最終話 更なる高みに
新年を十日後に控えた王国。
寒い季節とはいえ上を見上げれば青空で太陽の恵みの暖かさを感じる。寒い季節だからこそ晴れ間の有り難みをひしひしと感じる。
賢者一家は早朝から王の使いと共に王城まで歩いた。賢者の家から王城までの道には正装した兵士が等間隔で立つ。交差点にも正装した兵士が立つ。そして普段は開かない城正面の大門が端まで開けきられ、賢者一家を出迎える。
荘厳な王城の三階にある第一軍令室。
そこに国王と将軍。
御前にはミック、賢者、アマティ、賢者夫人、魔猫二匹。
賢者一家、いやミックは新たな依頼を受けるべく、王城に来ている。
ギルドではなく王城で依頼を受ける為だ。
今回の依頼はギルドで扱えるレベルのものではないので、王国として対応することに。
ミックとアマティは初めて王城に入るが、賢者夫妻は慣れたものである。
既に前触れで依頼内容は賢者の邸宅に届けられている。今行われているのはただの式典。
軍司が文書を運び、王が読み上げる。
【依頼】
グランドマザーオーク討伐
【期限】
無期限
【費用】
王国負担(参謀兼会計士派遣)
【報酬】
金、ナイトの称号、王族特権の一部付与
グランドマザーオークは幻のオークとも言われ、所在も活動も明らかではなかった。
とても強く、不死身。下僕オークを沢山従えているとも噂される。
歳を取らないのか延々と子オークを産み続ける。まるで嬢王蜂のごとし。
今までも強き者がグランドマザーオーク討伐に向かったが、誰も成し遂げては居ない。
探し当てる前に寿命を迎えた戦士もいた。
探し当てたが帰らぬ者になった者もいた。
当然、今回もいつまでかかるか分からない。地道な道のりだ。
成せるのか成せないのかもわからない。
だが、王国からは補助金が出続ける。
一生探し当てられなくても出続ける。
そして、依頼達成後も出続ける。
言い方を変えれば、ミックは王国の専属戦士になったということでもある。
実は、ミックがオークオールカラーフルコンプリートしても、グランドマザーオーク討伐を正式に依頼するかは躊躇された。
だが。
「今、わいは最高に機嫌いいんや。まかしとき!」
と、魔剣が言い切ったのだ。
それも事前会議の席で皆の前でである。
画して、戦士ミックは依頼を受けることになった。
それは10年ぶりの王国戦士の誕生を意味する。
先代はアマティの祖父である。
最期は高齢のため肺炎で亡くなった。
魔剣にとっては仲の良かったアマティの祖父の無念を晴らすチャンスである。
そして物語は続く。
半年後。
ギルドの受付。
「くそ!なんとかしろよ!」
「駄目です」
ギルド嬢に文句を垂れているのはピエール。
高額な依頼は止められ、下っ端冒険者しかできない様な依頼ばかり出される。
最近、ピエールパーティーの成績は酷い。
ギルド嬢はいくらギルマスの子供が相手と言えど実績の低い相手に高額依頼は危険すぎて出せない。
そしてギルマスはピエールにこっそり渡していた小遣いを止めた。
いい歳なのに脛齧りでは成長しない。心を鬼にして仕送りを止めた。
それは正式な子供でも隠し子でも同じ。
『出来る男』にピエールが成長したならば、ギルドの要職に採用しようかと考えていたが、今の姿では難しい。
ガン!
ピエールはカウンターの板を憎いとばかりに蹴って外に出て行った。
そして戻るのはマックスの家。
マックスはバイトに出掛けている。
今居るのはクレアだけ。
「戻ったぞ、酒!」
「お帰りなさい。お酒なんかないわよ!」
「うるせえ!買ってこい!」
「お金が無いって言ってるの!」
「ちくしょう!」
そう言うとピエールはクレアをテーブルに押し付けて服をめくる。
本気で嫌がるクレアに下半身で怒りを晴らすのはもはや日常。クレアが良い女だと言っても飽きている。だからと言って文無しのピエールの相手をする女は町には居ない。
テーブル上で抵抗するクレア相手に力の差を思い知らせ、鬱憤ばらしをするピエール。そんなことをしていても生活は楽にならないのに。
砂利の採掘場。
ここはマックスのバイト先。
採石して泥を水で洗い流し、石だけを残す。そして運ぶ。
今のピエールパーティーの収入はこれに頼っている。
夕方。
帰路につくマックス。
疲れたマックスに立ちはだかる1人の男。かつての仲間。今は王国の専属騎士。
「ミック・・・・」
「話がある」
夕焼けの中、道端に座る2人。
当たり障りのない社交儀礼の後、ミックから切り出した。
「マックス、クレアを愛してるのか?」
「もう分からない・・・今は実質ピエールの女だ」
「そうか」
「クレアをゲットした時は幸せだと思ったんだが、なんでこうなったんだかな・・・」
「別れた方がいい」
