そっち
「なっ!?なんじゃこりゃあああああっ!!」
お父様が某刑事のように叫んでる。
私、何かやっちゃいました?
はい、やらかしました。
もうどうにでもなーれ。
「て、天才だっ!うちのアグリちゃんはマジ天才だあああっ!」
そっち!?
……ま、まぁ追放されるよりいいか。
実際は農業用スキルだから、あんまり戦闘向きじゃないのよね。
火力はあるけど速射できるわけじゃないし、加減できないから周囲への被害が甚大だし。
「これは将来、魔導師団長にだってなれるかも知れん!」
いやいや、期待しすぎも困るんですが。
だって私のスキル『農業』よ?
魔導師団ってめちゃくちゃ攻撃系の魔法使いばかりなのに、生産系の私には荷が重すぎるでしょ。
お父様の期待には応えたいけど、きっと入団テストであっさり落ちると思う。
落胆されるぐらいならまだいいわ。
やっぱり侯爵家に相応しくないなんて事になったら大変だ。
「お父様、見ての通り私のスキルは制御が難しいのです。連携には向かないスキルなので、師団に所属するのは難しいと思いますわ」
いざとなれば魔力量に任せて色々ぶっ放せると思うけど、如何せん大元は農業なのだ。
あまり前線に出るような事は避けたい。
「大丈夫だ。アグリちゃんはまだ若いから、制御なんざ成長するにつれて出来るようになる。魔法の威力を上げようとする方が余程困難だしのぅ」
あの稲妻を制御出来るようになる気がしないんですけど?
でも今後の事も考えると、もっとスキルを制御できるようになっておいた方がいいのかも知れない。
その為にも色々検証をしておきたい。
「お父様、お母様、私もう少しスキルを使う練習をしたいのですが、お二人を巻き込んでしまうと危険ですし、離れた場所で一人でやりたいと思います」
「おおそうか。でも敷地内とはいえ、アグリちゃん一人では何かあるといかん。セヴァス、暫しついててやってくれ」
「かしこまりました」
うっ、執事のセヴァスが一緒だと、あまり露骨に農業っぽい事は出来ないわね。
しょうがない、誤魔化しながらやるしかないか。
「それにしてもこれだけ強力なスキルを得たという事は、あの話も進めていいだろうな。ではアグリちゃん、ほどほどに頑張るんだぞ」
え、お父様?
何か意味深な事を去り際に言わないで欲しいんですけど。
あの話って何よ?
凄く気になる……っていうか、なんか嫌な予感がするんですけど。
しかし、お父様とお母様は早々に屋敷に戻られてしまった。
後で聞くしかないか。
でも私って何かに夢中になっちゃうと、結局忘れて聞き逃したままになっちゃうのよね。
まぁ忘れるような事なんて大した事じゃないから、いっか。
「お嬢様、スキルの練習をするのに場所を移されますか?あそこはクレーターになってしまってますが」
確かにセヴァスの言うとおり、稲妻が凄すぎて丘があった場所は地面が陥没しちゃってるわね。
この規模の稲妻が田んぼに落ちたら米が美味しくなるどころか塵になっちゃうんじゃない?
これは普通に農業するにしても、制御出来るように練習しておかないとダメっぽいかも。
まぁ、このクレーターに関しては何とか出来ると思うけど。
「問題無いわ。私のスキルは土系の方が相性が良さそうだから」
地盤を整備するのは農業の基本中の基本よ。
農は地よりってね。
私は畑にいい土でクレーターを埋めるイメージをして、右手に魔力を込める。
すると周囲に飛び散っていた土が、程良く耕されたような粘度の土になってクレーターに注がれていった。
何故畑にいい土をイメージしたかと言えば、私のスキルが『農業』なので農に関するイメージの方がいいと思ったからだ。
炎系のスキルを持つものは燃え上がるイメージ、水系のスキルを持つものは流体をイメージした方が魔力効率がいいと家庭教師から教わった。
つまり私のスキルは『農』をイメージする程に魔力効率が良くなるという事だ。
おかげで、先程稲妻にかなりの魔力を注ぎ込んだにも拘わらず、クレーターを完全に埋めてもまだまだ魔力に余裕がある。
私がクレーターを埋めると、セヴァスが驚いたような声を上げた。
「さすがです、お嬢様……」
そんなに驚く程だろうか?
さっきの稲妻に比べたら随分地味だったと思うけど……。
「また無詠唱とは」
そっちか!
戦闘系の魔法スキルは、頭に詠唱が浮かんできて、それを詠唱する事で強力な魔法を発動出来るようになるらしい。
でも生産系のスキルには、基本的に詠唱は無い。
一説では、神が与える祝福は公平を期す為にそのような仕組みになっているとも言われている。
それでも上位のスキルを得た者の中には無詠唱で魔法を使える人もいる。
お父様だって魔法は無詠唱で使ってるし、バレないわよね……?