第一のアトラクション 城1
苦しい。
苦しい。
息をするのが辛い。
止めて!
止めて!
もう止めて!
上代なつみは眉間に皺を寄せてベッドに横になっていた。
辛い苦しい夢を、なつみは見ていた。
「ううっ……」
その夢のあまりの辛さになつみは強引に夢の中から抜け出す。
なつみの体は酷く怠かった。
「うぅーんっ……」
お腹が痛い。
なつみは目を閉じたまま唸り声を上げる。
なつみは出来ればこの目を一生閉じていたかった。
何も見ず、何も聞かず、感じず、何もかもを止めたかった。
しかし、そうはいかない。
起きないと。
ママが心配する。
仕方なくなつみは目を開く。
その瞬間、なつみの息が止まった。
「えっ?」
目を開いたなつみは、あまりの違和感にハッとする。
なつみはオロオロと体を起こして辺りを見まわした。
「此処は……何処?」
なつみの目に馴染んだ四畳半の自室の景色は此処には無かった。
なつみの目に映るのは広い、広い部屋だ。
一人で眠るには大きすぎる天蓋の付いたベッドから眺める異世界はおおよそなつみとは無関係な物で溢れていた。
鳥かごの様なアーチを描いた金の縁取りの大きな窓から漏れるほのかな青い光。
その光に照らされた部屋には大きな鏡のドレッサーや白い大理石で出来たテーブルに白皮のソファー。
壁に並んだ白木で出来た棚の取っ手は貝のモチーフ。
おまけにそれは金色に光っている。
床に引き詰められた高級そうな赤い絨毯は艶やかだった。
高い天井にある照明はシャンデリアだ。
透明な星屑の形をした石がシャンデリアから幾つもぶら下がっている。
それらはみな、本物の水晶であったが、なつみはその事を知らない。
瞬きを繰り返すなつみは部屋の薄いピンク色の壁を眺めてぼんやりした。
壁には小さな薔薇の模様が描かれていて壁紙がどうやら布で出来ている様だと知れる。
私、まだ夢の中にいるの?
そうとしか考えられない煌びやかな世界。
なつみは恐る恐るベッドから足を下ろした。
絨毯の柔らかな感触が正に夢の様。
しかし、なつみの感じているお腹の痛みは実にリアルだった。
フラフラした足取りでなつみは部屋の中を進む。
なつみの足はドレッサーの前で止まった。
鏡に映る自分の姿になつみは目を見開く。
だ、誰?
鏡に映るのは、なつみの姿では無かった。
まるで別人。
なつみは頬を両手で強く押さえる。
鏡に映った人物も同じ様に紅色の頬を両手で押さえている。