5 兎たちの沈黙
あぁあ…心臓止まるかと思った…
急に引き出しを開けられた時心臓が飛び跳ねたわ。ドクドク速まってるのが聞こえるあたり、ミミックにもちゃんと心臓はあるんだな。
冒険者達が十分離れたのを確認してから、宝箱に戻る。この形が一番落ち着く、タンスの好きな引き出しを移動できるのは結構気持ち悪かった。ミミックは箱全体が体のようなもので口や目がある部分はコアみたいな扱いなのかもしれない。
いや、だがあの盗賊に斧で箱の蓋を叩っ斬られた時はダメージがなかった。背を切られた時中まで切られたと考えると、箱はヤドカリで言う外殻の貝なのかもしれない。だが、感覚的にこの箱は換えられるようなものではない。
どちらかといえばやはり中身は貝の本体が近いのかもしれない。
にしても、気になる発言を残していった。
進化。魔物は、するんだろう。
ダンジョンで見かける黒い一角うさぎの中にたまに一回り大きく、立派な角を持った個体がいる。突然変異にしては多すぎて、どうやって生まれるんだろうと思ったが、おそらく小さい個体が進化をしているんだろう。
進化する条件…レベルだろうか?
しかし、そうだとしたら大きい黒兎はもっと発生するんじゃないのか?やはり数匹に一匹と絞るよう何かしら別の条件がある気がする。
こればかりはあの黒兎じゃないとわかりようがない。
して。ミミック。
ハウスミミックなんてものがいるのだから、進化するんだろう。
だがいきなりハウスミミックにまでなるのは違う気がする、それこそ何か条件がつきそうだ。何かしらの条件を達成したミミック…?
よし、これも外に出てから調べることの一つに追加だ。
なれば、早く出口を見つけないと。
跳躍で、ダンジョン内を移動する。
ダンジョンの材質と色調に変化はなく、ずっと黒レンガ造りのたいまつで少しだけ照らされた道が続く。人間だったら鬱になりそうだ。
そう考えれば冒険者はすごいものだ、先のパーティの発言から察するにダンジョンに何日も潜ることがあるのだろう。
こんな薄暗いところにか…ゲームじゃずっとできるかもしれないが、こんな環境は精神にとって毒でしか無さそうだ。まぁ、ミミックだからか不快には感じないがな。
おっと、足音が聞こえる。
超音波を飛ばすと、黒兎の集団が見えた。
3匹か…
今後に向けてレベリングする…というのはどうなのだろうか。強くなっておくのは得だろうが、このダンジョンにて多大なリスクを背負う。
魔物たちはそれぞれを襲う。
だがミミックは襲われない。おそらく、いわゆる「ダンジョンギミック」に近いような存在として認識されているのだろう。
もしこちらから攻撃したとき、意識的な何かが途切れこちらを襲ってくるようになるかもしれない。
攻撃した奴らだけならまだいい、だが全体的に意識的な改変が起こり、全ての魔物が俺を襲うようになるかもしれない。
…いや、でもこのダンジョンを何もせずに彷徨うよりは、レベリングをついでにやっておいた方がいいと思う。今まで見てきた魔物のなかに明らかに勝てなさそうなやつはいなかったしな。
黒兎たちの近くに行くと、それらは疑問ありげにこちらを見ている。悪いな。
大きく口を開け、一匹バクっと行く。
他の二匹が驚いて飛び退いた。
さぁ戦うならスキルの検証もさせてもらおう!
【ルーン魔法】!
火のルーン魔法をイメージすると、前に火の玉が出現する。それを操り右側の兎へ飛ばす。
飛んで避けようとされるが兎の足を掠め、そのままうまく着地できずズザっと転ぶ。
おっともう一匹がこちらに角を使って突進してきたのを箱の隅にある金具部で受け止める。
こちらを攻撃するようになったようだ。ならば遠慮なく。
角を打ち付けフラフラしている兎をぺろっといただく。
《レベルアップしました》
《ステータスが上昇しました、スキル【牙強化】がLv3になりました》
そして、転んで立ち上がった兎の元に今度は【ルーン魔法】、雷!
電撃が空を走り兎に直撃する。
《スキル【ルーン魔法】がLv2になりました》
体から黒煙を出す兎に近づく。うん、息絶えているようだ。
戦闘は終わった、そしてこの【ルーン魔法】、かなり有用なスキルだな。
最初使おうとした時正直発動すらしないと思ってた。なぜならあの魔法使いは魔法の名前を言ってから発動していた、つまり発声ができなければ使えないと思っていたが…いや、あのラ=なんとかは【ルーン魔法】じゃないのか?しかし発動時にルーンは光ってたし…どう言うことなんだろうと思ったら、不意に答えが思い浮かんだ、【ルーン魔法】の《ルーンに関する知識増量》の部分の効果だろう。
ルーンにはルーン魔法という本来の使い道ではなく、対応した属性の魔法の威力を増幅させる機能があるらしい。なるほどな。
とりあえず、これから見かけた魔物は積極的に狩って経験値となってもらおう。今後に向けてレベリングしておいて損はなさそうだし。
にしてもいい加減、このダンジョンから出たいな…