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小説自動執筆AIは、或いは小説投稿サイトを衰退させてしまうかもしれません

 インターネットが普及し始めた当初、ネットを利用する人々の主な活動場所はチャットや電子掲示板でした。そこから個人のサイトが多数作られるようになっていき、その個人のサイト内でもチャットや電子掲示板が作られ、様々な交流が生まれました。

 が、これらはブログなどのよりお手軽に交流できるSNSの普及によって衰退していきます。しかしそのブログもツイッターという新SNSの登場によって衰退していってしまいました。ツイッターは、ブログより煩わしい人間関係に縛られ難い気楽さと、そして参加者に投稿された内容が通知されるという新技術のお陰で普及したと言われています。

 それまでのサービスでは、仲間が更新した内容をページにアクセスして見に行かなくてはならなかったのですが、ツイッターはそのような手間が必要なくなったのです。自動的に通知され、自分のページから閲覧できます(もちろん、文字数の制約はありますが)。

 

 ――このように、これまでネット文化のサービスは新技術や新しい発想の新サービスの誕生によって急速に移り変わって来ました。がしかし、そんな中で小説投稿サイトは比較的安定しています。ユーザーインターフェースやデザインの刷新はありましたが、それでも「ユーザーが作成し、投稿した作品を他のユーザーが読んで評価する」というスタイルが長年維持されています。これは小説投稿サイトのこのスタイルが完成されたものであったからでしょう。

 ですが、最近になって、その比較的安定していた小説投稿サイトの体制を揺るがしかねない新技術が普及し始めています。それが随所で話題になっている“小説自動執筆AI”です。

 当然ながら、これが進化すれば作品を“ユーザーが作成”する必要がなくなります。小説投稿サイトの作品は「誰でも書ける」と批判される事が多いのですが、これを使えば本当に誰でも作品を作成する事ができてしまえるのです。「AIに書かせている」と公言する人は少ないでしょうから、既にこれを使って作品を作成し、投稿している人もいるかもしれません(実際に、既に使っているとコメントをくれた人がいます)。

 これは小説投稿サイトの“作家”という立ち位置が、今後危うくなっていく事を意味してもいます。

 もちろん、小説執筆に活かせるだけの性能が“小説自動執筆AI”になければ、そのような事はできません。そこで小説自動執筆AIを使えるうちの一つ、「AIのべりすと」というサイトで僕はその性能を試してみました(ただし、検証したのは2022年6月辺りですので、今ではそれよりも性能が上がっているかもしれません)。

 まず、文章力ですが、これは十分でした。

 小説投稿サイトからデビューしている作家の中には、ちょっと驚いてしまうレベルで文章力が低い人がいるのですが、そういう人達と比べて遥かにAIのべりすとの文章力は高いです。

 ただし、わずか数行で矛盾ある内容を書いてしまったりするので、必ず人間側のチェックが必要になって来るでしょう。

 「回復系モンスターと宿屋の娘」という僕が自分で書いた作品を途中までコピペして、AIのべりすとがどんな内容の続きを書くのか試してみたのですが、カイくんというキャラをいきなり一行目で爆散死させたかと思ったら、それ以降で普通に登場させたりしていました。人間の言葉を喋れないって設定なのに、普通に喋ってしまったり。

 また、作者の思った通りの作品を書かせる事も難しそうです。

 なろう系作品でありがちな、追放系の小説を男女平等問題をテーマに書かせようと思ったのですが、巧い具合にいきませんでした。女性を主人公にし、活躍しているのに追放されてしまい、その理由が女性差別といった内容の話を書いてくれるかどうか試してみたのですが、追放される前に、女性主人公がモンスターにやられて酷い目に遭う展開にしてしまう事がとても多いのです。設定とか色々と弄ってみたのですが無駄でした。

 AIのべりすとで用いられているAIは恐らくはネット上の小説も読み込んで学習しているのだと思われます(なろう系っぽい作品を書く事がとても多いので)。なろう追放系作品はどちらかと言えば男性向けの方が多い為か、男性にとって都合の良い展開が多いようなのですが、もし仮にAIのべりすとが学習した作品以外の内容も書けるのであれば、こういった“男女平等、女性差別”をテーマにした作品も書けるはずでしょう。ですが、できませんでした(繰り返し強調しますが、2022年6月頃に検証した内容ですので、今は違うかもしれません)。

