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兄の憂慮

 外に出てから、私達は領主邸の厩舎へと向かった。

 馬の世話をしている人に馬を出せるか聞いてみると、丁度良くヴァンの馬が出せる状態との事。

 体躯の白い綺麗な馬で、ヴァンとは心を通わせているのか凄く懐いている。

 その馬を撫でながらヴァンが私を見下ろす。


「馬では、きっと勝負になりませんよ。私はそれなりに馬の扱いに長けていますから」

「それは良かった。後で言い訳されても困るし」


 私の言葉に若干カチンと来たようで、ヴァンの目付きが鋭くなる。


「じゃあヴァンは馬で走ってね。私はスキルで走るから」

「……意味が分かりません。身体強化で馬に勝てるおつもりですか?」


 私の身体強化は足腰も強化出来るけど、そもそも農業用だから走るのには向かない。

 いくら湿布を駆使して回復しながら走っても、馬に勝つのは不可能だろう。

 しかしヴァンは忘れてるみたいだね。

 私が一晩で王都から侯爵領まで来たという事を——。


 私は素早く農家御用達のバイクを召喚して、ヘルメットを被り、エンジンに点火イグニッションする。


「なっ、何ですかそれはっ!?」

「搭乗型ゴーレムだよ。じゃあ先にお兄様の部隊に追いついた方が勝ちね」

「結局北に行こうとしてるんじゃないですかぁっ!!」


 慌てて馬に跨がるヴァンを尻目に、私はアクセルを全開にした。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 侯爵領北部へと進軍する侯爵家騎士団の中央付近で、銀髪の美男子は深く溜息をつく。

 それを見た騎士団長は心配そうに声を掛けた。


「ライス様、この度の進軍に何か気掛かりな事でも?」

「ああ、いや。確かに魔物の被害が増えているのは気掛かりなんだけど、それとは別の問題が我が家で勃発していて」

「妹君ですか?」

「うん。突然一人で侯爵領まで来てしまうような突飛な事をする子じゃなかったのに。強力なスキルを得て舞い上がってるのかも知れないんだよ」

「それは、危ういですな……」

「8歳という心が安定しない時期にスキルを付与されてしまうから、多かれ少なかれ誰もが通る道なんだ。だからこそ貴族の親は厳しく律するのだけど、アグリの場合は僕達の魔力を優に超えている。本気で僕達に牙を剥くような事は無いと思うが、あの子が暴走した時に止める術が無いのが気掛かりだ。母様がこちらに来てくださるようだが、僕と母様でも果たして止められるかどうか。アグリが素直に言う事を聞いてくれれば問題無いんだけどね」

「静止を振り切って侯爵邸を飛び出したと伺いましたが」

「そうなんだよ。ヴァンに任せて来ちゃったけど、セヴァスでさえ止められなかったぐらいだし、ちょっと心配で」

「セヴァス様が止められないとは——それは魔王ですか?」

「見た目だけは天使なんだけどねぇ……堕天してない事を祈るよ」


 面立ちは母親に似て可愛らしく、父親に似た美しい金色の髪と相まって、まさに天使のような令嬢。

 そんな妹について話していると、ふいに急報を知らせる馬が後方から駆けて来た。


「ライス様っ!後方から馬よりも早い速度で接近する魔力を索敵班が感知しました!」


 呑気な会話から一転、場は騒然となる。


「数は?」

「単体のようですが、膨大な魔力を秘めていると思われます」


 単体で膨大な魔力——ライスは嫌な予感がした。

 昨日までの自分であれば、ライスもそれが魔物かも知れないと思った事だろう。

 しかし、後方にとても心当たりがある人物・・が存在している今日。

 一度考え出したら、そうとしか思えなくなってしまった。


「索敵班に遠見出来る者はいるかい?」

「はい」

「その者が見える範囲に入ったら、どんな姿か報告を。縦に伸びている隊列をこの場に集中するように組み替え、僕が先端で接敵する」

「き、危険ではっ!?」

「大丈夫、そうそう後れは取らないよ。というかそもそも杞憂に終わる気がするから」


 ライスの言う事に困惑しながらも、伝令を走らせて隊列を組み替える。

 程なくして、索敵班の遠見出来る者が声を上げた。


「鉄の塊が土埃を上げながら尋常ならざる速度で駆けて来ます。軸は全くブレず……あれ?ひ、人らしき影がその上部に跨がっているようです」


 ライスはその言葉で、ほぼ確信してしまった。

 こめかみから一筋の汗が流れる。

 今日も残暑は厳しいが、その汗はとても冷たいものだった。


「魔法部隊に用意させますか?」

「いや、きっと必要無いよ」


 肉眼で確認出来る距離にまでその鉄の塊が近づくと、それに跨がった人型のモノが手を振ってきた。


「あっ、お兄様〜!」

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