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寝て起きて

 セヴァスの話を要約すると、夫婦喧嘩中のお父様に私が脱走した事を報告しに行ったら、それまで部屋に閉じこもっていたお母様が囃子はやしの音を聞いて出て来たというお話だった。

 そして、そのまま愚娘を叱る為に馬車に乗り込みましたとさ。

 めでたしめでたし……めでたくないよ?


「母様が来るなら僕からはもう言う事も無いかな。じゃあアグリ、部屋に行って休んでいいよ」

「……はい、お兄様」


 お兄様は何だかんだ私に甘いので、多少叱られてもこっちにいてスキル使い放題だと思ったのに。

 まさかお母様が連れ戻しに来るとは、誤算だわ。

 でも、そうまでして私を王都に居させなきゃいけない理由なんて無いと思うんだけどなぁ?

 寧ろグレイン殿下と顔を合わせてスキルバレしちゃう方が侯爵家にとっても良くないと思うのに。

 いや、逆にそれが狙いか!?

 私のスキルを殿下に見て貰う事で、私が侯爵家に相応しいかどうかを判断するつもりなのかも知れない。

 くっ……お母様が侯爵領に到着するまでにスキルを仕上げないといけないとは。

 これは農業を楽しんでる場合じゃないわね。

 馬車での移動で、およそ2〜3日程度の距離だ。

 時間が無い……けど、眠い。

 だめだ、一旦寝てから考えようっと。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 執事のシルヴァに連れられて寝室へと向かうアグリを見送ると、侯爵家嫡男ライス・カルティアは執事見習いのヴァンに訪ねる。


「ヴァン、アグリのスキルは空を飛べるようなものなのかい?」

「……いいえ。そのようなものではない筈です」

「僕に教えてはくれないの?」

「不審な点が多すぎたので、刺客かと思いスキルまで覗いてしまいましたが、これはライス様にもお伝え出来ません。私一人で背負います」

「……すまない。それはきっと僕が知っては不都合があるからなんだろうね。君一人に負担を掛けるなんて嫌なんだが、その方がいいという判断なら、従うよ」


 ヴァンは侯爵家執事セヴァスの孫である。

 同時に領主邸執事シルヴァの息子でもある。

 故に侯爵家とは関わりが深く、同い年のライスとは親友どころか運命共同体であった。


 ヴァンは家族にすら開示していないスキル『魔眼』について、ライスにだけは話していた。

 他人のスキルを知ってしまえる事が心に重くのしかかり、それをつい親友であるライスに相談してしまったのだ。

 世界を揺るがしかねない秘密を共有させられた事に怒るどころか、重荷を共に背負うとまで言ってくれたライスに、ヴァンは生涯の忠誠を誓う。

 そして、あるじにこれ以上余計な重荷を背負わせないよう、迂闊に他人のスキル情報等は読み取らないように注意していた。

 それが、アグリの突飛な行動で、突然崩されてしまったのである。

 ヴァンは今まで、必要とあって読み取ったスキルについてはライスと全て共有していたが、アグリのスキルについては侯爵家に波乱を呼びかねないので自分の中だけに止める事にしたのだ。


「でも、何かあったら必ず相談してくれ。ヴァン一人だけで対処しようとしない事」

「承知しました」


 アグリのスキルを知ってしまったせいで、ヴァンの人生も大きく歪められる事となる。

 主にアグリの奇行によって……。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 目を開けると、そこは知ってるけど、いつもとは違う天井。

 窓の外は日が高く上っており、もう正午近くのようだ。


「あら。アグリお嬢様、お目覚めですか?」


 侯爵邸のメイドのミーネとは違う、少し甲高い声が寝室内に響いた。

 私が寝てる間に部屋に入ってくるって、誰よいったい?

 もぞりと布団の中で身動ぎし、声のした方へ寝ぼけまなこを向ける。


「んん、誰ぇ?」

「何寝ぼけてるんですか?私はメイドのナナですよ。ドレスのまま寝ちゃうから、寝間着に着替えさせるの大変だったんですからね。起きたんなら、また着替えさせていただくのでベッドから出てください」


 そこにいたのは侯爵領領主邸のメイド、ナナだった。

 そっか、私、侯爵領に来てたんだった。

 ミーネもそうだけど、ナナも私にはけっこう厳しい。

 遠慮がないというか、容赦がないというか……。


「はいはい、ちゃっちゃと脱いでくださいね」


 ポンポンと寝間着を剥ぎ取られ、少し古くなった洋服を着せられた。


「お嬢様に会うサイズの服が無かったので、古着になってしまいましたが我慢してください。先触れも無く急に来たお嬢様が悪いんですからね」


 まぁ確かにそうなんだけど、普通の貴族家でそんな事言ったら不敬罪よ?

 でも以前と変わって無いナナに少し安心もした。

 お父様の仕事の都合もあって、暫くこっちには来て無かったから。


 着替え終わると共に、私のお腹が小さな悲鳴を上げる。

 そういえば部屋に来て直ぐに寝ちゃったから、朝食を食べ損ねてたんだった。


「もう昼食になってしまいますが、召し上がりますか?」

「ええ、そうするわ」


 ナナに従い、私は領主邸の食堂へ向かった。

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