 つまり、作品内容にそれほど融通が利かないようなのです(僕の使い方が未熟なだけという可能性もありますが)。

 

 ……女性主人公(騎士って設定です)が、モンスターにやられて酷い目に遭う展開ばかりを書くAIのべりすとを観て、何と言うか、小説投稿サイトの男性らの性癖が分かった気になりました。

 

 この結果を踏まえて、僕は少なくとも2022年6月の段階では、作者が意図した通りの作品をAIのべりすとに書かせるのは難しいと判断しました。作品を練るタイプの「書きたい内容」が決まっている作家にとっては、それほど優れたツールではなさそうです(ただし、前述のコメントしてくれた方は巧く使えているようなので、“使い方次第”なのかもしれません)。

 では、“小説自動執筆AI”は有効なツールではないのでしょうか? 世間に与える影響力はそんなに高くはない?

 そんな事はないと僕は考えています。

 何故なら、良い作品を書く事への拘りが低く、粗製乱造を基本とする作家にとってはかなり便利なツールになるだろうからです。

 実際、どんな作品でも良いのなら、以下のような手順で簡単に小説が書けてしまいます。

 

 1.小説投稿サイトから良さげな小説の内容の一部分をコピーし、何かソフト(サクラエディタなど)にペーストする。

 2.キャラクターの名前などを全置換し、その他キャラクターの設定などを適度に変える。

 3.AIのべりすとに続きを書かせ、矛盾点などをチェックし修正する。

 

 もちろん、良作になるケースは稀でしょうが、これだけで作品を書けます(こうなるともう“書く”って表現して良いのかどうかも分かりませんが)。盗作にも当たらないでしょうから、著作権侵害にもなりません。

 これでは、巧く使いこなせれば作品を練るタイプの作家でもAIのべりすとを有効に使えるのだとしても、自ずから執筆スピードに著しい差が出てしまいます。

 作品を練るタイプの作家は、作品を書く為に資料などを集めたり、参考文献を読み込んだりします。

 自分の話で恐縮ですが、『魔女告発と拷問 ~魔女は感染する』という作品を書くに当たって、僕は『参考文献:魔女狩り ジェフリ・スカール、ジェン・カロウ 岩波書店』という本を読み返しています(この作品の為だけではありませんが、普段から参考になりそうな本を読む習慣にもしています)。

 AIの登場以前は、アイデアゼロでは作品を書けませんでしたが、これからはアイデアゼロでも作品を書けてしまえるのですね。

 ただし、オリジナリティはそれほど期待できないでしょう。これはAIによる創作全般に言えることらしいのですが、組み合わせによる創作は可能でも、全く新しい発想を生みだすのは苦手だと言われています。

 或いは、「そんな作品では、高ポイントは得られない」と思う人もいるかもしれませんが、小説投稿サイトでは驚く程レベルの低い作品が高ポイントを得て出版されていたりするのです。むしろ、流行っていそうなキーワードを盛り込んで粗製乱造を行うというのが、小説投稿サイトでランキング上位に入る最も効率の良い手段であるようです(これは一部のプロのなろう作家も認めています)。

 例えば「冒険者になる為の冒険者学校に通う為の資金を稼ぐ為に冒険者になる」みたいな矛盾のある、当にAIのべりすとに書かせたような作品が普通に出版されているのです。

 また“新しい発想”もそれほど尊重されていません。AIにでも書けそうな、類似作品が非常に多いのです。

 最近はかなりマシになって来ていますが、ランキング上位のほとんどの作品がいわゆる追放ざまぁ系作品で埋め尽くされていた時期すらもありました。あるなろうウオッチャーの言葉を信じるのであれば、その頃、月間ランキングの1位~10位までの作品の冒頭の流れがほぼ同じだったそうです。これでは上位を狙うのに、真面目にオリジナルストーリーを考える意味などありません。

 だからでしょう、作家によっては、一話目はどの作品もほぼ同じ内容なんて人もいるみたいです。恐らく、投稿してみて、ポイントやアクセス数が低かったら止め、高かったら書き続けるみたいな事を繰り返しているのだと思われます。

 小説投稿サイトでは、タイミングとタイトルが読者に受けるかどうかで作品の人気が大きく左右されてしまうので、真面目に一つの作品に集中するよりも、粗製乱造の方が効率が良いのですね。

