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卵達

 その開始宣言と共に、受験者たちは一斉に走り出した。


「ほら、ボーっとしてると他の奴らに手柄奪われるぜ?」

「なんだよ、何の説明もないのか?」

「リフトよ、戦場で『これからこういう技を使いますから~』なんて説明があるか?」


 そりゃごもっとも。なら、急がないとな。


「さ、行くよ! 魔物だってケッコー居るはずだからね。慌てず一匹一匹対処指定校!」

「はいっ!」


 三人もまた、早足で先へ進むが……はてさて、俺はどうしたものか。


 ここで合格しないと困る。魔大陸への道が遠くなるからな。だけど、ここで目立っても困る。勇者になりたい魔族なんて、バレてしまえばどこへ行っても居場所などないだろう。


「……ま、成り行きに任せるか」


 あの三人を見ていると……もしかしたら、俺の出る幕なんてないかもしれないしな。


「オレに任せとけ……稲妻の型・カムル!」


 シースの指先からバチッと青い稲妻が見えて、小型なドッグワグの首元を焦がす。


 ……待て、それが全力か?


「やべえ、ヤケドしちまった……この技、強えんだけど自分で怪我しちまうんだよな」

「治療なら任せてください! わたし、回復魔法だけは得意なんです!」


 待て待て。ツィツィもツィツィだ。お前は時空魔法さえ操る大魔道士のはずじゃなかったか?


 シースの大雷撃は魔王城から出なかった俺でも目にした事があるほど。ツィツィの多彩な魔法攻撃には多くの魔族が苦しめられたと聞いている。


 それが……たとえ十五年前だとしても……この程度なのか?


 ――おいおい、雷使いに癒やし手だ……あのパーティ、やべえぞ。


「はあっ! リフトさんリフトさん、これで十匹目ですよー?」


 ミファーだって、さすがに俺が短いながらも鍛えただけあって未来の実力の片鱗くらいは窺えるが……。


 ――無理、無理だ。あんなパーティがいたら合格なんてできねえよ!


「たるんどるっ!!」


 周囲のガヤも相まって、つい俺はキレてしまった。


 急な大声にびっくりしたような三人は俺の顔を見るが、心情を説明するまでもなく言うべきことは山ほどある。


「シース、その電力はなんだ? どうして指先から雷を出している。お前の本領は全身に魔力を纏わせての神速、そして天より落雷の大火力と聞い……そのはずだぞ!」

「お、おい……何だっつーの急に。そんなバケモノになれるわけねえじゃん」


 眉をひそめるシースは放っておいて、次はツィツィだ。こちらも怯えた表情をしているが、そんな有様でどうする。


「ツィツィもツィツィだ。君ならいかなる魔法でも扱えるはずだ。全てを極める事は不可能かもしれない。だが、全てに通ずる事はできる。そして、その引き出しの多さ……相手の弱点を突く様をして大魔道士と呼ばれるのだ!」

「だ、大魔道士なんて……わたしは、ヒールしか使えないって里を追い出されたんですよ? それがそんな……」


 言い終わる前に、俺は断言した。


「そうなれる。俺がこの命をかけて保証してやる。だから、もう少しやる気を出せ。この程度で驚くような有象無象相手なぞ……そんなぬるま湯に浸かっていては、本物の勇者なんか夢のまた夢だぞ!」


 と、周囲みんながぽかーんとしている事に気付き、俺はようやくはっとした。


 何を俺は取り乱してるんだ……試験の邪魔までして。こいつらは所詮、魔大陸へ行くための人数合わせでしかなかったはずなのに。


 だけど、なあ。


「あまりにもったいないじゃないか……人間はいくらでも成長する。それの才能を捨てるなんて、あんまりにあんまりじゃないか……? 生まれてきたからには、何者かになりたいと、そう思うものなのではないか?」


 その言葉が、どんな心から出てきたものなのかは分からない。だけど、本音だった。魔族と違う特性を持つ人類という存在。それがこの有様では、失望するのも当然だ。


 そこで、静寂を破る声が一つ。


「リフトさんの言うとーり! 私だって全然だけど、これでも――」

「ミファーもミファーだ。君は、俺に褒められるために勇者になるのか? 違うだろう、なすべき事を成せ。さあ、試験再開だ。どうせ、ここで合格しなきゃ始まらないらしいからな」


 と、今度は俺が先頭に立って動く。その後ろを真っ先に付いてきたのは、意外にもシースだった。


「オレ……オレだって、このままでいいなんて思ってねえからな! だから、勇者になるんだ。薄汚えこの血が通ってても、面白え人生送れるんだぜって、証明してやるためにな。見てろよリフト。お前が今日言ったセリフ、忘れねえからな!」


 そして、次にツィツィが追従する。


「知識なんて、どこからでもつけられますもんね……わたし、勘違いしていました。一芸だけあれば、何かの役には立つだろうってだけで、そこで思考停止してて……。だめですね、一芸を身につけたなら、もっと先を目指さないと!」


 ふんす、と両手を握る碧眼に、もう迷いはないようだった。


 まあ、俺はそれぞれの事情なんか知らないけど……奮起してくれたなら何よりだ。


 そして……ミファーは。


「私は……たった一つ。魔王さえ倒せればそれでいい。他のことになんて目を向けてる暇はない。そーだよね。リフトさんは、いつだってそばで見ててくれるんだもん。いちいちアピールしなくていいよね?」


 まあ、納得してくれたならいいか。


 閑話休題、分かったことがある。この試験に放り込まれた魔物は至極弱い。魔大陸じゃ生まれた瞬間人間界へ飛ばされるか死ぬかのレベルだ。


 なら、とりあえずここで誰かが死ぬという心配はないだろうけど……。


 と思ったその瞬間、いきなり大音量で笛の音が鳴った。


「――っ!」


 そして、とっさに俺は走り出していた。この感覚は……もうしばらく懐かしい、この圧は……。


「ど、どしたのリフトさん!?」

「魔族だ」


 そこに、シースとツィツィも追いついてくる。


「これは、警告音……どうしたっつーんだよ!?」

「何か試験に不備が?」

「そんなのじゃない。まさに緊急事態だ。魔族が、現れた――!」


 その先には、フリフリでモノクロな服を着た二本角の小柄な少女、見知った顔だ……『被虐』の魔族がいた。


「勇者なんてどーでもいーですけどー? 魔王様の命令ですものね。仕方ありませんわ。勇者の卵さん達を、孵化させるのを待ってる道理はありませんもの。では、死んでくださいましー?」


 周囲に展開される黒い渦。そこからは数十匹の魔大陸の魔物……先ほどのドッグブルの五百倍強いと言えば分かるだろうか……そんな奴らが、召喚されていた。


 そりゃそうだ。俺だって自分達を殺しにくる奴が生まれてきましたって聞けば赤ん坊のうちに殺しに行く。


 だが、今ここで勇者を失うわけには――!


「……皆、目ぇ閉じてろ」

「リフトさん!?」


 地面を強く蹴り、その発生口に移動した俺は……手始めに二十は手刀で貫いて『被虐』の魔族の前に立った。


「悪いけど、相手は俺だけだ。若い芽を摘むんじゃねえよ」

「……ふぅん。地味なお坊ちゃまが、ねえ。せいぜい、楽しませてくださいまし?」


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 よければ、評価やブックマークでの応援をしていってもらえると、大変励みになります。

 それでは、また次話にて。

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