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勇者殺しのミミック  作者: 練度
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Re:8 灯台天暗し

 ダンジョンの一室、東西南北4方向に通路へ続く大部屋。

南と西門に挟まれる角で俺は寝ていた。


 そこの角で寝ていると、ふと目が覚めた。


 足跡が聞こえる。

ミミックの本能に起こされたということだ。


 体の角度を少し整えて、宝箱のふりをしながら【超音波】を放つ。どうやら単独の冒険者らしい。


 パーティ単位なら今まで4組ほど冒険者を見てきた。

だが単独でいるのは今回が初めてだ。


 足音からして足取りがかなり乱れてるな。

冒険者が北門から姿を見せる。

その姿は痛々しいの一言だ、剣士らしい見た目の男は足を引きずって歩き、鉄製の胸当ては割れ、衣服は所々破れている。

顔には疲れと必死さが現れ、どこからか流す血が後ろに血跡を残し、身体中に止血の跡が残ってる。


 この冒険者には悪いが、俺にとっては格好の獲物だ。


 冒険者は俺を見つけると少し見つめた後、東門に向かって歩いて行った。

襲おうと【ファイアボルト】を準備した時、ふと頭に考えがよぎる。


 この冒険者、ダンジョンの出口を目指してるんじゃないか?


 この冒険者が来た北門の方には下層への階段があるし、迷いなく東門に向かって歩いて行った。

…つけてみる価値はありそうだ。




 冒険者が通路を歩く30mほど後ろからコソコソ付いていく。

俺が移動するときは結構音が出てしまうので、出来るだけ跳躍は低めに、そして距離を維持しながら【超音波】で見失わないようにする。


 我ながら結構バレない方法じゃないかと思う。

ただ、つけてる相手が俺みたいに【聴覚強化】とか持ってたら微妙かもしれない…


 とか思ったり、途中で冒険者が黒蜥蜴に襲われてギリギリで倒したり、なんやかんやあった後。


 冒険者はふと、壁に向かって手をついた。

壁に向かって四角い空間が突起になってる、構造上少し変な場所だ。

もしかしてもう体は限界なのか?

既に出血量はかなりのものだった、ここまで動けてたのむしろ奇跡だったのだろうか。


 なんて思っていたら、冒険者は何かを口にした。

「…白の帳よ、銀騎士の名の元にその神秘を明かせ」

ガコガコガコン、と重い音が鳴り響く。

なんと手をついていた壁の石レンガが変形し、壁に沿う形で四角い螺旋階段が姿を現した。


 その様子を見て俺は呆気に取られていた。


 ………


 いや!おいおいおいおい!流石にこれはないだろ!

あのままずっと一人でほっつき歩いてたら絶対見つけることなんてなかったぞこれ…

本当にどう見つけるんだって話だ、ミミックは喋ることすら困難なのに。


 ただ、あの冒険者は一番難しいハードルを超えてくれた。

その手柄を横取りだ。


 隠れていた角からバッと姿を現し、【デス】を発動する。

「ッ!?」

冒険者は驚きながらも剣を抜き、こちらに向かって素早く駆けてきた。

マジかこいつ、【デス】の誘導半径を見切って大胆な動きにでやがった。


 迎撃するように【ファイアボルト】を放つ。

冒険者は地面を蹴って炎弾を躱すと、再度俺に向かって走ってくる。


 最低限の動きで回避したかったようだが、万全じゃない体では一度避けて踏みとどまってからじゃないと走れてなかった。

ならばその隙と、誘導半径を突っ切る動きを利用させてもらおう。


 冒険者との距離は15mほど、怪我をしてるい現状でも2〜3秒あれば駆けてしまえる距離だ。


 やることは単純、まず【ファイアボルト】を少し右寄りに、続けて【デス】に少し角度をつけて左寄りに放つ。


 【ファイアボルト】を避ける方向を誘導し、そこに【デス】が襲いかかる。

炎弾を避けた後の冒険者は無理に頭蓋骨を避けようと前に飛び出してくる、そこに極め付け!


 喰らえ【聖閃光】!!


 口を閉じて回避しつつ、周囲に閃光が迸る。

「ぐあぁっ!?」

冒険者の苦しい声が聞こえた。

すぐに口を開ける。冒険者に飛びかかり上半身に食らいつく。

思い切り力を込め勢いを付けたが、予想外のことが起きた。


 噛みきれなかった。

牙は深く腹に突き刺さってるし、冒険者から噴き出る血で口内が埋められるくらいには重症ではあるが、体の芯がとても頑丈だ。


 下の牙は入れ込んだまま、口を開いて再度噛み砕く。

それを追加で2回行ってようやく体が折れた。

俺を振り落とそうと必死に動いていた足は事切れて膝から落ちる。


《レベルが10から13に上がりました》

《ステータスが上昇しました》

《スキル【デス:Lv1】がLv2になりました》

《スキル【ファイアボルト:Lv1】がLv2になりました》

《スキル【聖閃光:Lv1】がLv2になりました》


 危なかった…最初のスキル連打でMPはほぼ尽きてた。

これで決めなきゃいけないという攻撃で倒しきれなかった時の不安と焦りはすごかった。

正直こいつが万全の状態だったら勝てなかっただろう。

殺さないとこっちが殺される、この考えはミミックの奥深くに根付いてるし、やはりこれからも重要になる考え方だ。


 ただこの強敵を乗り切ったことで手に入れたものはとても大きい。


 俺は壁沿いに現れた階段を見上げる。

時間経過で戻るので有れば早く登らないと。




 待ってろよ外の世界、勇者殺しのミミックが今行くぞ。

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