 また、小説投稿サイトには、ある特定のタイプの作品でしか高ポイントを得られ難いという特性もあります。

 同人誌として発売した折、運営からカタログに取り上げてもらえ、出版社の編集者を名乗る人物まで現れた『人食い村の噂話』という作品を、僕は小説家になろうに投稿したのですが、たったの41ポイントしか取れませんでした(2022年10月22日現在)。

 が、『冒険者パーティを追放された俺だが、そんな俺を追いかけて来てくれた優しい彼女が…… って、タイトルであらすじを説明するスタイルは、ショートショートだとオチがバレるから使えないじゃん!』というタイトルの、その当時なろうで流行っていたタイプの単なる思い付きのくだらない作品を投稿してみたところ、なんと112ポイントも取れてしまったのです。

 ただ単にポイントが欲しいだけの作家なら、間違いなく後者のような作品ばかりを投稿し続け、真面目に作品を練り上げるような事はしないでしょう。つまり、そういう作家の方が小説投稿サイトにおいては強いのです。高く評価され、そして出版もできてしまえます。

 そして、先にも述べた通り、AIのべりすとはそういう作家にとってより有効なツールです。ですから、こういった小説自動執筆AIが普及していけば、益々、特定のタイプに偏った粗製乱造作品が増えていく事になるのではないかと予想できます。

 (ただ、小説自動執筆AIを利用している作家の方が、類似作品ばかりを書くなろう作家よりも、実はバリエーション豊かな作品を書くという可能性も僕は疑っているのですが)

 

 ――もし、こうなってしまった場合、小説投稿サイトにとって大きな問題点が二つ生じる事になるでしょう。

 

 一つ目は、今でさえ、“読者層が偏っている”と言われている小説投稿サイトの読者層が、更に偏ってしまう点(読者層の多様性が低くなれば、サイトは脆弱になります)。

 二つ目は、小説投稿サイトに依存する作家の安定性が更に低くなる点。

 

 一つ目に関しては説明は不要でしょう。例えば、今人気のジャンルが飽きられてしまったなら、一気に読者がいなくなってしまうリスクがあります。

 二つ目は小説投稿サイトからデビューしている作家の多くは、実は“準プロ”のような扱いを受けているのですが、その所為で起こります。

 小説投稿サイトでランキング上位に入り、出版されたとしても、それで作家としての地位が確立される訳ではなく、再びランキング上位に入らなくては、次回作を出版社に出版してもらえない作家が大勢いるらしいのです。

 普通の作家なら、作品を小説投稿サイトに投稿する必要すらないのですが、小説投稿サイトからデビューしている作家の多くは違うのですね(レアケースではありますが、小説投稿サイトから普通の作家になれた人もいます)。

 小説自動執筆AIによってライバルが増えていけば、当然ながら、このような作家は出版が難しくなっていきます。

 

 ただし、これが本当に小説投稿サイトにとって悪い結果に結びつくかどうかは、正直、あまり自信がありません(作家にとっては間違いなく問題がありますが)。

 これまで僕は、小説投稿サイト…… なろう以外もひっくるめて“なろう系作品”と呼ばれる作品群に対する世間の反応に関する予想を、ある程度は当てて来ました。

 もっとも大した話ではなく、誰でも当然に予想できるくらいの内容に過ぎませんが。

 『類似作品が多過ぎるので、やがて飽きられるだろう』

 と予想していたのですが、近年ヒット作と呼べる作品は随分と減っています(元は短編の恋愛作品が一時話題になったみたいですが)。小説が売れない為、ビジネスとしては漫画原作の位置付けが主流になり、初めから“漫画原作”として作品を募集するコンテストも開かれています。

 コミカライズを担当する漫画家さんは、なろう系作品のコミカライズに際して色々と工夫しているようです。原作にはない戦闘シーンを追加したり、極端な場合だと原作を無視してコメディ作品に変えてしまったり。

 そして、そういった努力のお陰か、漫画化などメディア展開されているなろう系作品に関してはそれなりに売れているようですが(ただ、アニメ化作品は、独自の工夫が失敗し、叩かれてしまっているケースもあるようです)、それも“飽きた”という声が聞こえ始めています。かつてなろう系アニメが大人気だった中国でもそのような声が上がっているのです。

 『著作権侵害疑惑のある作品が多過ぎるので、訴訟リスクを避ける為、ゲーム会社はなろう系作品を原作にしたがらないだろう』

 とも予想していたのですが、これも今のところは当たっています。なろう運営は努力していたみたいですがね。

 

