8 益獣
目が覚める。
ダンジョンでも体感2〜3日に一回は寝てたが、ここまで気持ちよく睡眠欲を満たせたのは初めてだ。雪洞とはいえ風が遮断できるしあったかい。
雪洞から外に出る。昨日の夜雪は特に降らなかったらしい。ってか、俺昨日昼過ぎくらいに寝て、それで朝まで寝てたのか。
この世界の1日の長さが地球と同じかはわからないけど大体12時間以上は寝てたのか、すごいな。
そういえば…
雪洞を作った場所目印を立てないと場所見失うな。
【ルーン魔法】を駆使して木の枝を切り落とし、それを上部に刺す。これだけじゃ足りないだろうし、もっと目立つもののアイデアが出るまで探索はある程度一直線に動いた方がいいな。
てことで、【ルーン魔法】の氷を地面に刺し、倒れた方向に向かって跳躍で移動していく。
森は一般的な針葉樹っぽいな。まあ見た目針葉樹っぽいだけで確認はできないけど。
こういうのだと【鑑定】みたいなスキルが貰えるようなもんだと思ってたんだが、俺の場合そう簡単にはいかないらしい。
世界はこうも厳しくある必要があっただろうか。
うーん、食料が見つかりそうにない。
最悪ダンジョンに戻って食料に魔物を狩るってのも手段としてはありだな。
ちなみにダンジョンから出るために使ったあの魔道具は箱の中で俺と一緒に移動してる。
現状箱には中身以外に勇者の剣、戦士の斧、聖女のステッキ、それといつもお世話になってる魔術師のルーン3つ(火、雷、氷)、そして浮遊の魔道具が入っている。
結構ごちゃごちゃしてて。移動のたびにガシャンガシャン鳴る。
剣は鞘に、斧は呼び方知らないけど革製のケースに入ってるからいいが、ステッキはそのままのせいでたまに口内にツンツンして痛い。
ふと、視界端で何かの動きと光の反射が見えた。
即座に【超音波】を発する。
ダンジョンのような閉空間じゃないからか完全な形は分かりずらいが、何か小動物のようなもののようだ。
そして、それを追いかける多数の人間。
これは…なんだ?
再度【超音波】を放つ。小動物の方が少しこちらに近づいてる。まずいな…いや小動物は問題ないが今の超音波で人間達が武器を持ってるのが確認できた。冒険者か?
それも4人いる。正直相手にしたくないが…
【超音波】
《スキル【超音波】がLv:2になりました》
小動物がさらに近づいており、肉眼で確認できた。
兎と子犬の中間のような姿で、額に紅く煌めくルビーが付いている。
カーバンクルか!!
となると、わかってきたぞ。
恐らく希少価値の高くて稀なカーバンクルを何かの依頼で冒険者達が追いかけてる、と考えれば納得はいく。
どうしよう、とても見なかったことにしたい。
カーバンクルは焦った様子だが、あたりを見渡し、こっちと目が合う。
1秒ほど全く動かず、こちらをじっと見るカーバンクル。
不意にこっちに向かって一直線に走ってくる。おいおいどうした!?なんで俺なんだ!?
「ピィ、ピィー!!」
甲高い鳴き声で俺に何かを訴えている。
不思議と、俺に助けを求めてるように見えた。
こんな聖なる力を司ってそうな獣が、なんでこんな邪気溢れてそうなミミックに?などと疑問は浮かぶが、そんなのは無視できる。
犬と猫の顔を足して二で割ったような小動物が上目遣いでうるうるとした目をこちらに向けてくる。
こいつ、かわいい!!
こんな可愛い生物見過ごせるか!しかもこの状況で俺しか助けられないなんて、それに助けを懇願してるんだ!見捨てるわけねえよな!
4人組を視界に捉えた。
「は?宝箱?」
「いや待て!ミミックだ!」
「なぜこんなところに…」
剣士2人、弓持ち、魔術師1人ずつのパーティだ。
重い武器を持ってる奴がいないのはいいが、弓が厄介だ。つい先日も弓に射られてからあれの威力を思い知った。
ゲームとかじゃ弓は低威力の武器にされがちだが、現実じゃかなりの脅威だ。
「ミミックに注意しながらも確実にカーバンクルは逃すな!」
「「了解!」」
弓持ちの指示と共に、剣士2人が俺を避け回り込むようにカーバンクルに向かう。
そうはさせるか!
近づきすぎる前に【デス】を発動し、左に行った高身長の青髪に向けて放つ。
「くっ!」
剣を振るうがそんなのは無駄!戦士を殺した時その髑髏は武器をすり抜け!…る…はず…
スパンッと、髑髏が割れ紫の煙を残して消える。
マジか、あの戦士が切れなかった【デス】をこんないとも簡単に迎撃するとは。あの勇者パーティ今更だが相当弱かったんじゃ…?
咄嗟に【ルーン魔法】の雷を放ち、青髪を麻痺させる。
「ぐぅっ…このミミック魔法まで…」
右の低身長茶髪の方は…既に剣を上段に構えてる、今からじゃ【ルーン魔法】が間に合わない!
一か八か、スキルを発動させる。
【聖閃光】!!
