Re:1 英雄たちよ、出ておいで
以前の文章が納得いってないのと、今後の展開をあまり考えずに書いていたこともあり、これから部分ごとの書き直しを投稿していきます。
現行の物語に追いついた時に以前の部分は削除します。
ステータスの表記から大幅な展開の違いもあると思います。
目を開ける。
瞼が持ち上がった感覚は確かにあったのに、周囲が闇に包まれたままだ。
それに、体のいたるところの感覚がおかしい。
四肢の感覚がなく、自分が立ってるのか座ってるのか倒れてるのかすらよくわからない。
座ってるのと、しゃがんでる?のとの間のような感じだ。
顎の感覚はすごいはっきりとしてる。
試しに動かそうと口を開いた。
一瞬、薄暗い外が見えたが、途端に体の重心が後ろへ移り重力に引っ張られバタンと倒れる。
な、なんだこれ、体の構造が意味不明なことになってやがる!?
口が馬鹿デカくなって、四肢が切り落とされてるのか?
状況が全く掴めない。
次に感覚が確かな舌を動かす。
舌は帯のようにしなやかに動き、口内に舐められる感覚がある。
明らかに人間のものとは思えない長さ…それに口内にもこれまた人間のものとは思えないほど長い牙がズラリと生えてた。
これを犬歯と言うには無理がある、吸血鬼でもここまでデカくは無いだろう。
さらに目は口の中にあるようで、口を開くと薄暗くも天井が見える。
俺は少し口を開いてから、勢いをつけて閉じる。
すると体を起こすことができ、立て直った時、バタン、と周囲に大きな音が鳴る。
不思議と、音がとても鮮明に聞こえた気がした。さらに一瞬遅れて周囲の環境の形が音の波形のような感覚で頭で認識できる。
な、なんだこれ、俺いつの間にこんな耳が良くなったんだ?
てかこれは何が起きてるんだ、体の構造が明らかに人間じゃない。俺の知ってる生物でもこんな生き物存在しない。
こんな、箱みたいな体で口内に目があって牙が鋭い生き物なんて…
なんて………
いたわ。
これ、ミミックじゃねぇか!!!
《ステータスを表示します》
ん、は?
なんだ、脳内に文字の情報が直接貼り出されるような感覚を受ける。
ステータス?何を言って…
ーーーー[ーーーーーーーーーー]ーーーー
種族:レッサーミミック
状態:通常
-[スタッツ]-
Lv:1/20
HP:35/35 MP:20/20
攻撃:38 敏捷:10 頑丈:21 魔力:18
-[スキル]-
〈基礎スキル〉
【牙強化:Lv1】【聴覚強化:Lv1】
〈特性スキル〉
【ステータス表示:Lv1】【シェイプシフター:Lv2】
〈通常スキル〉
【噛みつき:Lv3】【跳躍:Lv1】【吸収:Lv1】【エコーロケーション:Lv:3】
〈特技スキル〉
【デス:Lv1】
-[称号]-
【擬態者:Lv1】【ダンジョンの厄介者:Lv1】【Dランクモンスター:Lv--】
ーーーー[ーーーーーーーーーー]ーーーー
再び、脳内に文字情報が貼りされる感覚。
それにさっきより膨大な数の。
少し頭に痛みが走る。
な、なんだこれ…
まるでゲームのステータス画面のようだ。
れ、【レッサーミミック】…??
ちょっと待て、これが俺だとは言わないよな。
言わないでくれ。
認めたく無いがこれはもう、あれだろう。
「転生」ってやつをしたんだろう…
しかもモンスターになる系の。
いや、マジかよ…あの小説達って意外と実体験に基づくものだったり…?
いやいや、でもミミックってなんだよ。
有名なスライムのやつでももっと出だし好調だったぞ、ミミックなんてどうすりゃいんだよ、ふざけんなよ。
しかもそれだけじゃない。
さっきから前世の体験を一切思い出すことができない。
知識はある。それにこんな知識だから日本には住んでたんだろうが…名前も、どんな人生を歩んできたかも覚えてない。
なんなら年齢と性別も確信が持てない。
20代くらいの男だったとは推測できるが…断定はできない。
くそっ、なんでこんなことに…
俺はこれからミミックとして生きていくしかないのか?