 ――がしかし、小説投稿サイト自体については、僕は予想を外して来ました。

 

 正直、そのような流れになれば、小説投稿サイトの人気に陰りが見え始めるのではないかと思っていたのですが、依然として人気が高いまま…… どころか、むしろアクセス数が伸びたようなのです。

 つまり、世間では徐々に『なろう系作品に飽きた』という声が大きくなって来ているのに逆にアクセス数が増えたのですね。一体、何が起こっているのでしょう? 正直に言って、小説投稿サイトは僕の理解の範疇外にあります。

 考えられる要因としては、“アニメ化作品が多い”という点くらいしか思い付きません(小説自動執筆AIの利用者が増えた影響で、小投稿数が増えたから、という可能性もありますが、影響があったとしてもこれは一時的なものでしょう)。

 あるレビュアーによれば、他のラノベと違って、なろう系作品はあまり原作が売れていなくてもアニメ化される事がとても多いのだそうです。これは恐らくはウェブ版のアクセス数が多いので、原作の売上は低くても、アニメ化成功の可能性が高いと制作側が判断するからではないでしょうか?

 だからこそ『飽きた』という声が増えても、アニメ化作品が多いのかもしれません(今のところは、空回りしている感が強いですが、製作者側が工夫すれば、アニメ化に際して独自色を出す事も可能ですし)。

 仮にもっと“小説自動執筆AI”が普及し、今以上にAIに書かせた類似作品が大半を占めるようになってしまったとしても、だから小説投稿サイトには依然として人が集まり続けるかもしれません(前述した通り、小説自動執筆AIを利用した方が作品のバリエーションが増えるという可能性もあります)。

 

 ――しかし、ならば小説投稿サイトは安泰なのかと言えば、僕はそれも違うのではないかと考えています。

 

 今のところ“小説自動執筆AI”は、飽くまで外部ツールに過ぎません。つまり、作品を作る事だけに特化していて、それを一般に向けて公開する機能は持っていないのです。

 が、しかし、果たしていつまでそれが続くでしょうか?

 小説をユーザーに読ませる機能と小説自動執筆AIが一体となったサイトがいつ現れるとも限りません。

 AIのべりすとは開発も運営も日本ですが、AIの技術力はアメリカや中国の方が上です。そして、いずれも資金力が高く、Google、IBM、TikTokなど日本に高い影響力を持つ企業やサービスも多くあります。これら企業のいずれかが優れたAIを武器にネット小説ビジネス業界に参入して来る可能性は決してゼロではないでしょう。

 何故なら、一般的に既にシェアされている市場を奪うのは困難だとされていますが、AIの活用さえできるのであれば十分に勝機があるからです。例えば以下のような方略を取られたなら、日本のネット小説市場は奪われてしまうかもしれません。

 

 まず、ある程度人気のあるネット小説の著作権を買い取ります。

 ご存知の方も多いかもしれませんが、ネット上に投稿されている作品の中には、人気があるにも拘らず、途中で更新が停まっている小説が多くあるのだそうです。こういった作品の著作権を作者と交渉して買い取る事は可能でしょう。

 その作品を基に、小説自動執筆AIが問題なく執筆できるくらいの設定を行い、そのサイト内限定で著作権フリーとした上でダウンロード可能にしておきます。

 小説自動執筆AIに高度な機能を持たせようとした場合、設定が難しくなってしまうと考えるべきでしょう。僕はだからこそAIのべりすとを使いこなせなかった訳ですが、その問題を著作権フリーの雛形を用意する事で改善するのですね。

 ユーザーは、その雛形の内容の一部を修正してオリジナル作品をAIに執筆させても良いし、著作権フリーなので、雛形作品のIFストーリーを執筆させても良いし、その続きを執筆させたって良いのです。

 AIに執筆させるやり方は、“その後の展開を簡単にユーザーが書く”という方法がベストかと思います。例えば、DとBが闘うだとかDとCが恋人同士になるだとかを書いておくと、その通りの展開をAIが執筆してくれるのですね(AIの能力を軽く調べてみたのですが、既にこれくらいは可能であるようです)。