ピカッ、と周囲を照らした後、星状のオーラが周囲に拡散するが、オーラは誰にも影響はなかった。俺を除いて。
咄嗟に蓋を閉めなければ本当に危なかった。少し漏れたオーラに照射された部分が焼けるように痛い。邪悪な物にやはり俺はカウントされるらしい。
閃光によって目が眩んでいる茶髪剣士に【ルーン魔法】火を放つ。
「うがっ」
鈍重に呻き、体重を崩して雪の中に転ぶ。
カーバンクルのもとに駆け寄り、守るようにして冒険者に立ちはだかる。
「こいつ…魔法に加えて…今のスキルは、まさか」
「レゾネア、どうする?」
レゾネアと呼ばれた弓使いが矢筒から矢を抜く。
来るな、これだと避けられないぞ。
普段なら跳躍してある程度逸らすことができるが、今は後ろにカーバンクルがいる。正面から受けるしかないか…一緒に飛べればいいんだが…
と、思っていると。
カーバンクルが箱の縁に飛び乗る。
え、何してんの。
「ピィ!」
あ、まさか!
そう思うと箱の中に潜り込んできた。
矢が放たれる。
サッカーのPK戦のようにあてっずぽうで避け、賭けに勝つ。
こいつ、俺の考えを察したように動いたな。気が合うかも。カーバンクルって知能高そうだし。
弓使いと魔術師が聞こえない声で話している。先ほどよりも明らかに声が小さい。
青髪が立ち上がる。ここからどうするべきか…と思った矢先。
剣を構え、こちらに走ってくる。
次も【ルーン魔法】で…
「【ボルテックス】!」
剣が青い光を纏い、青髪が動きを加速させ急速に距離を詰めてきた。えっ、やば…
淡い光を放つ剣を振るい、俺の周りを3歩ステップを踏み高速で周回しながら斬りつけられる。
青髪はそのまま詰めてきた方向の逆に駆け抜け、ズザァッとブレーキをかけ、雪が空を舞う。
斬撃を受けた面が箱を貫通して肉まで切られ激しく出血する。
なんだ今の動き!?ありえない反射神経と身のこなしだったぞ?
あの【ボルテックス】ってのもスキルなのか?あんなものが存在するのか…
なんだろう、魔法の剣版みたいな感じか?厄介だな…
『HP:39/77』と、大分持ってかれ…ん?
『HP:45/77』
体力がじわじわと回復している。
箱の中でカーバンクルが何かを念じてる様子で額のルビーを光らせている。もしかして回復をしてくれてるのか!かわいい奴め。
振り向く青髪に【ルーン魔法】の氷を放つ。
咄嗟のことで対応しきれず、後ろに飛ぶも足に氷針が突き刺さる。
血を流しながらも構えの姿勢は維持している。
後ろからギュッと雪を踏む音が聞こえた、【デス】を発動させ、タイムラグの間に力を込めて前転跳躍をし、後ろにいた茶髪に向けて放つ。
そのまま着地先で青髪に体当たりをかます。
「うおぁっ」
青髪は体重が崩れそうになるがギリギリ持ちこたえて立つ。
「レゾネア!」
たしか弓使いの名前!
咄嗟に後ろに飛ぶ。前方を矢が掠める。
【ルーン魔法】の火を弓使いに向けて飛ばす。
隣にいた魔術師が咄嗟に水の魔法の発動させ、相殺される。
後ろの茶髪は…うつ伏せで雪に倒れていた、【デス】によって息絶えたようだ。
じゃあ青髪に集中。
【ルーン魔法】の火を放つ。
「こんなもの!」
剣で真っ二つに斬られた火の玉。その煙の中から突然飛び出し、青髪にタックルをかます。
唐突なことで体制を維持できず、そのまま地面に倒れる青髪。
大跳躍。
狙いを定めて、胸に向かってダイブ。
「ぐはぁっ」
血を吐き、苦しそうな声をあげる。
《レベルアップしました》
《ステータスが上昇しました》
《スキル【跳躍】を得ました》
《進化の条件を満たしました、任意のタイミングで可能です》
今ので殺せたらしい、そしてものすごく気になるアナウンスを受けたが、一旦後回しだ。
魔術師から火の玉が飛んでくる。それを横に飛んで避けると、体に矢が刺さった。弓使いが先読みして打ってきたんだろう。
てか、カーバンクル大丈夫か?
矢は半ばまで箱を貫通していたが、カーバンクルは反対側にいたので無事だった。
【ルーン魔法】の氷で反撃を行う。
「【アルカナ・ディフェンス】」
魔術師が半透明で、六角形のシールドを貼り、氷針が防がれる。
弓使いは魔術師に何かを言い、2人が撤退していった。
手に負えないと判断したのか定かではないが、危機は去った。
あぶねえ…MP残り6だった…
箱からカーバンクルがよじ登って出る。ああ、いっちゃうのか。と、思ったが。
カーバンクルは箱から出て、こっちを見ている。
俺が跳躍で移動すると、ついてきた。
お前…!一緒に来るのか?
カーバンクルは純粋な眼でこっちを見ている。
どれだけ移動しても、ついてくるようだ。
ミミックとカーバンクル。
属性的にかけ離れてる2匹の魔物だが、これはなんだか、素晴らしい友情の始まりな気がする。