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冒険者ギルド

 野菜の種を手に入れてホクホク顔の私に、ヴァンが眠そうな声で話しかけてくる。


「お嬢様、野菜の種なんて買ってどうするつもりなんですか?」


 ヴァン、お前もか。


「植える以外に何をすると思ってるの?」

「食うとか……?」

「そんな訳ないでしょ」


 種を食べる食物もあるけど、多くは育ててから食べるでしょうに。

 それが農業というものだよ。

 まぁ私のスキルが『農業』である事は言えないんだけどね。


「なんだ……種食ったらスキルが強化される訳じゃないのか」


 ヴァンがボソリと呟いた。

 種を食べてスキル強化とか、どこのラノベよ。

 そんな事でスキルが強化されたら苦労しないわ。


 ヴァンって発想が厨二っぽいのね。

 お兄様と同い年だった筈だから、もう10代後半だろうに……。

 私が生温かい目でヴァンを見ると、ジロリと睨み返されてしまった。

 お兄様、護衛チェンジでお願いします!


 その後もいくつか露店を見て回ったけど、野菜の種は同じようなものしか無かったので買い物は早々に終了する事となった。

 季節や土地の関係上、同じ街では同じような種しか手に入らないっぽい。

 そりゃそうよね。

 前世の世界のように交通網も発達してないし、気候を無視して育てられる環境も無いだろうから、似たようなものしか仕入れないんだろう。

 残念に思いながら朝市を後にする。


 少し歩いたところで、早朝にも拘わらず何やら騒がしい建物がある事に気付いた。


「ヴァン、あれって何かしら?」

「あぁ、あれは冒険者ギルドですね」


 おお、あれが冒険者ギルドかぁ。

 この世界には冒険者ギルドが有って、冒険者と呼ばれる人達がいる事を知識としては知っていた。

 でも私が関わる事は殆ど無かったので、ついぞ見る機会に恵まれなかったのだ。

 普通の貴族令嬢であれば護衛として雇う事もあるらしいけど、うちはセヴァスがいるし、お父様とお母様も超強いから侯爵家の私兵が護衛に付くだけで十分なんだよね。


 冒険者ギルドは、前世のラノベにあったような厳つい人が沢山集まってる場所のようだった。

 周囲の建物よりも大きい二階建てで、一階入口のスイングドアがいかにもって感じ。

 私が足を踏み入れたら絶対絡まれそうだし、近寄らんどこっと。

 と思ったのに、ヴァンが


「あ、そういえば北の荒野の魔物情報を聞こうと思ってたんでした」


 ちょっとヴァン、まさか冒険者ギルドに行くつもり?

 私が冒険者に絡まれたらどうするのよ?

 もし絡まれたりしたら危険なのよ——冒険者達が。

 私のスキルはまだ手加減が出来ないんだから、冒険者ギルドが消し飛ぶわ。

 それに無駄な時間を使いたくないし。


「却下です。一泊して時間を無駄にしてるんだから、今すぐ北へ向かいますよ」

「えっ!?でも、魔物の情報が……」

「魔物が出たら私のスキルで逃げればいいだけでしょ」


 お母様が侯爵領に来るまでにスキルを強化する必要があるから、早く北の農地・・に行かないと。

 種食べたぐらいで強化出来るんならいくらでも食べるけど、私のレベルアップには『農業』をする事が必要なのよ。


 渋々冒険者ギルドへ入るのを諦めたヴァンを連れて、一旦宿に戻る。


「馬は宿に預けて行きましょう」

「はぁっ!?」

「ヴァンの馬は昨日の疾走で疲れているでしょ」

「誰のせいですか……」

「だからこれ以上酷使しないように、ヴァンには私の搭乗型ゴーレムに乗ってもらいます」


 あ、ヴァンがめっちゃ嫌そうな顔した。


「確かに後ろに少しだけ座れそうなスペースは有りましたけど、あんな不安定な場所に座ってあの速度を出されるのはちょっと……」

「その点は心配無いよ」


 胡乱げに私を見るヴァンを無理矢理引き摺って、街の外まで移動した。

 そして私は高らかに唱える。


「『召喚』っ!!」

「……な、なんですかこれはっ!?」


 そこに顕現したのは、白く煌めくボディに四つのパワフルなタイヤを装備した新たな搭乗型ゴーレム。

 後部には牧草やら農作業用器具を搭載出来る荷台も付いている。

 そう、前世の世界で農家御用達だった四輪駆動車『軽トラ』である。

 私はドアを開けて運転席に乗り込んだ。

 8歳の体格では前方が見えないかと思ったが、そこはさすが私のスキルちゃん。

 ちゃんと前方が見える高さになってるし、アクセルやブレーキにも足が届くよう、サイズ調整が成されていた。

 助手席との段差が凄い事になってるけど……。


「さぁ、ヴァンも乗って」

「搭乗者の魔力を吸い取るような事はありませんよね?」


 何の確認よ?

 そんな機能、私の魔力負担が減るから是非導入したいわ。

 後でスキルちゃんに実装してもらおう。


 嫌そうな顔のヴァンが渋々搭乗したところで、シートベルトを締めさせる。


「昨日のゴーレムはお兄様に速度制限を設けられてしまったから、今日はこのゴーレムでかっ飛ばします」


 これは自動二輪車じゃないから速度制限無いもんねー。


「それ、屁理屈ですよね?絶対ライス様に後で怒られるやつですよ」


 私は何も聞かなかった事にして、ギアを1速に入れ軽トラを発進させた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽トラは、人のっけたくらいなら2速発進ですよお嬢様!
[良い点] ご都合スキル話だけどそれを力技で異世界ファンタジー(?)の型に嵌めている所。ドローン、軽トラときた時には声を出して笑ってしまいました!面白い! [一言] 王妃エンドより自領でのびのび爆…
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