14 英雄のいない世
地下倉庫の扉が勢いよく開け放たれる。
「そのミミックとやらはどこだ!」
「えぇっと、このへんの確か…」
そう言いつつ冒険者らしき人物が少し当たりを見渡す。
「あれぇっ、たしかにここ辺りに…」
しかし探せども、宝箱は姿を見せない。
「す、すみません大神官様…逃げられたかもしれません」
「なんだと!?」
大神官と呼ばれた中年の男は驚愕する。
「クソっ、これだから冒険者は…なんでこんな雑なやつしかいないんだ」
「すいません…」
「探せ!すぐにだ!」
「はい!」
そう言って二人とも扉を開けっ放しで部屋を出る。
…………行ったか?
部屋の隅に移動して変化していたタンスから宝箱に戻る。
扉の方になるべく静かに移動する。
少しだけ体を出し箱の隙間から外を見る。石造の廊下から、おそらく地下だろう。
元の世界で教会に地下聖堂があるものもあったから、そこから派生した道か?と推測。
どうしたもんか…とりあえず部屋から出れたが、さっきの冒険者や別の人が来る、戻ってくる可能性は大いにある、動きづらいが部屋から出れたこのチャンスを逃したくない。
待ってろよカーバンクル。
廊下の奥に上りの螺旋階段が見える。
滑稽なことだが、ミミックにとって一番の弱点だろう。
飛び移動するに段差そのものは向いてるとも言えるが、階段は体重のかける面積が少なすぎて転がり落ちるだろう。
螺旋階段のように傾いていればさらに飛ぶときに回転しなきゃいけない、無理ゲーだ。
廊下の反対側を見てみる。
上方向に続く梯子だ。
梯子か…流石に階段の方がまだよし…と普通のミミックなら思うが、幸運なことに俺は特別だ。
梯子の前まで行き、上にトラップドアが見える。
少し前の発見したことだがミミックというのはどうやら体内収納のようなものを持っているらしい。
そこに勇者一行の武器などを保存してある。
どういう仕組みかは知らないが実際の体積以上のものが入りそうだ。
異空間にでもなってるのか不気味だが、大食いタレントもありえない量のものを食べる。胃拡張すればミミックでもできるのだろう。
…流石に辻褄合わせが適当すぎるか。
だがそれはまた後で考えよう。
重要なのはそこにしまってある物。
体内から幾何学的な文様の描かれた金属の円が取り囲む水晶を取り出す。
あのダンジョンを脱出するときに冒険者から奪って使った浮遊装置だ。
水晶に魔力を注ぎ、梯子に沿って浮かぶ。
上まで着くと舌で取手を掴み少しだけ開ける。
【超音波】を使い周囲に人がいないことを確認し、外に出る。
ここは建物の裏路地か?何で教会にこんなもの…
これも考えるのは後だ、カーバンクルの手がかりを探さないと。
【魂のリンク】でカーバンクルの大雑把な位置は把握できる。
といっても今向いてる方向にいるか、近いか遠いか、ってくらい大雑把だが。
ギリギリまで表通りに近づいき、物陰に隠れて聞き耳を立てる。
「勇者が死んだってほんとかよ!」
「大神官様!お言葉を!」
教会の前に人が集まっている。
勇者が死んだって情報はそんなに早く出回るのか?
一応体を全部喰ったんだぞ?
いや、それから結構時間が経ってるから長時間帰ってきてないからそんな噂が立ってるのか?
教会も大変なことに、何しろ根も葉もここにいるからな。
そういえば物置にいたときに盗み聞きした内容もそうだが、教会…というより特定の宗教が勇者に関係あるのか?そうじゃないとここに集まる理由がないもんな。
勇者ってやっぱり手に紋章見たいのがついて生まれるのか、それとも胸に7つの傷がある某男のように後天的に選ばれるのか。
どちらにしろ気になるのは例えば“二代目勇者”みたいな存在が現れるのかどうか、何だよな。
個人的に興味あるし、現れるんだったら「先代の仇ー!」とか言って襲ってこないだろうか。怖い。
教会脇から移動し別の通りの人たちの話を【聴覚強化】で聞き取る。
「勇者が死んだならよ、魔王ってどうなんだ?」
魔王…!やっぱこの世界にいるんだな。
「そりゃあ、次の勇者が戦うんじゃねぇか?」
「でも今回の勇者は相当若死だぞ、それに兄弟もいないらしいし、どう継承されるんだ?」
「勇者に血筋は関係ないって聞いたぞ?」
「えっ!?そうなのか!?」
「勇者がいないんじゃもう“勇者の街”を名乗れねぇな…宿に来る観光客が減っちまうよ」
「このままじゃキャラバンとの契約も無くなってしまう…」
誰も、勇者一個人の心配や哀悼はしていなかった。