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受験前の騒動

 ハイプライド、そこは思っていたより……巨大な建物が並んでいた。


 一つ一つが歴史のありそうな木造や煉瓦作りの建築物で、人間の技術というものに驚いた。ただ丈夫なだけじゃない……もっと何かが込められている気がする。


 魔大陸じゃ魔王城くらいしかまともな建物はなかったからな……他は旧文明の遺跡を使っていたくらいのものだ。


「リフトさん、こっちこっちー」

「あ、ああ。そうだった、試験があるんだったな」


 ミファーに導かれるままについていくと、そこには長蛇の列が並ぶ先に、受付所のような看板があった。


 こいつら、みんな勇者志願者なのか……どれだけ魔王倒したいんだ。戦闘狂か? いや、そんな勇者なんていないんだっけか……。


「なら、どうしてこいつらは勇者になりたいんだ? 魔大陸に行く気がないなら試験なんか受けても意味ねえんじゃねえの?」

「ちょっ、リフトさん声でかいっ……!」


 と、ミファーに制される前に俺の前に並んでいた漢が不機嫌そうな顔をして振り向き、俺を睨めつけた。


「兄ちゃん、分かってねえな。どこの田舎者だぁ? ここじゃ勇者ってだけで様々な恩恵があるんだよ。飯も酒も飲み食いし放題、宿屋だってほんの数ゴールドで泊まれちまう」

「……? そんな事のために、勇者になるのか? 魔王はどうする?」


 瞬間、場が静止した。


 ――く、くっくっく


「ぎゃははははは! 魔王、魔王だって!? あんな、本気でそんな事言ってんのかよ!」

「夢見がちな小僧が来やがったもんだ……数百年、誰も倒せなかった魔王に挑むなんざ、自殺志願者かよ!」


 そして、爆笑の嵐。その声に、ミファーは顔を赤くして俯こうとした――ところを、俺が止めた。


「下を見るな。よぅく分かった。この中で最も勇者に近いのはミファーだ」

「リフトさん……でも……」

「誓ったんだろう、魔王を殺すと。なら、貫け」


 ああ、ああ。人間達がどうして負けているのか分かった。


「こんな腑抜け達が勇者育成機関にいるとなれば、そりゃ人類は負けるだろうよ」

「んだと、このガキ! ケンカ売ってんのかぁ!」


 そう言って、漢は腰に下げている剣を抜いて俺に振りかざしてきた。


 だが、それは俺に届いた瞬間、パキンと折れてしまう。


「なっ……!」

「剣を抜いたのは正解だ。殴りかかってこられたら、手加減できなかった」


 もとより、この『反射』に加減もクソもないのだが。


「お前こそ帰ったらどうだ? 夢見がちなガキにも勝てないんじゃ、合格なんてできないぞ」

「ぐっ、この……! 覚えとけよ!」


 男は顔を真っ赤にして逃げ出していく。もうその瞬間には、俺は男の顔を忘れてしまっていた。


「……ふーん。殺さずにいたんだ?」


 その時、後ろから柔らかい男の声が聞こえた。まだ若い……二十もいっていないだろう声質だ。


「あんた、あの男を殺す気だったろ? 一瞬魔物みたいな殺気出してたぜ?」

「……君は?」

「おっと、挨拶が遅れたな」


 振り返ればそこには、くせっ毛の黒髪をほどよく伸ばした少年の姿があった。まず目につくのはその整った顔だ。背は低いが、顔だけで食っていけるんじゃないかと錯覚するほど。


「オレはシース。シース・オグラヒト。家名の方は気にしないでくれよな。同じ勇者希望者同士……仲良くやろうぜ」

「シースか。よろしくなっ――と」


 そこで、俺はミファーにそっと耳打ちされた。


「オグラヒトって……ある王国で一番有名な暗殺者の名ですよ! そんな人と付き合ってたら……」

「はー、あんたも家でヒトを決めるタイプかい? オレはオレ。ただの勇者希望者だっつってんだろ」

「あっ、ごめん……」


 うーん、いい地獄耳だな。しかし、暗殺者の一家か。魔王軍の元四天王とどちらが迫力あるだろうか。まあ、どうでもいいが。


 そしてシースは、ニカッと笑いミファーに握手を求めた。


「あんたもあんただぜ。本気で魔王を殺しにいくつもりなんだろ? オレもそうさ。夢は馬鹿げてるほど良い。オレなら成し遂げちまうけどな」

「あなたも……だよね、そうだよね! やっぱり、勇者は魔王に挑むものだよね!」


 ミファーは元気が出たように声を張る。だが、それを笑う者はもう居なかった。しかし、シースの言葉でミファーが元気づけられるのもなんだか――


「庇ってくれてありがと、リフトさん。危うく、勇者としての誇りもなくしちゃうところだったよー」


 しかし、今日一番の笑みを俺に見せてくれただけで、よしとしよう。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 よければ、評価やブックマークでの応援をしていってもらえると、大変励みになります。

 それでは、また次話にて。

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