攻撃
残暑は厳しいが、夜はそれなりに丁度良い涼しさとなって来た。
でも高高度を飛行するには、ちょっと肌寒いかも?
月に照らされた王都の街並みが眼下に薄らと見える。
まだ暖炉に火を入れるような季節じゃないから、月の光が無ければ真っ暗だっただろう。
前世のような夜景が見れるのは、もうちょっと寒くなってからかなぁ?
なんて考えながら王都の上空を農薬散布用ドローンにつかまりながら飛行していた。
このまま侯爵領まで飛んで行けたらいいんだけど、ドローンに私を運ばせるのはそれなりに魔力を消耗するし、更に身体強化も常時使用しているので、長時間の運用は不可能だ。
どこかで降りなきゃいけないんだけど、なるべく人目に付かない所がいいよね。
とキョロキョロ周囲を見回していると、ふいにドローンが傾いて横に流れるような動きをした。
「うわっ!」
振り落とされないように腕に力を込める。
と、次の瞬間、下方からさっきまで私が居た場所を攻撃魔法のようなものが通過して、上空へと消えて行った。
「えっ!?あ、危なかった……」
ドローンが流れなかったら当たってたよ。
誰よ、こんな夜中に空に向けて魔法放ったのは!?
空を飛んでる人がいたら危ないじゃない!!
まぁ普通はいないと思うけど……。
誰かが魔法の練習でもしてたのかな?
魔法が放たれた方向を確認しようと思ったら、またドローンがおかしな方向に傾いた。
そして少し移動すると、再び移動前の場所を攻撃魔法が通過する。
ちょっとっ!私を狙ってるの!?
月夜に未確認飛行物体がいたら、魔物か何かと思って攻撃しちゃう気持ちも分かるけど……。
それともう一つ不可思議な事が——このドローン、私の意思とは無関係に勝手に動いてない?
しかも弾道を予測して避けてるみたいだし。
召喚されたドローン凄っ……。
などと感動に浸っている暇も無く、次々に攻撃魔法が私に向かって放たれて来た。
それをことごとくドローンが躱してくれる。
軍用か?と思うほどの高機動性を誇るドローンだが、どうやらドローン自体が勝手に動いてるのではなく、私のスキルが干渉して動かしているらしい事に気付いた。
スキルってそんな自律防衛みたいな事までしてくれるのね。
凄いわスキルちゃん!
って、このままじゃいつか撃ち落とされちゃうわ。
私は急ぎ、王都の郊外まで移動するようにドローンに魔力を流し込んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なんとか追撃を振り切って、王都郊外の森の中に身を潜めるように着陸出来た。
ドローンは見られると何かと拙いので、直ぐに帰還させる。
それにしても、あの攻撃は何だったのだろうか?
未確認飛行物体だからって、普通いきなり攻撃してくる?
友好的な知的生命体が乗ってたらどうするのよ。
あっ、ひょっとして王都の衛兵が防衛の為に攻撃してきたのかも……ごめんよ衛兵さん、不審な行動とって。
次回からは侯爵邸を出たら、すぐに着陸して別の移動手段を使う事にしよっと。
次回とか考えてるって知られたら、めっちゃセヴァスに怒られそうだけどね。
とりあえず空はもう警戒されてるだろうから、陸路から行くとするか。
陸路……農業……あれしかないよね。
「『召喚』っ!」
私の手から放たれた魔力が一ヶ所に集まり、洗練されたフォルムを顕現させる。
前後に装備された厚みのあるタイヤ。
大きめの座席と後部には荷台。
農家御用達の自動二輪車だ!
前世のおじいちゃんが田んぼを回るのに使っていた50ccの原付ではなく、小型限定の二輪免許が必要となる排気量110ccの方である。
移動速度は100km以上だって出せる高性能バイク。
まぁ前世の世界では高速道路を走行出来ないから、性能を発揮する機会は無かったけどね……。
だがここは異世界なので、免許も要らないし制限速度も無い。
但し道路は整備されてないという、二輪で走るにはやや不安な部分もあるが、排気量の割に悪路に強いこのバイクならある程度安定して走行出来るだろう。
「ちゃんとヘルメットまで召喚してくれるとは、至れり尽くせりね」
私はヘルメットを被り、付属していたゴーグルを目元まで下ろした。
魔力を流してイグニッション。
4ストロークの振動が下半身から伝わる。
これはヤバい……耕運機の時よりハートがビートを刻むぜ!!
左足でギアニュートラルから一速に入れて、右手でアクセルを回す。
侯爵領目指して、私は目一杯エンジンを吹かした。
「ヒャッハー!!」
召喚したバイクで走り出す8歳の夜。
その後王都近郊で、奇声を発して爆走する鉄の馬の噂が立ったとか……。
某ライトノベルのタイトルにもなっている例の自動二輪車ですが、某自動車メーカー様の商標のようなので使用を控えました。
私の小説はファンタジーに胡座をかいて、あり得ない描写をする事が多いので。
気にしすぎかなぁ……?
一応明示を。
この物語はフィクションであり且つファンタジーなので、実在の人物・団体・商品等とは一切関係ありません。