「でも・・・」
「もう愛してないなら別れた方がいい」
「ミック、クレアとよりを戻すのか?」
「それはない。今の幸せを大事にしている。最愛の妻だ」
「じゃあ何故?」
「同情だよ」
「同情?」
「聞いてくれ。故郷の僕の家は広い果樹園をしていてそこそこ裕福だった。だけど、僕がクレアと付き合いだしてから農作物は不作が続き、家は貧乏になり、僕たちは活路を求めて王都に来て冒険者になった」
「そうか」
そう、そこでソロだったマックスと出会い、パーティーを組んだ。そこからはマックスも知る事。
「マックス、覚えているかい?かつてパーティーの中で僕だけ貧乏だったのを」
「あの時はすまなかった。俺が渡すものを渡さなかったから」
「それはそうだが、それだけじゃない。今の自分はどうだい?金欠だろう」
「ああ」
「その原因がクレアだとしたら?」
「どういう・・・まさか?」
「そう、そのまさかなんだ。クレアは貧乏神なんだよ。本人は気付いていない。僕はクレアと別れた途端幸せになれた。別れてたった数分で妻と出会い結婚した。そして幸せを手に入れた。それにね、僕の実家も今はV字回復している」
「まさかそんな・・・・」
だが、思い当たる事が多すぎる。
今の自分の現状。
クレアを寝とるまでは絶好調だったが、完全にクレアをものにして邪魔なミックを追い出した頃から不幸の一途だ。剣の腕まで何故か落ちた。
そして自分からクレアを強奪したピエール。
彼はギルマスの隠し子で金回りが良く、ギルドに顔が効いたが、今やそれもない。最近の口癖は金、金、金ばかり。
お陰でクレアはピエールにストレスのはけ口のような性行為をされているが、それは黙っていることにした。かつての恋人に言える内容じゃない。
「魔剣に教えてもらったんだ、クレアは貧乏神だ。しかも自覚はない。これからもずっとだよ」
その魔剣は今は沈黙して居る。口は出さない。
「それはクレアに言わないと!」
「無駄だよ、直す方法はないんだ。それにね、クレアは平穏が嫌いなんだ。天に登る様な幸せと、痺れる様な快感と、ゾクゾクする様な背徳感、これでもかというドン底の繰り返しを本能で楽しんでいるんだ。男はそれに付き合わされてるだけだよ」
マックスは思った。
聞いた事がある。
痛みをわざわざ愉しむ者が居ると。クレアはその一種かもしれない。
「そんなこと・・・・でも、あり得る・・・でもそれをどうして俺に?ミックは俺を恨んでいないのか?」
ミックは、恨んだ表情はなく、懐かしむ様な顔をする。
「僕にとってクレアはもう過去だ。それにね、マックスが追放してくれたからこそ今の幸せがあるんだ。恨んでたのはあの日だけ。今は感謝すらしているよ」
「ミック・・・」
「だから、これを教えるのは君にだけ。助言するのも君にだけ。僕にとってピエールの事はどうでもいい。今後クレアと会う気も無い」
「ミック、いいのか?それで」
「ああ。それとこれは秘密にしよう。町の人にもクレアにも」
「どうして?」
「クレアは止めようがないし、人は不幸を味わうからこそ幸せに感動するんだ。あ、内緒だけど王国はクレアをマークしてるから」
そしてマックスは暫く黙り込んだ。
クレアと縁を切る事が最良だ。今はクレアは二股をしている状態だ。そしてクレアに繋がる男二人はどちらも不幸。クレアと縁を切ることが最善だ。
だが、人は不幸になる程そこに留まろうとする。
だが、断ち切る時が来たのかもしれない。
もう暗くなった。
そろそろ冷えて来た。
「マックス、お別れだ。先のことは自分で決めてくれ。それとクレアに同情は要らないよ、あれはあれで楽しんでいるんだ」
かつての幼馴染婚約者に向けた言葉とは思えない。
ミックにも未練が無いとは言いきれない。同郷の幼馴染だから。しかし違う価値観を持った、そう、違う世界の人間ともいえる。
「ミック、謝りたい。色々すまなかった。君には酷いことばかりした」
「もう、過去だよ」
「マックス」
「なんだ」
「元気でな」
「ミックも」
そうして静かにミックは立って歩いて去って行った。
一度も振り返らずに。
翌朝、マックスはパーティー抜けをし、旅に出た。
ピエールが止めようにも、彼に後ろ盾はもう無かった。
5年後、グランドマザーオーク討伐のニュースが王都を駆け巡った。
英雄の名はミック。
賢者の婿であり、魔剣使いで、二児の父である。
妻アマティは3人目の宿るお腹を慈しむ。
そして今もあの家でピエールとクレアは暮らして居るらしい。いつまで続くだろうか。
怒鳴り合いと悲鳴の絶えない家には誰も近寄らない。
ー おしまい ー
思い付きのネタ「貧乏神」を書きました。
ぐだぐだ書いてるとエタるので、サクッと完結させました。




