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存在しない魔力

「それでは、これより輝かしき勇者への第一歩を踏み出せる者を選抜する! 勇者希望者は多い。そして、人類はこれ以上犠牲者を出すわけにはいかない。よって、ハイプライドは少数精鋭であることを理解してほしい」


 それがいつもの前口上なのだろう。試験官の男はよく通る声でそう述べた。


「試験形式は単純明快。こちらで飼っている魔物を一匹でも多く討伐したパーティを選抜する! 合格者の数は未定だ。場合によってはゼロだってあり得る」


 それを聞いて、周囲の熱が上がるのを感じた。合格者ゼロ……まあ、考えられない話じゃないな。


「お、驚かないんだね。リフトさん」

「この組織の形態を考えれば分かる話だ。劣った集団の中の一番を無理矢理出陣させることもないだろ」

「そっかー……ううん、そうだよね。そんな事言わせない結果を出せばいいんだもんね!」


 もうミファーの落ち込みは一瞬で終わる。なんだかんだ言って自信はあったりなかったりするのだろう。


「では、四人一組になってもらおう。パーティメンバーは各々に任せる。実戦では即席のパーティになる事もあるのだ。今から慣れておいてもらおう」


 げっ。四人かよ……俺とミファーだけならある程度連携も取れて、俺が魔族である事も隠しながらいけると思ったんだけどな。


「なああんた。リフト……つったか? オレと組まねえか? お前とライバルってのも面白そうだったけど、みーんなとっくに四人決めてやがんの。つまんねー奴らだぜ」

「ああ、シーズ。そうだな……見知った奴の方がまだ良いか。一緒にやろうか」


 そうなると、あと一人だけど……。


「あの、すみません。一枠余ってるなら、私も入れてはもらえないでしょうか……? わたしはツィツィ。一応魔法は扱えます」


 そう爽やかな風を感じられる声で話しかけてきたのは、褐色肌に銀髪を伸ばした……民族的、とでもいうのだろうか、そんな服装をした少女だった。


「なんだよ、あんたもあぶれもん? オレと一緒だな」

「はい、四人組を作るなんて聞いてませんで……このままじゃ、里の恥となってしまいます」


 その翠色の瞳を見て、ふと思い出した事があった。


「もしかして、君はダークエルフかい?」

「っ……はい。やっぱり、変ですよね。エルフが勇者にだなんて……」

「いや、そんな事はないんじゃないか? 勇者になる気持ちがあるなら誰だっていいんだそうだぞ」


 そうだ、そうだ! この三人が並んでようやく思い出した!


 この三人……かつて俺が相対していた勇者パーティだ! もう一人居たような気がするが、シース・ミファー・ツィツィ。この三人は間違いない。


 最終戦に来たのがミファーだけだったから印象も薄かったが……っていうか、ならシースとツィツィはどうなったんだっけ……?


 そうだ、死ぬんだ。他の四天王との決戦で一人、また一人と死んでいくのだった。


 そして……最後に残った俺が、ミファーを殺した。


 俺は、なんて連中とパーティを組もうとしているんだ……?


「リフトさん、いいですかー? 私、ツィツィちゃん可愛いからおっけーなんだけど」

「俺に聞くなよ……ミファーが決めればいいさ」

「じゃ、おっけー!」


 軽いなぁ、改めて思うが、ミファーって普段はこんな感じだったんだなあ。


 と、そこでシースが先導した。


「じゃ、魔力測定に行こうぜ。パーティのトータル魔力で点数が決まるんだと。くだんねーけど、もらえるもんはもらってこうぜ」

「へえ……やっぱり魔力がある方が強いのか?」

「ははっ、そりゃそうだろ。魔力ってのは全ての力の根源だ。魔力がでけえ奴ほど強くなれるってよく言われるぜ」


 そして、魔力を測るらしい水晶玉の前に俺たちは立った。シースはそれに手をかざし、そっと魔力を放つ。


 すると、青白い稲妻のような炎が水晶玉の中に宿った。それを見た試験官は、ほう、と息を漏らす。


「鋭くも美しい……良い魔力だな。よし、次だ」

「どーも」


 そして、次はツィツィの番だ。


 今度は……水晶玉一杯に翠色が溢れて……溢れ?


「そ、そこまでっ! これ以上は水晶が壊れる! お前の魔力はよく分かった!」

「ご、ごめんなさい……できるだけ優しくしたんですけど」


 ツィツィはそう言うが、試験官や他の皆の様子を見るに尋常じゃないみたいだけど。


 ちなみに俺は魔力というものを感じ取れない。それはきっと、無意識に魔力そのものを『反射』しているせいだろう。


「お前はもしかして……エルフか?」

「はい。入隊は難しいですか?」

「いや、戦力になるなら拒まん。だが、珍しいと思っただけだ。エルフなんぞ森に引きこもっているものだとばかり思っていたからな」


 そして、次はミファーだ。ここだ、ここに俺は期待をしている。ミファーの持つ魔力……それはきっと――。


「むっ!? つ、剣の紋章!? まさか、まさか……伝説の勇者と同じ魔力を持っているのか!?」

「えっ! もしかして、あの勇者様の……!?」


 やはり、持って生まれたものが違うのか。悲しい話だけど、魔王城にまで到達するという事は努力だけじゃ成し遂げられないからな。


 だが、天才にも努力が必要だ。それはこれから積んでいけばいい。


(もうこいつら三人は合格でいいんじゃないのか……?)


 そんな試験官の呟きが風にながれて聞こえてきた気がする。


「い、いくら素質があろうと、実力がなければ合格はできん。気を緩めるなよ。では、次はそこの地味なお前だ」

「これでいいのか?」


 俺は水晶玉の前に手をかざして……って待て。この魔力測定で俺が魔族である事がバレてしまうんじゃないのか?


 負の魔力……魔族が持つ特徴の一つだ。だが、もう時は遅い。水晶玉の中は――


「……何も、変わらない?」


 そんな、ミファーの呟き。


「うむ……これは、お前には魔力が一切ないということだな。一応うちでテイムしてある魔物は殺しまではせんが……怪我をする事になるぞ。今のうちに引いておいた方がいいのではないか?」

「ま、やるだけやってみるよ。別にお断りってわけじゃないんだろ?」

「ふんっ、せいぜい、将来有望人が勢揃いなパーティメンバーの足を引っ張らんようにな」


 よくよく考えれば……それもそのはず、俺は全てを『反射』するが故に魔力を発する事ができないのだ。だから、この水晶玉では俺を判別できない。


「はははっ、魔力ゼロなのかよ。リフト、あんたやっぱ面白えな。それであの強さかよ!」

「そ、そうだよ! リフトさんは実力は人一倍あるんだから、魔力なんかカンケーないって!」


 そんな俺の心中も知らずに慰めたり笑ったりしてくれる。本当に勇者パーティってのは良い奴らばっかりだったんだな。


「魔力がない……? それなら、なぜあの時――」


 と、ツィツィが何かをつぶやいたところで、号令がかかった。


「では、これよりハイプライド選抜試験を始める!」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 よければ、評価やブックマークでの応援をしていってもらえると、大変励みになります。

 それでは、また次話にて。

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