白。
某漫画でも紹介された、夜間でなければ道路を使った移動も難しいぐらいの巨体なので、皆が驚くのも無理はないと思う。
でも殿下達の目はキラッキラになっていた。
「す、すごーい!!」
「おっきいです!ものすごくおっきいです!!」
さて、これに乗って行くのはいいけど、殿下達を乗せたらお母様はさすがに乗れないわね。
と思ったら、お母様は私が召喚しておいた自動二輪車をマジマジと観察していた。
「アグリ、このゴーレムは私でも運転出来るのかしら?」
「私の魔力を充填しておけば、私が許可した人は運転が可能です」
「では、私はこれに乗っていきます。殿下達はあの巨大ゴーレムに乗せて差し上げなさい」
どうやらお母様は、巨大ゴーレムより自動二輪車の方がお気に召したようだ。
そっち系か……私のスピード狂はひょっとしたら遺伝かも知れないわね。
お母様ってば、スカートの下にいつのまにか自動二輪車に乗れる用のタイトなジーンズをはいてるし。
領主邸を出る前から乗るつもりだったな、これは。
と、ここで護衛の人達が不安そうに話しかけて来た。
「あの〜、殿下の護衛の都合上、先程のようなスピードで走られると困るのですが……。盗賊達も引っ張っていかないとですし」
それはそうよね。
コンバインハーベスターはそんなに速度を出すような乗り物じゃないけど、盗賊達を歩かせるとなるとかなり速度を落とさないといけなくなる。
それはとてもヒャッハー出来ない事態ね。
『後部に牽引用の荷台を接続しましょう』
スキルちゃんがそんな提案をしてきた。
コンバインハーベスターにそんなオプションは無かったと思うけど。
スキルちゃんの力でカスタマイズしちゃえるって事?
『はい、可能です。ちなみに殿下お二人が座れるように補助席を前後2段にカスタマイズしてあります』
さすがスキルちゃん、仕事が早い。
という事で、トラクターに連結するタイプの牽引荷台を召喚して、ハーベスターに無理矢理接続した。
そこに盗賊40人を詰め込んで、落ちないように縄で固定する。
ついでに、殿下達が乗っていた馬車も何とかする事にした。
馬車があると進行速度が落ちちゃうからね。
私は、新たにコンバインも乗せられるタイプの大型トラックを召喚した。
御者の人が馬に乗れるという事なので、後ろの馬車部分だけを大型トラックの荷台に農奴スキル『金剛』の腕力で無理矢理載せる。
護衛達、化物を見るような目を止めなさい。
そして大型トラックを帰還させれば、擬似異空間収納で馬車を格納しておけるという訳だ。
「こんなスキル、聞いた事もありません……」
護衛の人が呟いてたけど、聞いた事はある筈だよ。
スキル名『農業』だもの……。
よし、準備完了!
私と殿下お二人はコンバインハーベスターに乗り込んだ。
「す、すごい高いです」
「アグリお姉様、このゴーレム動くんですよね?」
「もちろんよ。こいつ……動くぞ!」
ネタはもちろん分かって貰えなかったが、殿下達の顔はワクワクに満ちていた。
いざ出発!
轟音をかき鳴らし、巨大コンバインハーベスターは発進した。