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おにぎりと主力機

 辿り着いた土地は草木が乱雑に生えており、荒れ果てていた。

 確かにこれは荒野だわ。

 でも草が生えてるって事は土に栄養が残ってるという事。

 土がダメなら山から腐葉土を持ってくればいいだけだし。

 問題は大きい石やら、太めの木やらをどうするかよね。


 ヴァンは周囲を警戒しているけど、今のところ魔物らしき影は見えない。

 かなり遠くの方に集落があって人影みたいのが見えるし、人が住んでるって事は魔物もそんなに出ないんじゃないかな?


 さて、広さだけは十分過ぎる程ある土地だ。

 右腕が疼き過ぎてもう封印が解けそうだよ。


「『召喚』っ!」


 私はもう我慢出来なかったので、くわを召喚して地面に突き立てた。

 ザクッという甘美な音が周囲に響き渡り、土を抉った感触が手に伝わる。


「なかなかいい土してるじゃない」


 ザクザクと地面を耕しながら、耕作面積を拡大していく。

 石を取り除き、木は身体強化で根っこから引き抜いていった。

 徐々に気温が高くなるが、それ以上に農作業が楽しくて気にならない。


 夢中になって耕し続けていると、いつの間にか日がかなりの高さまで上っていた。

 そこでふと気付く。


「あ、お昼持ってくるの忘れた……」

「自分も何も持って来てませんよ……?」


 1食抜くぐらい普段なら平気だけど、肉体労働するにはちょっとキツいかも知れない。

 さすがのスキルちゃんでも、食事までは用意できないよね?

 え?出来る?なんかスキルちゃんムキになってない?

 あ、勝手に何かが召喚された。

 そこには輝く白米に海苔を巻いたまん丸特大おにぎりが2つ、弁当箱に入って置かれていた。

 マジか……。

 私はふと、前世でおじいちゃんが畦道あぜみちに腰掛けておにぎり食べてたのを思い出した。

 農作業とおにぎり……う〜ん、関連性はギリギリあるのかな?

 ある事にしとこう。


「はい、ヴァンの分」


 私がおにぎりを差し出すと、ヴァンは胡乱げな眼で白米を見つめた。


「何ですかこれ……どこから出したんですか?」

「私のスキルで出したんだよ」


 正確には私のスキル出したんだけどね。

 訝しんでるヴァンが食べれるように、私が先におにぎりを口に運ぶ。

 うん、美味しい。

 銀シャリの甘さと海苔の少し塩っぱい感じが口の中で溶け合って、絶妙な旨味を引き出しているね。

 ヴァンは、美味しそうに食べる私と自分が手に持つおにぎりを交互に見つめる。


「く、食えるんですか、これ……?」

「今私が食べてるでしょ。毒は入ってないから大丈夫だよ」


 空腹が勝ったのか、意を決したようにヴァンもおにぎりにかぶりついた。

 食べた瞬間、目を見開くヴァン。


「う、美味い……。今まで食った米を遙かに凌ぐほど……」


 満足したようで良かったよ。

 ちなみにこの世界には普通に米がある。

 ここ侯爵領では、小麦よりも米の方が生産量が多いぐらいだ。

 だからヴァンも普通に米を食べたことがあるし、私の主食も米が主体だ。

 あとは味噌があれば最高なんだけど、残念ながらそれはまだ出回っていない。

 こうじなんて、農業スキルではどうにもならないよねぇ……。


 さて、休憩も終えて改めて耕した範囲を見たけど、いくら身体強化したところでくわだけでは大した面積にならないね。

 石や木を退かしながらやってるから、尚のこと時間がかかる。

 でもある程度邪魔になるものを取り除かないと、アレ・・が使えないからなぁ……。

 おや?でもスキルちゃんが大丈夫って言ってる気がする。

 壊れないかちょっと心配だけど、じゃあスキルちゃんを信じてやってみようか。


「『召喚』っ!」


 今回のは大きめなので、私の魔力をけっこう持って行かれてしまった。

 だがそれだけの価値がある。

 前世でもかなり高額であり、しかしながら農家にとっては無くてはならない農作業用機械だった。

 洗練された赤いフォルムのボディー。

 水田も進める巨大なタイヤ。

 後部はオプションで色々な機器を付け替え出来るが、そこには土を耕すロータリーが装備されていた。

 これ無しでは前世の農業の発展は無かったと言っても過言では無い、農家の主力機『トラクター』だっ!!


「な、何だこの赤いゴーレムは……?」


 ヴァンがトラクターを見て驚愕の表情を浮かべていた。

 軽トラよりも一回り大きいし、後ろにはゴツい爪のようなものが多数付いてるから、畏怖してしまっているようだ。


「ふふふ。ヴァン、これはまだ未完成なのですよ」

「えっ!?ど、どういう事ですか?」

「私が搭乗してこそ、この『トラクター』は真の姿となるのです」

「と、とらくたぁ……?」


 私はサイドの全面がガラスになっている扉を開けて乗り込んだ。

 真っ赤なボディのトラクターに、幼い少女である私が乗る事で、そのトラクターは完全体となる。

 これこそが、


「萌える女の赤いトラクター!!」

「……全く意味が分かりません」


 うん、異世界じゃ通じないって知ってたよ……。

 前世の世界でも、昔のCMを動画サイトとかで見た事ある人じゃないと、知らないと思うし。


 閑話休題。

 このトラクターがあれば、一気に開墾を進める事が出来る!

 私はトラクターに魔力を込めた。


「イグニッションっ!!」


 この時、トラクターを召喚した事により、私の中でとんでもない事が起きていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっ周りを囲まれてるってことはこれかなりいいトラクターですね?フレームに屋根付きでも割と高いのに周りが全部囲ってあるやつ、中古でも百万円超えるんですよな〜。 燃える女の赤いトラクター〜♪は…
[一言] 萌やす女の~赤いトラクタぁ~ これで麹も大丈夫! リアルに見てたよー
[一言] 燃える男の~赤いトラクタぁ~ >萌える女の赤いトラクター!! 上手いと思いますが、自称「萌える女」は痛いと思いますお嬢様ァ!
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