 そして、そうして執筆させた内容をそのままネット上に投稿できるようにします。また、オリジナル作品の場合は全くの新規で、雛形の場合はIFストーリーなのか、続きなのか読者には分かるようにしておき、各話毎にポイントをいれられるようにしておきます。また、自分の書いた作品のIFストーリーを書く事を認めるか否かも選択できるようにしておいた方が良いでしょう。

 IFストーリーを書いた人が宣伝してくれるので、自分の作品のIFストーリーを認めておいた方が、当然宣伝力が上がりますし、結果的に作品数を増やす事にも繋がるので、当然、サイト全体のアクセス数も増えます。

 

 ……小説投稿サイトが人気になった要因の一つに、それぞれの投稿者が読んでもらおうと必死に作品を宣伝してくれるという点があると思います。

 だから、IFストーリーにしろ、続きにしろ、著作権フリーの元作品とは別の著作権が発生するものとし、仮に出版が決まったのなら印税収入を得られるようにしておきます(多分、法律上、可能ではないかと思います。間違っていたらごめんなさい)。こうしておけば、今までの投稿サイトと同じ様に宣伝のモチベーションを投稿者に与える事ができます。

 

 後はユーザー達の自由な活動に任せておけば、自然と作品が増えてサイトが大きくなっていきます。

 もちろん、雛形となる作品はジャンルに合わせて数種類用意しておくべきでしょう。

 こういった方法を採用すると、類似作品が多くなってしまいますが、現在の小説投稿サイトの状況を鑑みるに、類似作品が多くても問題なく読者を集められているようなので支障は特になさそうです。

 一つ懸念点があるとすれば、小説自動執筆AIに対するアレルギー反応の強さでしょう。小説投稿サイトの感想欄を参照すると、「作者が毎日更新していて偉い」といったような、作者の努力を称賛するコメントがあります。つまり、読者の中には作者の努力込みでその作品を高く評価している人がいるのです。

 (※現在、どれだけの作者が、小説自動執筆AIを用いているのかは分かりませんが、仮に読者がこのような理由で作品を評価していた場合、小説自動執筆AIを用いている事は“読者への裏切り”と見做されかねません。イラストなどでも同様の事が言えますが、今後AIの登場によって、創作に関わる新たな道徳や倫理、法律が必要になって来るでしょう)

 もし、小説自動執筆AIに対するアレルギー反応がそれほどでもなかったのなら、このような小説自動執筆AIと投稿サイトが一体となったサービスが人気を獲得する可能性は十分にあります。

 そして、アメリカや中国には、これを実現できるだけの技術力も資金力も持った企業があるのです。

 後はマネタイズの道筋さえ明確になったのなら、このようなサービスが現実のものとなるかもしれません。

 もちろん、それら企業がこのような方法を採るとは限りません。何か別のアプローチをして来るかも。

 

 ――さて。

 果たして、今のままで、日本の小説投稿サイトはそれに対抗できるでしょうか?

 

 ところで、小説投稿サイト界隈ではまだそれほどAIによる自動創作が問題視されるという話を聞きませんが、実はイラストの世界では既に問題になっています。

 絵を描けない人が、AIにイラストを描かせて“自分の絵だ”と発表していた事が分かったのですね。

 AIが絵を描く実力を身に付ける為には、学習元になるデータが必要ですが、これは言い換えるのなら、AIを介して著作権が侵害されているとも捉えられます。

 ただし、これ、一応今のところ、法律上は大きな問題にはなっていません。著作権者の権利の一つに複製権があるのですが、“情報解析を目的すとする場合”は許可されているからです。AIによる学習元データの利用は、これに該当すると判断されているのですね(参考文献:AIの法律と論点 西村あさひ法律事務所 商事法務 77ページ辺りから)。そして、著作権は“人間が創作する”前提で作られた法律である為、AI自体には著作権は発生せず、それを使った人間が著作権を持つ事になります。

 ですが、AIによる創作物が、あまりに学習元データと似通っていた場合、流石に学習元データの製作者の権利を蔑ろにし過ぎているように思うのです。或いは、今後、この方面の法律が改訂されるかもしれません。

 ただし、調査不足だったら申し訳ないのですが、今のところ(2022年11月)は、AIに描かせるイラストレーターがプロのイラストレーターの仕事を奪っているという話は聞いた事がありません。18禁サイトのイラストだと既にAIに描かせたイラストが出回っているという話も聞きましたが、仕事が奪われるという程ではないでしょう。

 これが何故なのかと言うと、イラストレーター独自の世界が尊ばれているからだといいます。

 つまり、イラストの場合は、作品のクオリティのハードルが高いので、AIがプロに成り代われないという事です(一応、強調しておきますが、現段階の話です。今後はどうなるか分かりません)。

 

 ならば、AI技術に対抗する為には、小説でも同じ事をすれば良いのではないでしょうかね?

