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通信魔導具

 侯爵領の領主邸の門前でお兄様に会う事が出来たのだけれど、この新人さんらしき人がいっこうに中に入れてくれない。

 というか、何故か急に呆けてしまって、私の方を見たまま固まっているのよね。

 なんかお兄様に『ヴァン』って呼ばれてたけど、幼い頃に一緒に遊んで貰ったあのヴァンかな?

 まぁ前世の世界にしてみれば、今の私もまだ幼いけども……。

 それは置いといて。

 いい加減中に入れてくれないかなぁ?

 夜通しテンションMAXでバイクを飛ばして来たから、さすがに疲れて眠いのよ。


「おい、ヴァン。もしかして視た・・のか?どうだったんだ?」

「……あ、はい。あれは確かに妹君のようですが」

「そうか。なら問題無いな」

「いえ、たとえ本人であったとしても何者かに操られている可能性もあります」

「そうだったとしても、十も年下の少女に僕が後れを取ると思うかい?」

「それは……」


 何やらヴァンとお兄様がごちゃごちゃやり取りしている。

 何でもいいから早くして欲しいなぁ……。

 と思ってたら、お兄様が格子状の門扉を開けてくれた。


「アグリ、取り敢えず話を聞きたいから、応接室に行こう」


 話の前にお風呂入って一眠りしたかったんだけど……。

 そしてヴァンはずっと私を警戒して、ぴったりと後ろに張り付いて来ていた。

 そんなに警戒する理由ある?

 いや、スキルを得たならば8歳だとしても十分暗殺者たり得る可能性があるのか。

 うーん、どうやってそうではないと証明しよう?

 まぁ正直に話して、通信魔導具で王都の侯爵邸に確認とってもらうしか無いか。

 スキルについては誤魔化すけどね。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 応接間に移動して、私とお兄様が向かい合って座る。

 ヴァンはお兄様の横で直立していた。

 どうやらヴァンはお兄様の護衛的な立場のようだ。


 私は、搭乗型ゴーレムを生成して王都からここまで一晩で駆けたと説明した。


「本当に一人で王都からここまで来たのかい?それもたった一晩で……」

「はい。王都と通信して貰えば、昨日の夜に王都の侯爵邸に私が居た事は証明されますわ」

「いや、それだと今ここにいる君について疑惑が増すんだが……?」


 おっと、そういえばそうね……。

 普通に馬車で2〜3日掛かる距離を一晩で移動したとか、アリバイがあるせいで逆にここにいる私が疑われちゃう。

 ついスキルの凄さをアピールしようとしてしまったわ。


「ま、まぁそれだけ私のスキルが優秀だって事ですわね」


 私がそう言うと、お兄様はチラリとヴァンの方を覗う。

 そしてヴァンは何故か首を横に振る。

 おい、何だそのやり取りは?

 全然私の言う事信用してないだろ。


 と私達が話をしていると、ガチャリと応接間の扉が開き、一人の壮年の男性が入室して来た。


「何やら朝から騒がしいですな……って、アグリお嬢様!?」

「あ、シルヴァ。久しぶりね」


 その壮年の男性は、この領主邸で執事をしているシルヴァ——王都の侯爵邸で執事をしているセヴァスの息子である。

 親子揃って侯爵家に務めてくれている、ありがたい存在だ。

 朝早くから私達が話をしている音を聞いて、何事かと様子を見に来たらしい。

 そのシルヴァを見て、お兄様が丁度良い所に来たと用事を頼む。


「シルヴァ、通信の魔導具を持って来てもらえるかい?王都の侯爵邸に連絡を取りたいんだ」

「……なるほど、そういう事ですか。承知しました」


 どういう事ですか?

 微妙に溜息を付いてたのが気になるんですけど。

 シルヴァが退室したところで、室内に僅かな沈黙の間が訪れる。

 通信の魔導具で王都に連絡を取って貰えば、私はもう用済みよね?


「ではお兄様、私一晩中駆けていたせいで眠いので、部屋で休ませていただきますね」

「うん、ダメだよ。シルヴァが戻ってくるまでここに居てね」


 あ、お兄様の目が笑っていない。

 そしてお説教直前のお母様と同じ圧を感じる……。

 でも私の『農業』スキルでは逃げる術が無いわ。


 程なくして、シルヴァが通信の魔導具を携えて戻って来た。

 侯爵家が持つ通信魔導具は、一般的に使われている文字だけの通信ではなく、リアルタイムで音と映像をやり取り出来る高級品である。

 形は長方形の鏡にしか見えないが、かなり高度な技術が使われていると思われる。

 お兄様が魔導具に魔力を込めると、直ぐに王都の侯爵邸と通信が繋がったようで一人の映像が映し出された。

 そこに映っていたのは白髪の執事——セヴァスだった。

 何故か私が飛び出した時とは違い、妙に落ち着いていた。


「ライス様、通信して来たという事はお嬢様がそちらに到着されたのですね」

「久しぶりだねセヴァス。その通りだけど、セヴァスはアグリが一晩で侯爵領に辿り着いた事には驚いてないんだね」

「ええ、まぁ。お嬢様は空も飛びなさるので……」

「え?空?冗談だよね?」

「冗談ではありません。空を飛んで侯爵邸から飛び出したのですよ。一晩で侯爵領に辿り着くぐらいはやってのけるだろうと思っておりました」


 ふむ。私のスキルがかなり強力であると、印象付ける事に成功していたようだ。

 これはいい傾向ね。


「ライス様、お嬢様は今おられますか?」

「うん、今アグリの方に向けるね」


 お兄様が通信魔導具の鏡面を私の方に向ける。

 どうやら真正面の映像しか送れないらしい。

 私の姿が向こうの魔導具に映ったようで、セヴァスの様子が変化する。


「はぁ……。一先ずご無事であった事に安心致しました」

「ごめんね、セヴァス。とりあえず私は大丈夫だから」


 安心させようと言ったのだが、何故かセヴァスは眉を寄せる。


「大丈夫ではありませんぞ。奥様がそちらに向かわれました」


 私のバカンスは早くも終わりを告げようとしている……。

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