いや、んな馬鹿なことあってたまるか。
絶対戻ってやる。
この世界に来たからには元の世界に戻る方法もどっかにある筈だ。
こんなクソみたいな予感しかしない人…ミミック生?なんかごめんだ。
…ただ、帰るって言ってもその方法なんて知るわけがない。
何かしらヒントを得るまではミミックとして生きるしかないだろう…
どう考えてもふざけてる。
ミミックと言っても何をすればいいんだ?
やっぱり普段は宝箱に擬態して、近づいてきた獲物…もとい箱を開けにくる冒険者をパクッと行けばいいのか。
ぶしゃり、と血がはねる。
え
俺はごく自然的な流れ、ミミックとしての本能だろうか。
箱を開けた人間の体に噛みつき、深く、深く牙を立てていた。
その人間に動きはない。
宝物を求めて伸ばしたであろう手が口内に触れる。
は、え、俺今。人間を…
体中にゾワッとした感覚が走る。
自分の行動に驚愕する。
が、不思議とショック自体はそこまで受けてない。
人を殺したという事実をそのまま受け止められてる。
なぜだ、ミミックになったから精神が人間からモンスターの物にでもなってるのだろうか。
「おいアルド、あまり先に…なっ!?」
咥えてる人間が邪魔でよく見えないが、音の方向と形からして奥から別の人間がきたのだろう。
かすかにその人間の後ろにも2人分、足跡が聞こえる。
咥えてた人間を吐き出して後続を確認する。
「これは…ミミックか?」
手に斧と盾を持っている鎧姿の褐色の大男。
その斧を見て嫌なことを連想する。
連想するまでもなかったが、俺はこれからこいつらにモンスターとして討伐されるだろう、当然の流れだ。
死にたくない。
こんなところで、死ねるはずがない。
こんな理不尽なことで殺されていい道理なんてあるものか。
死なないためにこいつらにを殺す。
本能が何をすればいいか教えてくれた。
俺は即座に念じる。
【デス】!
箱の真前に紫の炎を纏った赤子のものほどの大きさの髑髏が宙に現れる。
髑髏は大男をチラリと見やると、突如甲高い声で叫んでその男に向かって突進する。
「これはっ!」
男は斧を振るうが髑髏は既に男の懐に入り込んでいた。
髑髏はそのまま大男の鎧にトプっと沈む。
直後、男が身体中の穴から黒い煙を噴き出し、そのまま声もなく地に伏す。
「ジェノ!?」
さっき聞こえた足音の人物、声からして女性のようだ。
ちゃんと目にとらえるために口を開いて周囲を見る。
周囲に石レンガ作りの通路が続く。
おそらくここはダンジョンだろう。
右方向から女性、いや少女とも言える外見の二人が見えた。
片方は…戦闘用なのか疑問に持てる、ほぼドレスのような服を着ている。
もう片方は、見るからに魔術師、っていう格好だ。
俺はもう一度【デス】を唱える。
あの髑髏が現れ、二人の方に飛んでいく。
だがドレスの少女に髑髏が到達する寸前、バチッ、といった音と共に弾かれる。
なんだ今の!?
一瞬起きたことが理解できなかったが、記憶はないが知識として残るゲーム経験からピンとくる。
【デス】はいわゆる「即死魔法」だろう。
RPGじゃパッとしない系の魔法で同格のモンスターにはあまり効かず、基本雑魚狩りでしか使えない。
だがさっきの大男には効いた、ということを考えるとおそらく、あのドレス少女が何らかの方法で無効化したのだろう。
「即死効果無効」の効果を持つアイテムなどもRPGではよくあるものだった。
まだミミック、魔法、ダンジョン、冒険者くらいしか推測できないが、ここがゲームのようなファンタジー世界なら十分あり得ることだと思う。
あの装備つけるやつなんかいるのかとか思ってたけど、こんな形で俺に牙を剥いてくるとは。
だが魔法が弾かれるのなら近接で戦うしか無い。
その少女に近づこうと思うと、自然と体が跳ねた。
兎飛びの要領で距離を詰める。
「いやっ…【聖閃光】!」
何かくる!