 

 小説の場合、小説自動執筆AIが普及しても、イラストよりも話題になっていないし問題視もされていません。これは恐らくは、小説投稿サイトにおいては人間が作成した作品もAIが作成した作品もそんなに差がないからでしょう。

 前述した通り、数行で矛盾した内容がある作品や、展開に矛盾がある作品が、小説投稿サイトでは高い評価を受けて書籍化されているのです。また、これについては或いはAIよりも酷いのかもしれませんが、著作権侵害が疑われるような類似作品も多いです。

 ですから、AIを使って書かせていたとしても、読者がそれと気付かないのではないでしょうか?

 一応、念の為に断っておくと、注意深く読めばAIが書いているのだと見抜ける場合もあると思います。

 何故なら、そもそも僕が小説自動執筆AIの存在を知った経緯が、“AIが書いているように思える作品”を見かけた事だったからです。

 文章力は普通以上のレベルなのですが、時折、人間ではしないような言い回しや表現が目に付きまして、それで「もしかしたら、AIに書かせているのかも」と疑って調べてみた結果、既に小説自動執筆AIが利用できるサイトがいくつもあると知ったのです(もちろん、作者がAIの書いた内容を修正している作品は見抜くのが難しいでしょうが)。

 ただ、普通は気付かないでしょうし、気付いても問題視しないかもしれません。

 では、この状況を変えるのには、どうすれば良いでしょうか?

 

 一つには、評価能力が高いユーザーを選別し、そのユーザー達の評価を信頼するというやり方があります。

 (これからしばらくは以前に投稿した「小説になろうの採点システムはほぼ変えないまま、”売れる作品”がランキング上位に入る方法 ~小説家になろうの最大の被害者は、或いはなろう作家なのかもしれません」というエッセイの内容の一部と同じです。もう読んだという方は読み飛ばしてしまってください)

 

 ユーザーの評価能力判定を行い、評価能力が高いユーザーのみのランキングを別途設ければ、そのランキング上位作品はある程度の高い品質を持っている可能性が高くなります。

 ユーザーの評価能力の判定は、出版されている作品の実績をベースに“正解ポイント”を作成し、そのユーザーの評価が正しいかどうかを比べる事で行います。

 もちろん、その際の対象は“その作品が発売される前の評価”のみです(日付をデータに持っているのでそれは容易かと)。売れている作品に高ポイントを入れた場合は、後出しじゃんけんになってしまいますからね。ですから、当然、発売された日付以前のその作品の評価をデータベースに保存しておき、ユーザーの評価能力の判定はそのデータベースに保存しておいた方のポイントで行います。

 飽くまで、一案に過ぎませんが、このような式で評価能力ポイントを求めるのが良いかもしれません。

 

 10-絶対値(正解ポイント-ユーザー評価ポイント)×3

 

 (“×3”しているのは、評価能力ポイントをマイナスするケースを存在させる為です。マイナスする計算がないと単純に評価する回数が多ければ多いほど、評価能力ポイントが高くなってしまいますから。また、“×2”でないのは、なろうの上限ポイントは10である為、評価する作品のポイントを中央値の6にしておけば、作品を評価すればする程、評価能力ポイントが上がるというズルが可能になってしまうからです。もちろん、結果によっては値を2.75にするなどの微調整を行う必要はあるでしょう)

 

 例えば、“薬屋のひとりごと”であったのなら、売上トップレベルなので当然、正解は10ポイントです。仮にユーザーが10ポイントの評価をしていたとするのなら、上記式に当て嵌め、

 10-絶対値(10-10)×3

 で、答えは10になります。このユーザーは、評価能力ポイントを10ポイント得られます。

 しかし、ユーザーが“薬屋のひとりごと”に2ポイントの評価をしていたなら、上記式に当て嵌め、

 10-絶対値(10-2)×3

 で、答えは-14ポイントになります。ユーザーは評価能力ポイントを14失う事になります。

 別のケースも考えてみましょうか。

 まったく売れなかった作品の場合、正解ポイントは2にするべきです。その作品に対して、ユーザーが6ポイントの評価をしていたとするのなら、

 10-絶対値(2-6)×3

 で、答えは-2になります。ユーザーは評価能力ポイントを2失う事になります。

 

