17 ギルマス達の憂鬱(中編) ☆セレネ視点
「久しぶりだなセレネ」
書類が整理されて置かれている机に肘をついた男が言う。
その柔らかい笑みはいつも人を安心させてきたが、悩みでもあるかのように眉に少しだけ皺が寄っている。
「この前のギルド総会以来?」
そう返しながら向かい合って置かれた椅子に座る。
今回は私たちが共有するその悩みについて話すため、顔を合わせている。
「さて…何から話そうか…」
彼…昔の冒険者仲間で現アルバーナの冒険者ギルドのギルドマスター、グルギョイは難しそうな顔を作って言葉を詰まらす。
無理もない、今回の議題はおおよそ私たちだけで決められる規模のものではない。
ギルドマスターとは名の通りその街の冒険者ギルドのトップである。
冒険者ギルドは集まった魔物の討伐依頼や植物の収集依頼などを適正なランクの冒険者に振り分け、こなすことで依頼主からの報酬金を渡す、いわば冒険者と依頼人の仲介が一番の役割である。
他に冒険者のランク付けやパーティ登録なども行なってはいるがパーティ登録は完全にローカルなため、積極的な利用者は少ない。
重要なのはランクで、そのランクを示す証を持っていると他のギルドでもそのままランク帯にあった依頼を受けれる。
冒険者のランクは「初級」から始まり、「中級」「上級」「塔級」「砦級」「城級」となっている。
中でも「塔級」から先は冒険者の中でもエリートで、「上級」と「塔級」の間では越えられない実力差がある。
さらに「塔級」以上ともなれば、ほとんどの冒険者ギルドで名を知られており、塔級冒険者はその街にいるだけで多少なりとも街全体に影響を及ぼす。
それだけ塔級冒険者は影響力があり、それを束ね管理するギルドはこの世界で重要な役割を持つ。
トレリカとアルバーナは姉妹都市として互いに栄え、アルバーナは城砦都市とも言える規模である。
そんな都市のギルドを管理する2人のギルドマスターでも頭を抱える難題。
勇者の死。
勇者が死ぬことはそう珍しいことではない。だが今回の勇者は異例である。
勇者と「英雄称号」を持つ勇者の仲間とされる、戦士、聖者、魔導師も同じく殺された。
魔王軍幹部を誰も殺せずに、だ。
歴史上、ここまでの事態は発生したことがない。
歴代勇者は全て、少なくとも幹部の1/3を倒している。
このままでは人類はフルパワーの魔王陣営と「英雄」の力を持つ人が誰もいない状態で戦うハメになる。
「お前も事態がどれだけマズイかわかってるだろう」
グルギョイがしばらくつくんでいた口を開く。
「あぁ…しかもよりによって今代の勇者は…」
「なぁ、俺は教会が勇者の力を使って何かを企んでいたのはなんとなく知ってるんだが、あいつらは具体的に何をしようとしてたんだ?」
少し責め気味にグルギョイが聞いてくる。
「そんな前のめりになるなよ…話すから」
「勇者は自由を司る人間の中で、最も運命を縛られた人物だ。教会…勇者教はその力を逆手にとって、最大限有効活用しようとしてたのよ」
「有効活用?運命の縛りはどんな力の奔流よりも強固だ、それを利用するだなんて正気じゃないな」
「でも、それで魔王と人類の抗争を今代で終わらせられるとしたら?」
グルギョイが目を見開く。
「子と、父と、聖霊…勇者教は勇者の力を使って神力を顕現させようとしてたのよ」