トラクター
ロータリーが回転し、土を掘り返す音が響く。
途中大きめの石などもあったりするが、容赦無くロータリーの爪が砕き散らして行った。
前世のトラクターなら、爪が折れてお祖父ちゃんに怒られるとこだよ。
およそ農機具に用いられる金属とは思えない、さぞかし高名な金属で作られてるんでしょうね。
召喚されたトラクターぱねぇっす!
しかし、石ぐらいなら後部のロータリーに任せてもいいけど、木はどうしようか?
と思ってたら、自動的にトラクター前部のアタッチメント、フロントローダと呼ばれる上下動するアームが召喚された。
先端には除雪車に付いてるような巨大バケットが装着されていて、それで木々を薙ぎ倒していく。
普通そんな使い方したらアームが折れちゃうと思うんだけど、このトラクター頑丈だわ。
深く根を張っていた木も関係無く引き抜いていった。
荒野だった一帯は徐々に開墾されて、視界も広くなってきた。
「身体強化使って鍬で耕してくより、3倍は効率アップしてるね。さすが赤いだけある」
自分の手で耕す訳ではないのが少々物足りないが、機械が刻むビートとロータリーが土を抉る感触は伝わってくるので、とても心地良い。
スピード感は無いけど、これはこれでヒャッハー出来るわね。
運転席から外で立ってるヴァンの方を見ると、何故か遠い目をしていた。
道中軽トラで寝てたのに、まだ眠いのかな?
それとも写○眼になった自分を夢想しているの?
万○鏡開眼出来るといいね。
それにしてもやはりトラクターのフォルムは素晴らしいの一言に尽きる。
前世でお祖母ちゃんが浮気と称したぐらい、お祖父ちゃんが入れ込んでたのも分かるよ。
重厚な車体でありながらも、スポーツカーを思わせるボディラインがとても美しいし。
それでいて繊細な運転技術が必要とされる。
もはや農業とはカースポーツであると言っても過言では無いわね。
いつか農業スポーツの大会を開こうかな。
『それは楽しそうですね』
ん?今誰か、何か言った?
ヴァンは遠くで黄昏れてるし、空耳かな?
『空耳ではありません。私が発言しました』
「うひゃっ!?」
な、何今の!?
直接頭の中に何かの声が響いた!
だ、誰が話しかけてきてるの!?
『私はご主人様の“農業スキル”です』
「しゃ……シャベッタアアアアアッ!?」
えっ?スキルちゃんなの?
今までも何となく私にメッセージを伝えて来てたのは感じてたけど、まさか人語を介するなんて。
恐ろしい子……。
『ご主人様がトラクターで荒れ地を耕した事により、経験値が一定に達したのでスキルがレベルアップしました。その恩恵で、私の意思疎通能力が向上して話せるようになったのです。あと、ネタが古いです』
な、なんだってぇっ!?
スキルがレベルアップするとそんな特典があろうとは……。
あと、ネタが古いって言うな。
『それと、自分で自分の事を萌えって言っちゃうのも痛いです』
それはネタで言っただけでしょ!
でも、まさかスキルちゃんと話せる日が来ようとは……。
私の前世ネタを分かってくれるというのは、ちょっと嬉しいかも知れない。
聞いたこと無いけど、他の人達も自分のスキルと話したりしてるのかな?
「鎮まれ我がスキルよ!」みたいに……ヴァンはよくやってそう。
『しかし、このタイミングで意思疎通出来るようになったのは僥倖でした。あちらをご覧ください』
急に真剣なトーンになったスキルちゃんに促されたので、私は前方に視線を集中する。
一列ずつ往復で耕していたのだが、今進んでいる方向の先には、ここに来た時に確認した集落が見えている。
その集落から、子供のような小さな影が複数こちらに向かって走って来ているのが見えた。
あぁ、子供って大きい機械とか赤いのとか好きだもんね。
無邪気に駆け寄ってくるけど、農作業用機械は死角も多いから不用意に近づくと危ないんだぞ。
でも大きい機械がガチャガチャ言ってるのが楽しいって気持ちは分かる。
「これが幼さか……」
『ネタぶっ込んでないで、よく見てください』
スキルちゃんに怒られたので眼を凝らして見てみると、なんか子供達の姿がおかしい事に気付いた。
全員の肌が緑色で、耳も尖ってて牙も生えてる。
あれってもしかして……?
『ゴブリンです』
うわぁ、子供じゃなくて身長が低いだけか。
荒野に出る魔物ってゴブリンだったのね……。
多くのファンタジーで定番中の定番である魔物。
繁殖力が高く、個々の力は弱くとも、数が増えると危険だと言われている。
向こうの集落の方から来たように見えたけど、あそこはゴブリンに襲われたんだろうか?
ゴブリン達がこちらに近づいてくると、徐々にその姿と数がはっきりしてくる。
推定100匹近いゴブリンが群れを成して、こちらに向かって駆けてきていた。
どうやらヴァンもそれを視認したようで、大声で叫びながらトラクターに近づいてくる。
「お嬢様っ!そこから降りないでくださいよ!」
ヴァンが初めて護衛らしく、私を守る為にゴブリンに立ち向かって行った。




