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公爵家

 ベジティア王国では、三大公爵家と呼ばれる貴族が広大な南部領地を治めている。

 南西のアルビオス家、南中央のキリク家、南東のレコンギス家。

 何れも貴族として王族に次ぐ絶大な力を持つ。

 そのうちの一角、アルビオス家の王都邸で、公爵夫人は娘と共に密偵から報告を受けていた。


「侯爵令嬢が一人で外へ向かうという絶好の機会を逃したのは、どう弁明するのかしら?」

「も、申し訳ございません……」


 密偵の男は額に汗を滲ませながら頭垂れる。

 それを見て公爵夫人は溜息を一つつく。


「まぁ終わった事はいいわ。王都の街中で魔法を放ったのを誰かに見られてないでしょうね?」

「は、はい!それは勿論です!」

「ならいいけど。最近、王族の暗部が動いているようだから、迂闊な行動は控えてね」


 口調は柔らかだが、常に膨大な魔力で圧を放つ女傑。

 当主のアルビオス公爵は表向きだけのいわば飾りであり、真にアルビオス公爵家を牛耳っているのはこの夫人なのである。


「それにしても、前の報告では雷系やら土系やらの魔法を使ったと言う話だったけど、例の奴隷の呪術は効いて無かったという事かしら?」

「いえ、呪術は確かに成功していました。奴隷は主に嘘をつけませんので。侯爵令嬢アグリ・カルティアのスキルは間違い無く生産系になっている筈です」

「あなたは生産系スキルでも攻撃的魔法が使えると言うつもり?」

「そっ、それにつきましてですが、奴隷の呪術はかの呪術集団程の力は無い為、戦闘系スキルを生産系にねじ曲げる代償として対象のスキルが強化されてしまうらしく」

「あら、それは初耳ね」

「ですが生産系スキルでさえあれば、王子殿下の婚約者候補から外されるとの事でしたので……」


 男が公爵夫人から受けていた命令は、アグリのスキルを生産系にして婚約者候補から外させろというものだった。

 それを満たしてさえいれば、余計な報告はしない方がいいと、スキルが強化される件については省いていたのだ。

 しかし、ここでもそれを隠蔽すれば、次にバレた時にどんな罰が下るか分からない。

 傷が浅いうちに正直に話す事で、僅かにでも減刑してもらおうという算段であった。


 じっと夫人は男を見つめる。

 その間も相変わらず魔力による圧力は弱まらない。

 生きた心地がしない男には、その間の時が数十倍にも感じられた。


「土系の魔法の可能性もあるけれど、飛行型ゴーレムは結局何も攻撃して来なかった。つまり生産系のスキルで作られた可能性が高いわね」

「は、はい。おっしゃる通りです」

「馬の数倍もの早さで走ったというちょっと信じ難い話の移動型ゴーレムも、逃げ足が早いだけで攻撃能力が無いなら、生産系のスキルで生み出されたものと言えるかしら」


 そこで言葉を区切る夫人。

 ごくりと生唾を飲み込む男。


「確かに攻撃力が無い役立たずのゴーレムを生成しただけなら、生産系のスキルなのでしょう。でも雷系の魔法についてはどう説明するの?そもそも攻撃力が無かったのではなく、攻撃する意思が無かっただけかも知れないし」


 夫人が魔力の圧を少し高めたところで、それまで大人しく話を聞いていた娘の公爵令嬢メリアナが割って入る。


「お母様、大切なのはアグリ・カルティアのスキルではなく、あの子が婚約者候補から外れる事ですわ」


 それまで周囲に圧を掛けていた夫人の魔力が弱まった。


「そうね。メリアナの言う通り、それが成されればどうでもいい事だったわ」

「でしょ」


 無邪気に母と会話を交わす令嬢だが、話している内容はそれなりに物騒だ。

 見方を変えれば、手段を選ばず他者を蹴落とそうという事なのだから。

 だが、そうしてでも王族の婚約者の座というのは欲しいものなのだろう。

 しかも公爵家令嬢ともなれば、本来なら婚約者の中でも筆頭に名を上げる筈だったのだから。


 しかし婚約者候補の中では、公爵家を差し置いて、侯爵家の令嬢が筆頭であると見られていた。

 頭脳明晰、容姿端麗、魔力も王族並に膨大であるアグリ・カルティアは、他の追随を全く許さない存在だった。

 それをそのまま指をくわえて見ているなど、この苛烈な精神性を持つ公爵夫人ができる筈も無い。

 その血を色濃く継いでいる娘のメリアナも同様である。


 表立って糾弾出来る材料が無い為、公爵夫人は奴隷を購入して今回の行動に出た。

 呪術と呼ばれる闇系スキルを用いて、神の祝福である『スキル』を書き換えさせたのである。

 この国では貴族に連なる者は『戦闘系スキル』の強さで評価される。

 その中にあって『生産系スキル』は論外であり、評価に値しないどころか貴族にあるまじきとまで言われるものだった。

 貴族の子で生産系スキルを得てしまった者の末路はほぼ決まっている。

 廃嫡されて追放されるか、家の中にあっても冷遇されるか、場合によっては無かった者として消されるか。

 多くは追放という名目で知人に預けられるが、そこではもう以前のような裕福な暮らしは望めない。

 故に貴族にとっては、スキルが戦闘系であるか生産系であるかは一大事なのである。


 娘から男の方へ視線を向けて夫人は命令を下す。


「でも、それすらまだ確定した訳ではないのよね。婚約者候補から外されたという話は出ていないし、侯爵家から追放された訳でもない。一人で侯爵家を出て行ったというのは不可解だけど、まだ監視は続けなさい。生産系スキルであると確証が持てるまでね」

「御意……」


 男は思った。

 スキルを看破できる魔眼のようなスキル持ちがいれば簡単なのに……と。

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