3 魔王はいかに
ミミックとして生を得て2日が経った。
未だ俺は、ダンジョンから出れていない。
このダンジョンは異様に広い。勇者たちは何を思ってここに入ったんだ?明らかに冒険の序盤で挑むようなダンジョンじゃない。
ここで他の魔物を見かけたが、黒っぽいゴブリン、幽霊っぽいやつ、黒っぽい一角うさぎなどなど、闇っぽい魔物としか出会わない。
やはり冒険序盤に来るようなダンジョンじゃない。やはり攻略以外の特定の目的があったとしか思えない。
そんなことを考えながら、ダンジョンを移動する。
現在は箱内の体を思いっきり動かし、跳んで移動してる状態だ。人間感覚だと兎跳びが近い。
疲れそうだが、案外ミミックはこの移動が快適のようにできているようで、足で歩くのとあまり大差はない。
強いて言うなら走れないし、跳ぶたびにバタンバタンうるさく鳴ることくらいだ。
ミミックは外をあまり見えない分聴覚に優れている。
十字路に差し掛かる手前、右手側の通路からズシンズシンと地面を踏みしめながら歩く音が聞こえる。まあおそらくアレだろう。
体長3m弱の石造のゴーレム。このダンジョンを徘徊する魔物の一体だ。
魔物と言えるのかは少し疑問だが、昨日冒険者と交戦しているのを見かけたし、それなりに強かった。
それにダンジョン内の魔物を襲っているところも見たことがある。なんなら、他の魔物も別の魔物を襲う習性のあるやつはいるらしい。
幸いミミックは対象外だ。魔物として認識されたないのか、そもそもミミックは襲わないようできてるのか。魔物の中での暗黙の了解というか本能見たいのがあるのかもしれない。
そして、このゴーレムだ。
他の転生物じゃあ普通貰える「鑑定」みたいなスキルは持ってないので名前はわからない。仮名「ストーンゴーレム」と呼ぼう。
十字路で鉢合わせたストーンゴーレムの前を塞いでみる。
ゴーレムは動きを止めて、無表情で石造の顔でこちらを見つめている。足を上げた、俺を跨いで移動するってか?そうはさせん!
バカァっと口を開き、さらに妨害する。
ゴーレムは足を下ろし、無表情ながらも困ってそうな、と言うよりはプログラム的に困ってるような挙動だ。
ついには俺の外殻、箱部分を両手で持ち上げ、脇へ置いてから歩み出した。
どんなに邪魔してもやはり襲ってこない。こちらから攻撃したらどうなるのだろうか?という疑問も浮かぶが、反撃はされたくないので手は出さないでおく。
この世界でミミックはどう言う扱いなのだろう、ゲームなどでダンジョンの中にいる厄介なモンスターというしか印象しかなく、そもそもミミックがどう言う生物なのかとか描写されることは無い。
ミミックは「Mimic」という擬態の意味を持った名前なのはわかるが、なぜ宝箱と相場が決まっているんだろうか。たしかに他の物に化けるミミックも知ってはいるが、基本は宝箱だ。
単純に罠として潜む魔物として魔王のような人物が創り出したのだろうか。…そうだ、この世界に魔王はいるのか?勇者がいるのだから、魔王がいても不思議ではない。
絶対的な人類の敵であり、魔物たちの王。魔王の元へ辿り着ければ元の世界に帰れる手掛かりが得れるのではないか。
この世界で最強の存在の1つだろう。そんな人物ならば有用な情報が得れるのではないか。
…
まずは魔王が存在するのか確認しないと。そして、それをするためにはここから出ないと。
カツ…コツ…
方針が決まったところで、耳が足音に反応する。
軽い鉄のブーツ…おそらく冒険者だが、足跡は一つしか聞こえない。この世界の冒険者事情がどうなってるのかわからないが、ここに挑んで来る冒険者達はどれもパーティ単位だった。
単独は初めて見た。
よし、喰おう。
少しだけ悪い気はするが経験値に変わりはなし、俺は現人間ではない。ミミックになってから人に対してあまり道徳的な考え方はしなくなった。
ミミックがそういう物なのか、俺が狂ったからなのかはわからんが、貴重な経験値だ。
通路の隅で足音を聞きながらじっと待つ。
カツ…コツ…カツ…カッ
目の前で足が止まる。
さぁ、開けろ。
「…トリックディパーチャー」
魔法の名前か?なんでそんなとこで…
「ッ!…」
カツッ…カッコ…
後ろに急に飛びのいた!?
勘づかれたか!?
何かがパリンと割れる音が聞こえる。直後、周囲が焼灼し始める。
火で燃やすつもりか!?
前方へと跳躍し、火の海から逃れる。
蓋を開き、相手を観察する。軽装の…女盗賊?そんな感じだ。いかにも短剣を持ってそうな。
てことはさっきの魔法は罠感知魔法みたいな物なのか?なんてふざけた魔法だ!完全なミミック特攻じゃないか!
どうせ宝箱の中に赤い光でも見えたんだろう、よくも燃やしてくれやがって。HPが44/60になってる。
跳躍し、思い切り開いた顎で女盗賊を上半身から喰らおうとするがむしろ体制を低くされ、下をくぐり抜けられた。
地面にグシャァと落ちる。
「やぁあっ!」
バキッ
嫌な音と共に背に激痛が走る。
まさか!と思いなんとか体制を立てて、女盗賊の方を見ると、小さめの手斧を振り上げていた。そのまま振り下ろしてくる。
急いで蓋を閉める、バキィ!
ひぃい!箱の中から蓋に刺さった斧が目視できる!
だがチャンス!蓋を思い切り開き、刺さった斧を取り上げ後ろへと放る。
「あっ…ぁ…」
希望を失った女盗賊が虚しそうにこぼす。
ギィ
と蓋を戻し、女盗賊に向けてあんぐり口を開く。
「ひっ…」
青ざめた顔で絶望に打ちひしがれているところに上から覆い被さり、ばちゅっ、と捕食する。