どんなスキルを得たのか見せておくれ
どどどど、どうしようっ!?
表面上は冷静を装いつつも、内心で私はとても動揺していた。
まさかの、侯爵令嬢にとって使いどころの無いスキルを手に入れてしまった。
『農業』って、どこで活躍するのよっ!?
平民なら土をいじるのは日常茶飯事でしょうけど、侯爵令嬢は庭の手入れすらしないのよ?
確かに農業って食べ物を生産する大切な事だって思うわ。
でもそれは生産者が得た方が有益になるスキルじゃない?
生まれながらに強い魔力を持つということで、家族からは強力な魔導師系のスキルを期待されていたのに。
無いとは思うけど、侯爵家に相応しくないからって追放されたりしないわよね?
「お嬢様、どうかなされましたか? 教会を出てからずっと物思いにふけってらっしゃるようですが」
外面を取り繕っていても、思考に意識を全振りしてたせいで、執事のセヴァスが違和感を覚えてしまったみたい。
絶対にスキルのことで悩んでいたと覚られないようにしないと。
「授かったスキルがどういうものか検証していたのよ。馬車の中で使う訳にはいかないからイメージトレーニングでね」
うん、嘘は言ってない。
どうやってスキルのことを誤魔化そうかイメージトレーニングしてたのは事実なのだから。
「そうでしたか。私も覚えがあります。スキルを手に入れたら試したくてウズウズしたものです」
セヴァスが子供のころを懐かしんで語ってくれた。
残念ながら、私はスキルを試す時は人に見られないようにひっそりと行わなければならない。
でも残念ながら、ひっそりとやる事など不可能だった……。
家の門前、いつもは警備の兵がいるだけだったのに、何故か今日に限って父様と母様もそこに立っていたのだ。
「「おかえり、アグリ」」
何故に2人揃ってお出迎え!?
「た、ただいま戻りました。父様、母様、何故門の前にいらっしゃるのですか?」
「アグリの素晴らしいスキルを見るために決まっているじゃないか」
はい、詰んだ。
第一部完。
第二部から追放令嬢物語がはじまるのね……。
そして私は、父様と母様に屋敷の庭へと連行された。
期待に満ち満ちた目を向けられて、下手な言い訳をする事すらはばかられる。
「さあ、どんなスキルを得たのか見せておくれ」
こうなったら、たまたま手に入れた前世の知識を総動員して、それらしく振る舞うしかない。
普通なら前世の知識を得た事に思考の大半を持って行かれるだろうに、スキルがスキルだっただけにそっちに気を取られすぎていた。
今は使えるものは何でも使おう。
「そ、それではあちらの丘の上で」
さすが侯爵家の庭、丘が普通にあるぐらい広い。
なるべくゆっくり歩きながら作戦を考えるにはうってつけだ。
さて、私のスキルは『農業』だ。
この世界では、このような漠然としたスキルには副次的な効果が備わっていることが多い。
農業ってことは土よね?
土魔法っぽい農業関連の技なんてある?
だめだ、耕すって発想しか出てこない……。
じゃあ、水!水も農業に使うわよね!
雨とかふらせる?
……何かしょぼくない?
いや、雨……天気……そ、そうだ!!
程なくして、私達は丘の手前まで辿り着いてしまった。
もうやるしかない。
「で、ではいきますっ!」
ええいままよ!
魔力だけは桁外れに高いんだから、きっと出来るはず。
「来い、稲妻っ!!」
私は叫び、天空に向かってありったけの魔力を放った……放ったよ?
何で何も起きないの?
やっぱ、発想が突飛過ぎた?
稲妻ってのは雷が田んぼに落ちると米が美味しくなるってとこから来てたはずだから、農業と密接な関係があるはずって思ったのに……。
やっぱりハズレスキルだったのかな?
数秒待ったが変化はなし。
しゃーない、全部正直に話して追放を受け入れるしかないか。
どこかの農村でスキル使って細々と生きよう。
私は振り返り、父と母の方を向く。
あれ?なんかみんな私じゃなくて私の後ろの空を見てない?
そして急に辺りが暗闇に包まれ、次の瞬間閃光が瞬いた。
「「「ひゃあああああっ!!」」」
轟く爆音にその場にいた全員が悲鳴を上げる。
稲妻が落ちた!やった!……なんて思ってる間もなく、連続で落ち続ける。
え?魔力込め過ぎて止まらないの?やっべ。
そして、粉塵が晴れた後には、丘だったものが巨大なクレーターになってましたとさ。
てへっ。