 AIよりも、実力のある人間の作家の作品の方がクオリティが高いという前提ですが、このようにして抽出した評価者達によるランキングを作成すれば、自動的にAI作品を除けるようになるでしょう。小説自動執筆AI中心のサイトよりも面白い作品が読めるようになり、対抗ができるようになります。

 ただ、これだけでは不充分かもしれません。恐らく、類似作品が多くなるという深刻な問題は(少なくとも短期間では)解決できないでしょう。

 前述しましたが、AIはオリジナリティのある作品を作成する事は苦手だと(今のところは)されています。

 ですから、小説自動執筆AI中心のサイトに対抗する為には、「オリジナリティのある作品を尊ぶ」という精神が必要になって来ます。ただもちろん、啓蒙活動などを行っても高い効果は得られないでしょう。

 もっと積極的に数値で現れるような形で示してやらなくては。

 例えば、(これが技術的に可能かどうか分からないのですが)、AIに小説の内容を読み込ませ、オリジナリティ指数のような数値を導き出すという案はどうでしょう?

 そして、オリジナリティ指数が高い作品をピックアップするような仕組みを作れば、人間ならではの強みを存分に活かせるようになるはずだと思うのです。

 もちろん、オリジナリティ指数を計算させるコストがどれくらいかかるか分かりませんし、その時々によってオリジナリティ指数は変わってしまいますから、いつ計測した値なのかが重要になって来ます。だから、作者のオリジナリティある作品を生みだした労力を称賛したいのなら、オリジナリティ指数の最高値を作品に記述しておくべきだろうとも思います。もしかしたら、その作者の作品がエポックメーキングになって、類似作品が現れたのかもしれませんし。

 もし仮にオリジナリティ指数の計測にコストがかかり過ぎるのであれば、有料という事にしても良いかもしれません。お金を払っている人と払っていない人で評価に差ができてしまいますが、それくらいの価値はある試みだと思うのです。

 

 AIにはなく、人間だけにある強みというのであれば、作品に対する“真摯な姿勢”が挙げられます。

 何かに憤ったり、考え、結論出したり。そういったメッセージを作品にぶつける作者は少なくありません。

 絵画なら、ピカソの「ゲルニカ」。漫画なら、手塚治虫の「ブラックジャック」や「火の鳥シリーズ」。小説なら、夏目漱石の「こころ」、太宰治の「人間失格」、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」、京極夏彦の「妖怪シリーズ」。数え上げれば切りがない程、他にもまだまだまだたくさんあります。

 しかし、AIはもちろんそういった事をしない(と、今のところは)言われています。

 ならば、そういった作家性を中心にアピールする方法を何か考え出すべきではないでしょうか?

 近年の小説投稿サイトでは、そういったメッセージをぶつけた作品が少なく、そして、だからなのか、作家にファンがつくケースも少ないのだそうです。

 イラスト業界が、AI作品に対して抵抗できている理由の一つに、イラストレーターのネームバリューが重要である点を指摘している人がいました。そのイラストレーター独自の世界観があるからこそ、生き残っていけるというのですね。

 小説においても、これは同じなのではないでしょうか?

 何か根本的な方向転換が必要な気がします。

 

 最後に、「他の会社が小説自動執筆AI中心のサイトを売り出す前に、小説投稿サイトに小説自動執筆AIを取り込んでしまえ!」という案を出しておきます。

 「おい!」ってツッコミを入れられてしまいそうですが、正直、それが一番安全策のような気がします。

 もちろん、人間の作品と小説自動執筆AIの作品は、完全に別ランキングで分けられるようにして、人間側のランキングでは、先に述べたような人間ならではの強みを活かせるようにしておきます。そうすれば多様性が増して、より強い体制になると思うのです。

ま、日本の小説投稿サイトが衰退した方が、僕みたいなタイプの利用者にとっては都合が良いかもしれないのですがね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 疑問に思っているようですので答えます。 結論だけを言うなら単に早いからです。 勿論それに至るまでの経緯はありますが。 私は視野を広げるために意見が欲しくて使っています(前回も後半はその説明…
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