16 ギルマス達の憂鬱(前編) ☆セレネ視点
かつて水の都トレリカにて「水姫」として名を馳せた冒険者がいた。
巧みに水魔法を扱い、味方の支援を一手に担い、時には華麗にモンスターの集団を捌く。
彼女は当時の街の冒険者のみならず街人からも好かれていた。
しかし、とある日彼女は受けた依頼先で《セラフィノ》という魔竜と出くわす。
当時《塔級》の冒険者だった彼女とそのパーティはAランクモンスターであったその魔竜に手も足も出ず、彼女以外の冒険者は全員死んだか大きな外傷を受けた。
だが魔竜の気まぐれか、彼女だけは無傷で生かされた。
【ザナニマ】というスキルをかけられて。
彼女は目を覚ますと体が萎んで、子供になってしまっていた。
魔力は据え置きだったが、今まで振っていた杖も、身につけていたローブも、気になっていた先輩の冒険者も、全て身の丈に合わないものになってしまった。
それが、ちょうど20年前の出来事。
現在彼女はトレリカの冒険者ギルドのギルドマスターを務めている。
そんなセレネは今トレリカを離れ雪の中馬車に揺られている。
隣町、「アルバーナ」へと向かう最中だった。
勇者殺しの第一容疑者が捕獲されたという情報を聞き、そのモンスターと、勇者のことを話し合うためアルバーナのギルドマスターと会合をする手筈となっている。
馬車の中から外の雪景色を見る。
確か、あの依頼を受けて子供の体になったもの、雪が止んだ直後の、こういう天気だった。
アルバーナのギルドマスター、彼の名はグルギョイ。
歪な発音だが、彼の故郷だと一般的な名前らしい。
20年以上前、何度か依頼を共にこなしたことがあり、ギルドで顔を見みかければ声をかけ、互いに一言二言話して目的が合えば一緒に依頼に行くような関係だった。
常にパーティを組んでいたわけではないが、パーティメンバーの次によく一緒に戦った覚えがある。
恰幅のいい男で、あまり格好がいい顔ではなかったが、やさしい笑顔で味方への攻撃を前線で受け止めていたタンカーだった。
セラフィノ討伐に向かった際も、彼はいた。
生き残ったのは私と彼だけだった。
彼はセラフィノに片腕を食いちぎられ、冒険者生命をたたれてしまったのだ。
私たちはそれから別々のギルドの元冒険者としてギルドの職員になりお互いギルドマスターとまで上りつめた。
私の知り合いの中では最も長い付き合いのある人物だ。
そんな彼とこれからとても、とても憂鬱な話が始まろうとしていた。