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朝市

 街に入り、一番高級な宿の貴族が使うセキュリティ万全な部屋にアグリを押し込むと、ヴァンは隣にある従者用の部屋へ入って項垂れた。

 疲れもあったが、それ以上にスキルを得たばかりの子供に負けてしまった事で打ち拉がれていた。

 そもそもアグリのスキルが『農業』であるからと侮っていたせいではあるが。


「何なんだ、あのスキルは?搭乗型ゴーレム生成?バカな……そんな事出来る筈無いのに」


 『魔眼』で視たアグリのスキルは間違い無く『農業』だった。

 農業スキルは作物の生長をうながしたり、開墾を効率良く出来る程度の能力しか無かった筈だが、実際目の前で馬より速く走るゴーレムを出して見せたのだ。

 魔導具の中にはスキルに匹敵する強力な物もあると言うが、明らかにアグリは何も持たない丸腰であった。

 侯爵令嬢アグリ・カルティアは王族に次ぐ魔力を持つ。

 しかし魔力量だけで、スキルの持つ特性を無視した能力は発揮出来ないだろう。

 だとしたら、スキルの中の隠し特性のようなものを見つけたという事なのか?


 ヴァンは思考の渦の中で、その可能性に至る。

 自身のスキル『魔眼』——初めの頃は相手の動きを見切る程度にしか使えないと思っていた。

 使って行くうちに、次第に相手の情報を、スキルや直近の未来の動きに至るまで読み取れるようになっていった。

 スキルは成長する。

 だが『魔眼』は、あくまでもスキルの範疇を超えた事は出来ていない。

 視たものの情報を得ることと、視た相手の動きを一瞬だけ封じる程度。

 しかしアグリのスキルはその範疇を完全に越えている。

 スキルというものに、もしその先があるのだとしたら、自身の『魔眼』のスキルもまだ成長する可能性があるのかも知れない。


「侮っていた事は素直に認めるとしよう。そして、俺の成長の糧にする為にも、必ずその秘密を見極める」


 渋々ながら付いた護衛であったが、今は少しワクワクしていた。

 ヴァンは高揚感から体が火照り、今日は眠れそうに無いと窓の外の星空を眺めた。


 しかし翌朝、まだろくに日も昇らないうちにドアがけたたましく叩かれ、早く寝なかった事を後悔する事になる。


「ヴァン〜、買い物行くよ〜!」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 街の中央では朝早くから市が開かれ、野菜や魚等があちこちで売られていた。

 私がキョロキョロと物色しながら歩くと、ノソノソと後ろをヴァンが付いて来る。

 昨日は早朝でも平然としてたのに、今日のヴァンはとても眠そうだ。

 逆に私は農業スキルの影響か、日が昇ると共に早朝から目が覚めてしまっていた。

 なので、せっかくだから朝市で野菜の種でも買えないかなと思って外出したのだ。

 護衛を連れて行かないとまたお兄様に叱られちゃうだろうから、ヴァンを起こして無理矢理連れてきたんだけど、お陰でめっちゃ機嫌悪そう……。

 何か眠そうな目で、じっと私の事睨んでるんだよね。


 まぁそんなヴァンはさておき、朝市はとても賑わっていた。

 朝早くから人通りは激しく、街の中心部の開けた場所には所狭しと露店が並ぶ。

 地面に布を敷いて売り物を並べているだけの人や、移動型の屋台のようなものまで様々だ。

 私はそれらの露店の中から目当ての店を探す。


「あ、あった。ヴァン、あそこに行くよ」

「ちょっ、待ってください……」


 私が見つけた店は、少し年配のおばちゃんが天幕を張っている所だった。


「っ!?い、いらっしゃい……」


 何か私を見た瞬間、一瞬動きが止まったように見えたけど気のせいかな?

 今日の私の服装はメイドのナナが用意してくれた古着なので、貴族だと思われて萎縮される事も無い筈なんだけど……。

 昨日は寝間着も無かったからそのまま寝ちゃったし、ちょっとシワが寄ってた?

 まぁ何も言って来ないし、気にしなくていいか。


 さて、色々な種が置いてあるけど、大人買いならぬ貴族買いしてもいいものだろうか?

 いや、さすがに農家の皆さんが困るような事をするのは、貴族の矜持に反するわね。

 一線を踏み越えれば、私はもう貴族として立つ事は出来ない。

 でも、広大な農地(荒野)が私を待っているし……。

 買っても迷惑にならないギリギリのラインまで購入する事にしよっと。


「ええと、秋に植えて冬までに収穫出来る野菜の種はどれかしら?」

「……お嬢様、野菜の種を買ってどうするの?」


 おばちゃんが不思議そうに聞いてくる。

 植える以外に何があると言うんだろう?

 食べれる種もあると思うけど、ここにある種は殆ど植える用だよね。

 どうしてそんな事を聞くのかな?


「もちろん、植えますけど?」

「……家庭菜園か何かかい?」

「いいえ、ちょっと広めの農地に植える予定です」

「農地……?この辺で貴族直轄の農地なんて聞いた事無いけど……」


 おばちゃんは何やらボソボソと呟き始めた。

 私何かやっちゃいました?


「この辺で植えれるとしたら、ダイコンとハクサイだね。でも比較的育てやすいダイコンでも、初心者には難しいと思うよ。後で文句言って来ないでね」

「もちろん、そのような事は致しません」


 そうか、明らかに子供である私が野菜の種なんて買おうとしてるから不審に思ったんだね。

 でも私のスキルの事を言う訳にもいかないから、余計な会話をせずに購入しちゃった方がいいだろう。

 私はお金を払って、ダイコンとハクサイの種を購入した。


「あれって侯爵家のアグリお嬢様だよね?何で貴族のお嬢様が野菜の種なんて買って行ったのかしら?」


 後ろでおばちゃんが何か言ってた気がするけど、ちゃんと育てるから心配しないでね。

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