本能的に箱の蓋を閉じる…つまり口を閉じた。
閉じ切る寸前に隙間から強力な閃光が見えた。
隙間から漏れて俺の生身の体に光が当たり、焼けるような痛みが走る。
痛ってえ…あんなの全身で浴びた時の痛みは尋常じゃ無いだろう。
口を開き、ドレスの少女の姿を捉える。
目が合うと彼女は顔に恐怖を浮かべる。
怖気付いてるところに体当たりをかます。
「セスティア様から離れろ!【ファイアボルト】!」
後ろにいた魔術師が杖を掲げスキル名を口にする。
杖先が光を放ち、そこから炎が現れて俺に射出された。
口を閉じてガードするが箱の外から焼けるような熱さが伝わってくる。
感覚じゃ無い、物理的な熱さだ。
これ宝箱燃えないだろうな…
再度口を開く。
そして大きく跳躍し、そのままドレスの少女の上に飛び乗る。
「がはッ!」
なんとかこいつらを殺さないといけない、その思考に囚われる。
再度跳躍し、ドレスの少女を踏みつける。
何度も。何度も。
その度に少女は苦しそうに呻く。
早く、早く死んでくれ。
側から見たら一見滑稽な攻撃方法だろうが、今の俺の体はこいつらの身長から推測して箱の横幅が1m強ある。
重さはわからないが、体を起こした時に周囲に響く音を出すくらいはあるし、推定70kgほどだろうか。
そして俺は全力の跳躍で2〜3m程飛んでいる。
先程から何度か少女の体から骨が折れる音が聞こえてる、もう少し、もう少しなんだ…!
度々魔術師が俺にスキルで攻撃してくる。
炎だったり雷だったり氷だったりと多彩な属性を使ってくるが、肝心の威力が足りないように感じる。
俺にダメージを与える程度はあるが、有効打にはなってない。
「あ…そうか、ここ封魔の迷宮…」
魔術師が消え去りそうな声で何かをボソリと呟いた。
俺は血を吐き始めた少女を終わらせるために、力を入れて大きくジャンプする。
少女に落下し、バキッ、と何か大きな骨が折れたのが聞こえる。
少女が大きく血反吐を吐いた。
《レベルが1から3に上がりました》
《ステータスが上昇しました》
《称号【聖女殺し:Lv--】【英雄殺し:Lv--】を得ました》
《スキル【聴覚強化:Lv1】がLv2になりました》
脳内にまた言葉が情報として直接与えられる感覚。
なんかレベルだがなんだか言ってるが、こっちが先だ!
魔術師に向き直る。
「嘘…セスティア様?」
絶望と恐怖に染まった顔で俺の下敷きになってる少女を見てる。
俺は魔術師の前に立つ。
反応は無い、口元でぶつぶつと何かを話してる。
俺はゆっくりと口を開けて魔術師の体を噛みちぎった。
《レベルが3から4に上がりました》
《ステータスが上昇しました》
またこのメッセージのようなものが届く。
そのメッセージによってハッとする。
自分の起こした惨劇を振り返る。
あたりは血まみれで無残な死体が温かいまま、転がされている。
い、今…俺がこれをやった、んだよな?
悪寒が走る。
確かにやらなければやられる状況ではあった、だけどこれはあまりに…惨い。
俺は何をしてしまったんだ。
「うぅっ…」
バッと声の方を振り返る。
最初に噛み付いた男が手をついて起き上がっている。
こいつまだ生きて…!
思考が塗り替わる。
こいつを殺さないと。
狙いを定めて跳躍する。
狙うは頭だ。そこに全体重を一気にかける。
起き上がる男の頭に向かった落ちる。
バキバキと頭蓋骨の割れる感覚が伝わってくる。
《レベルが4から6に上がりました》
《ステータスが上昇しました》
《スキル【跳躍:Lv1】がLv2になりました》
な、なんだ今の感覚…まるで突然考えが曇って殺さなければいけない思考に取り憑かれたような…
俺はどうしちまったんだ…?
《称号【勇者殺し:Lv--】を得ました》
メッセージが届き、疑問が浮かぶ。
別の意味で、俺の思考が塗り替えられた。
ん?え、ちょっとまて?
《称号【伝説を屠る者:Lv--】【人類の敵:Lv--】【魔物の英雄:Lv--】を得ました》
《称号【ダンジョンの厄介者:Lv1】がLv8になりました》
再び、体に悪寒が走る。
頭が潰れている男の装いを確認する。
白を基調として所々青いラインで装飾がされている衣装を纏い、腰にはスリムだが意匠のこらしてある剣を携えている。
………
他の冒険者たちの方もチラッと見やる。
……俺、勇者パーティ殺しちゃった?