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ゴブリン

 集落から出てくる多数のゴブリンを見て、私は絶望を覚えた。

 あれだけのゴブリンに襲われたのだとしたら、あの村はもう……。


ご主人様マスター、あそこは最初からゴブリンの集落だったと思いますよ』


 あ、何だ、そうなのね。

 人間の集落をゴブリンが蹂躙したのかと思ったけど、そんな酷い目に遭ってる人なんていなかったんだ。

 良かった良かった……じゃないよ!こっちにゴブリン迫って来てるし!


 先程のゴブリン達とは違って駆けて来る様子は無いが、隊列を組み軍隊のように統制された動きで行進していて、逆にそれが不気味だった。

 ゴブリンは知能が低く、ほとんど本能だけで動いているようなものの筈。

 それをあれだけキチンと統制出来てるという事は、上位種の中でもかなりの知性を持ってる個体がいるという事になる。

 数だけでも厄介なのに、そんな奴もいるとなると……。


「お嬢様っ!!」


 ヴァンが青ざめた顔でトラクターの脇へ来て、こちらに呼びかけていた。


「あれはダメです!逃げますよ!あの白いゴーレム出してくださいっ!」


 馬が無いから逃げるとしたら、私の軽トラで千切るしか無いよね。

 私はトラクターを帰還させて、大地に降り立つ。

 そしてそのまま、こちらに向かって迫り来るゴブリンの群れを見据えた。


「それは出来ません。私はあのゴブリン達を食い止めます」

「はあっ!?な、何を言ってるんですかっ!さっきのゴブリンの集団とは違うんです!ゴブリンキングがいるのが見えたんですよっ!あの数だけでも厄介なのに、キングは俺一人じゃ勝てません!お願いですから逃げましょう!!」


 ゴブリンキング——名前からして強そうだが、それがどれぐらい強いのかは良く分からない。

 ゴブリンの軍団の中に一匹だけ飛び抜けて大きい奴がいるけど、あれがそうかな?

 きっと、あいつがあのおびただしい数のゴブリンを統制してるんだろうね。

 逆に軍隊のようなものは頭さえ叩けば瓦解するんだから、分かりやすくていいじゃない。

 群体になってる場合は全部潰さないとだけど……。


「ヴァン、逃げる事は可能ですが、私のゴーレムが通った後は車輪が痕跡を残してしまいます。それを辿ってゴブリンを人里に呼び寄せてしまっては、守るべき民を私自身が危険に晒してしまう事になるでしょう。貴族としての矜持がそれを許しません」

「あーもう、なんであんたら兄妹はそうなんですか!矜持強すぎるし、頑固だしっ!!」

「それに折角耕した土地をみすみすゴブリンに踏み荒らされてはかないません。ここは私の農地・・なのだから」


 侯爵領であり、更に侯爵令嬢である私が耕したのだから、もうここは私の土地と言っても過言では無いわよね。


『過言です』


 スキルちゃんが厳しい!

 いいじゃないのよ、どうせ荒野だったんだから私個人の所有地にしたって。

 開墾したのは私なんだしさ。


 と、それはさておき。

 私は召喚で農家御用達自動二輪車を召喚した。


「ヴァンはそれに乗って逃げてください。まだ私の魔力が残ってる筈なので街まで行けるでしょうから」

「……俺だけ逃げるなんて出来る訳ないでしょう。自分より幼い女の子に逃がして貰ったなんて、お祖父様にぶっ殺されますよ」


 おや、意外と男を見せるね。

 ただの魔眼系厨二では無かったか。

 いや厨二だからこその矜持なのかも知れない。


「なんかめちゃくちゃ失礼な事考えてませんか?」

「気のせいですわ」


 そんなどうでもいいやり取りをしている間に、ゴブリン達はすぐ近くまで来てしまっていた。

 身の丈5m程もあろうかという巨大なゴブリンが、ジロリとこちらを睨む。


「ゲギャ?こんな小娘と小僧に先遣隊がやられたのか?好きに闘っていいと言ったが、戦略ぐらいは授けるべきだったか」


 人語を介する魔物——それだけで脅威度はグンと跳ね上がる。

 こちらの言ってる事が理解されてしまうので、作戦や指示を口頭でする訳には行かなくなり、獣を狩る時とは違う人対人のような難しい闘いを強いられる事になる。

 しかも、人よりも遙かに身体能力の高い敵が相手となるので、それがいかに容易くない事か。


 幸いにも相手はこちらを「小娘と小僧」と呼んで侮ってくれているのよね。

 人間社会に於いて、スキルを得た時点でそれはもう侮ってはならない存在になるというのに。

 スキルというものを甘く見てくれているのは、かなりこちらに優位に働くわ。


「ギャギャ……こんな檻で閉じ込めたつもりか?」


 ゴブリンキングは、数匹の上位種ゴブリンを閉じ込めていた囲い罠に手を掛けた。

 そして、力任せで無造作に金網を引き千切ってしまった。

 なるほど、とんでもないパワーね。

 今のはわざとこちらの戦意を喪失させる為に見せた、デモンストレーションだろうと思う。


「ゲギャギャギャ!今からお前らをこんな風に引き千切ってやるからな!」


 高笑いを上げるゴブリンキング。

 しかし私の頭には、もうそんな言葉など全く入って来なかった。

 囲い罠に捕らわれていたゴブリン達が、ゴブリンキングの力任せの金網粉砕に驚いて、失禁してしまっていたからだ。


「私が……私が耕した農地に……糞尿を垂れ流した……だと?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 糞尿は肥やしになるかも? [気になる点] ゴブリンキングとお友達になって、労働力になってもらう。
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